赤尖塔『上層』
「Dルートだ」
中層までの魔物が多くなく、上層以降は他と比べると弱いとされているルートだ。
「前回は敵と盾を交えず上に行けたんですが、申し訳ありませんが今回はご協力お願いしますっ」
『勇者の撤退』と呼ばれる世界を激震させた一件。
その時には集まった冒険者達の実力に合わせた担当階層があった。
最高戦力を消耗せずに最上層へと運ぶためだ。
今回は集まった冒険者がゼロ。
必然、下層から力を出さなければならない。
それをティアは謝罪した。
「仕方ないよティア。俺が片付ける」
こういう時のために武装魔法を新しくしたのだ。
「おいおい。冒険者をあまり馬鹿にするな。ほれ見ろ」
グラムが、くいっと顎でDルートの階段を指す。
そこには顔を見たことが無い、初見の冒険者達がいた。
「ようグラムさん。今回はあなたも一緒に勇者様と挑むって聞いて駆けつけたぜ」
「はっ。お前、怪我はもう治ったんだな」
「ああ! だから25階層まではオレ達に任せな。すでに志を同じくする奴らが片付けている途中だ」
男は愛嬌と憎たらしさが混じった笑みを浮かべる。
「まぁ、そのすまねぇ。オレ達だと25階層まで限界だ。そこから先は―――」
「ありがとうございますっ!」
「おわっ勇者様!?」
「ウェルター殿達のご好意、確かに受け取りましたっ」
「...オレの名前、覚えていたのか」
「もちろんですっ。共に戦った仲間なのですから」
「ふはっ。ははっ。さすがだよ勇者様! あなたなら行ける! あなただからこそ行けるはずだ」
「頼まれたっ。ワタシは応えよう!!」
グラムに肩で小突かれた。
「な? 冒険者って奴らは不器用なんだ。盛大な見送りだろ。花なんか撒かれるよりよっぽどマシだろ」
「...もう勘弁してくれよ。何回謝ればいいんだよ」
だったら始めから...。
それは気を使って出来ないのか。
「さあグラム殿、リセル殿、フレイヤ殿、マコト殿。いきましょうっ!!」
「おう」「ああ」「うん」「はい」
ウェルター達に先導されて階段を登る。
道中には多くの冒険者が魔物を倒していた。
扉を開け、閉じないように湧いた魔物を倒し続ける。
「がんばってくだせぇー!」
「今度こそ、今度こそっ!!」
「任せたぞぉお!!」
オルニアンと違い、言葉遣いの悪い応援だったけど、気分は悪くなかった。
二十五階層。
「ここで待っててくだせぇ。おら、お前ら行くぞっ」
「「「おおー!!」」」
ウェルター達のパーティーが挑む。
傷を負いながらも掃討してくれた。
「ありがとうございますっ」
道中と同じくティアが代表して感謝する。
「【回復】はいらねぇ。そんな魔力は上で使ってくだぜぇ」
開いた扉をくぐる。
「踏破してくだせぇっ!!」
俺達は頷き、上層へと足をかけた。
二十六階層までの階段を登っている途中。
「ここからはワタシが前に立ちますっ」
「それがいいな。あとマコト」
呼ばれたので顔を向ける。
「あの銃って奴で無双しろ。ここまではウェルター達の想いを潰さないように気を使ったが、ここからは全力を出せ」
「グラムの見込みでどこまで行ける?」
銃の試射は見せた。
長いキャリアを持つグラムなら最上層付近まで知っているはずだ。
「四十七までは行けるはずだ」
「なっ!?」
驚愕したのはティアだった。
「なっ、なっん、ですとぉおお!?」
「ティアが盾になり、マコトが側面にでも周って一撃。これで大概いけるはずだ」
無理なところは事前に教える、と言った。
さらにその無理な階層も戦法を少し変えれば倒せるのだそうだ。
