一方その頃
時系列的には主人公と別れた後です
「フレイヤ、ありがとう。もう、大丈夫」
リセルは涙の後を拭う。
「落ち着きましたか?」
「ええ。心配かけてごめんね」
「い、いえ! そんなっ」
「ふふっ」
「も、戻りましょうか」
「そうね。彼にはいろいろと聞きたいことがあるしね」
リセルは一人で立ち上がる。
街に戻る彼女の後をフレイヤが付いて行く。
「遅かったな」
「グラムさん」
「スッキリしたみたいだな」
「はい。フレイヤのおかげです」
「わ、私は何もしていませんよっ!」
リセルに褒められてフレイヤは照れる。
「それでグラムさん。彼は、どこにいますか」
「あいつはどっかに行った」
「え。ど、どういうことですかっ!?」
「二人ともあいつと一旦距離を置いたほうが良い」
「もう大丈夫です! 心の整理はつきました!」
グラムは焦っているリセルの様子を見て、自分の判断は正しかったと思った。
「姉さま、落ち着いてください」
フレイヤが宥める。
グラムはその関係を不思議に感じた。
「フレイヤちゃんは割りと平気そうだな?」
「は、はい」
「...気づいてないのか」
「何がでしょうか?」
「あいつの話が本当だとして、なんでアストに憑依出来たと思う?」
「そんなの分かりませんよ」
つまり、とグラムははっきりと言葉にする。
「アストは死んでたんじゃないか?」
「え?」
「オレが部屋に駆け込んだとき、アストは後頭部から血を流していた。長いこと冒険者をやっているから分かるが、あの量は普通に死ぬぜ」
すぐに回復の魔法を発動したら血色が戻って、そのあと目を覚ました。
しかし奇妙だった。強姦未遂の一件で激怒してしまい忘れていたが、【回復】の魔法で血は戻らない。
「な、なにが、言いたいんですか?」
「あーだからな。アストは一度、本当に死んじまったんじゃないか。そうするとあいつの憑依っていうのにも話が繋がるだろ。憑依するために新鮮な肉体を贄にするなんてありそうな話だろ」
この世界にも当然だが生贄文化がある。
生贄を捧げて神に災害を沈めるよう祈る。
その中には悪魔や魔物の召還信仰もある。
もちろん生贄は元に戻らない。
「そん、な。それが本当なら、私が、弟さんを殺したんですか...」
フレイヤの顔から血の気が失せる。
もうリセルの方を見れない。
どういう顔をしているのか怖くて見れなかった。
丘で調子の良い事を言って励ました本人が弟殺しの犯人なんて笑えない。
「可能性の話だがな」
釘を刺す。
しかし一度考え始めだすと坂から転がり落ちるように悪い方へ悪い方へと考えがいく。
(そ、そうだ。あの時、怖くて本気で押し飛ばしてしまった。弟さんはLv1で脆弱。対して私はLv28。頭から多量の血が出ていた。やっぱり...私が)
「そういう訳だ。三人の立場は非常に危うい。いろんな可能性を考えて、その上で話し合うしか解決できない」
騎士に突き出したところで信じてくれない。
第三者が判決できる一件ではない。
だからこそあらゆる可能性を熟慮した上で、当事者同士で話し合うしかない。
時間を置いて冷静になる必要がある。
グラムはそう考えていた。
「とりあえず今日はもう寝るぞ」
「で、でもっ! アストは、あの人はどうするんですか!?」
「あいつには当面の資金を与えている。今頃どっかの宿で休んでいるはずだ」
グラムにとってアストは他人以上知人以下。
大事なリセルやフレイヤとは違う。
だから必要以上の面倒をみない。
金をやってギルドも薦めた。名前の使用も許可した。
たっぷりと世話をした。むしろ親切し過ぎたぐらいだとグラムは愚痴る。
「そう、ですか...」
「それに日も暮れちまった。街の外でヘルバウンドが出没しているし、とっとと寝ちまおう」
「そんなっ! ヘルバウンドがいるなら放っておけない」
ダンジョンから抜け出した魔物が野を徘徊するのはよくあることだ。
しかしヘルバウンドとなると珍しい。
Lvは最低でも20を超え、一般市民だけでなく駆け出しの冒険者でも歯が立たない魔物なのだ。
黒い犬であるヘルバウンドは群れで行動し、狙った獲物を地獄まで追うとされる。
追跡と集団での狩り、不意打ちを得意とする。
「気持ちは分かるが夜の森は危険だ。それに冒険者ギルドから既に依頼が出てる。誰かが討伐に向かっているさ。今日はいろいろあって疲れているだろ。今回は他の奴らに任せよう」
「ぅう...わかり、ました」
「ほら、フレイヤちゃんも」
「...私が、私が、殺したの...違う、そんな、違う」
グラムは頭を掻く。
二人の背中を押して、無理やり部屋に戻す。




