ティア・グローリー
四十九階層(最上層)
そこにいたのは。
「紅の雀...いや、孔雀か?」
胴体は雀、首から上は孔雀の魔物だった。
サイズは全長で一メートルと大きい。
【鑑定】を使う。
鑑定結果
名称:ブレイズスパロー
状態:健康
種族:魔物
説明:【紅の魔法】【紅蓮】を扱う。
「【紅蓮】か...さっきの【紅染】の威力を考えると、警戒しすぎるってことはないだろうなぁ」
「また抜け道的な攻略法があるのでしょうか?」
「リセルちゃん、さすがに楽観的だろ」
グラムに同意だ。
ひとつ下の階層はいわば挑戦者の精神を試した。
なら次は物理的な能力を試してくるはずだ。
なにせこの上は五十階層。
おそらく終点だ。
「ここからは情報がない。各自思いついたことがあればなんでもいい、言ってくれ」
「まずこの広間の形が...」
歪な形の部屋だ。
上から見るとひょうたん型になっている。
真紅の雀がいる場所がもっとも幅が狭い。
奥の扉へ行くためには雀の真横を通らないといけない。
「あとは照明がありませんね」
フレイヤが付け足す。
この部屋、まったく照明器具が設置されていない。
あるのは紅の雀だけだ。
あの魔物が煌々と燃えているので、真っ暗闇にならずに済んでいる。
「前回の羊と同じ色ですね」
ティアが言ってくれた要素は重要だと思う。
あれと同系統であるなら【紅蓮】しか使わないタイプとなる。
ある一点において頂きの能力。
それは【紅蓮】の強さを容易に想像させる。
「他に意見はあるか? マコトはどう思う」
【紅蓮】に雀、というか鳥と来たら。
「不死鳥、フェニックスって知ってるか?」
「ん。フェニックスは知らんが、不死鳥はどっかで聞いたな」
「ワタシは王国で聞いたことがあります」
「思い出した。王国の旗がそうだったな」
不死鳥の伝説はあるのか。
かつて王国建国時に空を舞い、太陽になった伝承だと教えてくれた。
「なるほどな。照明が一切無いことにも繋がるな」
「ああ。おそらくこの階層は熱に耐える試練だ」
「―――耐えるだとっ!!! ワタシに任せてくれっ」
水を得た魚のように、えらく元気になった。
《マギウスの巨盾》
「さぁワタシの後ろへ!」
巨盾の幅は人が二、三人並べるほどだ。
ステータスが高い俺が最後尾。
グラムはティアの真後ろでサポート。
間に挟む形でリセルとフレイヤ。
「フレイヤ殿は【水の魔法】で温度を下げてください!」
「はい!!」
「俺も使えるから交代で使うよ」
高温対策を行う。
【身体強化】【魔法防御上昇】【耐久上昇】【火の耐性】
【魔法防御上昇(大)】【耐久上昇(大)】【全体性】
皆で中腰になって盾の範囲に入る。
「では、いきますっ!!」
ジリジリと、外壁伝いに摺り足で移動する。
そして真紅の雀との距離が五歩ほどになった時。
ついに紅の威力が発揮された。
【紅の魔法】【紅蓮】
ドッーーーーーーーーーーーーーーン!!
「「「「―――――――――――!!!」」」」
聴覚が飛んだ。
これは、爆発か!?
太陽のような高温ではない。
星を生み出す爆発だった。
【紅の魔法】【紅蓮】
それはとてもシンプルに強力な爆発を起こす魔法。
単純ゆえに恐ろしい。
衝撃で外壁の膜が震えている。
俺が全力で蹴った時と同等!? いや、もっと上か。
ドッーーーーーーーーーーーーーーン!!
な、もう一回だとっ!!
違う。
相手は不死鳥だ。
自爆して蘇生する。そしてまた自爆する。
あと何回耐えれば勝ちとかではない。
ドッーーーーーーーーーーーーーーン!!
盾に守られているのに衝撃が飛んでくる。
これに耐えて進む階層。
さらに爆心地の真横を通らないといけない。
ドッーーーーーーーーーーーーーーン!!
「ティア大丈夫か!?」
「―――」
声が聞こえない。
当たり前だった。
目の前でビルの爆破解体をしているようなモノなのだから。
【伝達】
「ティア大丈夫か」
「っ!? はい、もちろんです!」
さすが防御ガン振りの勇者だった。
「進みますっ!」
摺り足で紅の雀へと近づいていく。
爆発は続いている。
一秒に一度の頻度で【紅蓮】が発動している。
一歩。
一回一回が俺の全力に匹敵している。
さらに近づく毎に衝撃は増し、それだけの威力を受け続ければ当然限界はすぐにやってくる。
「おいティア盾がっ」
「む!? もっと集まってください!!」
二歩。
まるでおしくら饅頭だ。
《ガルドラの頑盾》
巨盾の後ろに頑盾が出現する。
サイズがかなり小さくなって一人分の大きさになるが、その分耐久が上がる。
三歩。
よしっ! あと一歩進めば横を通れる。
汗が噴出す。
爆発の熱が部屋に篭もる。
フレイヤが水を使い、周辺の温度を下げている。
それはサウナ。
いっきに体内の水分をもっていかれる。
長くなると脱水症状で眩暈を起こすぞ。
さらにフレイヤが風を生み出してくれているおかげで呼吸が可能であるが、もし魔法がなければ大変なことになっていた。
脱水か酸欠か。
どちらにせよ意識が乱れれば魔法の制御が難しくなって足元がふらつく。
そしたらおしまいだ。
四歩。
ついに真横を通り抜ける。
「ティアよくやった!」
目と鼻の先には爆心地。
それを横目に部屋の奥へと向かう。
そして多重爆発部屋を抜けた。
扉まで全員が到達すると【紅蓮】は止まった。
ブレイズスパローは紅の靄となった。
「ふぅー」
階段の途中で休憩する。
みんな汗だくだった。
「ティアがいなかったらヤバかった。ありがとな」
グラムが言い、俺達も続いて感謝した。
「これがワタシの、仕事ですので...」
「どうした...ん!? 手甲をとれ!! いや皮についてんのか! マコトっ!!」
「【再生】」
ティアに魔法をかける。
爆発の熱を受けた盾。
それを持ち続けた両手は熱せされて、酷い有様だった。
「お、おおー。マコト殿、ありがとうございますっ」
火傷跡は消えて、元に戻る。
「むしろ感謝するのは俺達だ。ありがとう」
「いえいえ。これがワタシなのですっ」
勇者は最前で最善を尽くす。
その心意気が後ろの仲間を強くする。
「とりあえず休憩だ。水分補給と怪我は【回復】と【再生】を使え。MPが満タンになったら行くぞ」
五十階層へ。
「最後、ですかね」
「だろうな。万全の状態で挑むぞ」
小休止をとる。
「そんなに【再生】を使ってMPは大丈夫なのですか?」
フレイヤが聞いてきた。
「MPは高いからな。それに自動回復とか頻度上昇のおかげで十秒で800回復するんだ」
「...羨ましいです。私は一分で300です」
あ、やばい。
「(マコト君...)」
「(...すまん)」
ジト目で怒られた。
またフレイヤが自虐の殻に篭もってしまう。
でも、こんな時は。
「フレイヤ殿っ! ワタシは一分で500です!」
追い討ちしやがった。
「どうですフレイヤ殿。盾使いに負けた気分は?」
死体蹴りしやがった。
「魔法使いが攻撃魔法を使えない勇者に負けるなんてどんな気持ちですか?」
「.........悔しい、です」
「聞こえません!」
「.........」
「どんな気持ちですかっー!!!」
「もっー!! 悔しいですっ!! 当然ですよッ!?」
「あ、そうですかー」
一気に冷めやがった。
「もぉっ!! 何なんですかっ! まったく!!」
フレイヤがどれだけ怒っても、ティアは適当な返事しかしない。
「(ティアさん、すごいですね。さすが勇者様です)」
「(だな。あれなら大丈夫だ)」
内に向かった怒りを外に向けた。
大声で叫ぶのはストレス発散になる。
結局フレイヤは五分ほど憤慨し、その後ティアの意図に気づいて感謝していた。
こうして一時間ほど休憩した。
そして挑む。
《赤尖塔》の最後へと。
五十階層(最上階)
そこは今までと打って変わって、直径三十メートルほどの円形が白を基調としていた。
床には傷一つなく、磨かれている。
天井は高い。
三角錐状の巨大な笠があり、それを支えるのが数十本の柱。
柱と柱の間は開いており、外の光景が見える。
雲の上、青空が広がっていた。
見上げた先。
巨大な笠は縦に長く、天辺はまだかなり上だった。
しかし階段はなく、ここが最上階なのは確実だ。
人が辿り着けない天に近い場所には大鐘楼があった。
まるで教会だ。
いや、荘厳な雰囲気は聖堂と言える。
その中央に、それは―――いた。
真紅。
ドラゴンが横たわっていた。
塔を守るのがドラゴンって...絵になる。
薄気味悪いほどの、神話的な幻想さがあった。
ドラゴンは東洋の細長い型ではなく、西洋の胴体が太いタイプ。
【鑑定】
鑑定結果
名称:プロミネンスドラゴン
状態:睡眠
種族:魔物
説明:【紅の魔法】【真紅】を扱う。
鑑定の魔法発動が合図となった。
背後の登って来た階段が閉じられた。
「...ボス戦は逃げられない、ってか」
笑えない。
退路は断たれた。
塔を守るドラゴンと勇者一行。
死闘が始まる。