「前に話したよな。上層は正々堂々だと」
「ああ、だけど強いんだろ?」
「それは一般の水準だ。様子見の時に実感しただろ」
「そうだった」
「危ねぇ所はティアがいる。それでも億が一があれば、今度はオレ達の出番って訳だ」
ちょうど良い、ステータスを見せ合え、とグラムが提案する。
「それは良い。まずはワタシから見せましょう!」
ティア・グローリー
称号『勇』 役割:盾使い
職業:冒険者 階級:特級
Lv84
HP 2502/2502 MP 1854/1854
物攻 0 物防 2698
魔攻 0 魔防 2874
俊敏 100 耐久 3021
武装魔法
壱 《マギウスの巨盾》 弐 《巨象の厚鎧》 参 《ガルドラの頑盾》
支援魔法
○【物理上昇Lv50】【魔法上昇Lv50】【俊敏上昇Lv27】【耐久上昇Lv50】
→【身体強化Lv99】
→【物理防御上昇(大)Lv1】【魔法防御上昇(大)Lv1】【耐久上昇(大)Lv2】
○【HP回復Lv50】【MP自動回復頻度Lv50】【異常回復Lv50】
→【HP自動回復上昇Lv61】【MP自動回復上昇Lv16】【異常自動回復Lv32】
○【火の耐性上昇Lv50】【水の耐性上昇Lv50】【木の耐性上昇Lv50】【土の耐性上昇Lv50】【金の耐性上昇Lv50】
→【全耐性Lv62】
○【察知Lv50】【探査Lv50】【把握Lv50】【精査Lv50】【隠匿Lv50】【霧消Lv50】【剥取Lv50】【伝達Lv40】【指示Lv26】【裁縫Lv10】
→【探知Lv62】【地図Lv20】【隠蔽Lv1】【鑑定Lv14】【解体Lv3】
○【停止Lv50】
○【範囲拡大Lv50】【対象拡大Lv50】【規模拡大Lv50】
→【指定魔法Lv26】
生産魔法
〔水〕〔生活水〕〔食肉〕〔家〕〔家(簡易)〕〔テント〕〔飲み水〕〔布〕〔綿〕〔HPポーション〕〔MPポーション〕〔毒薬〕〔痺薬〕〔乱薬〕〔皮〕〔紙〕〔包丁〕〔鍋〕〔椅子〕〔テーブル〕〔木皿〕〔ナイフ〕〔フォーク〕〔シーツ〕〔魔除け香〕〔木盾〕〔鉄盾〕〔銅盾〕〔青銅盾〕〔皮靴〕〔針〕〔コップ〕〔櫛〕〔袋〕etc
「...防御ガン振りっていうか、攻撃能力が本当に0だ」
「称号『勇』の効果ですっ。攻撃方面が0になる代わりに防御面での能力上昇値が増大し、習熟度もあがります」
攻撃を捨てる代わりに『升』並みの防御能力を得られるのか。
『升』並とは言ったが、これでも『升』の方が高い。
おそらく『勇』は5-8倍ほどだ。『升』は10倍。
やっぱり『升』強すぎるな。
「俺のは方はこうなってる」
試射の時から成長していないステータスをティアに見せる。
「..................」
絶句。
「そうなるよな」
「ですよね」
「気持ちは分かります」
グラム、リセル、フレイヤが同情していた。
「...これは強いですね。ですがっ! 『人類最強』はワタシです!」
勝ち誇った笑みを浮かべている。
きっと防御方面では上だからだ。
「マコト殿の強さは言ってみれば『魔物』の強さですねっ!」
「その言い方はさすがにムカつくぞ」
「むっ! 大変失礼しましたっ。初めて見た強大なステータスだった故に...」
「マコト。オレはティアに同意するぜ。人類の強さは繋がりだ。個の力は魔物って言うのはわかり易い。なにより教訓として、な」
連携を忘れるな、オレ達はパーティーだ。
そう言いたいのだ。
「ティアからの忠告、心に刻んでおけ」
グラムがまとめ、そして上層の最初、二十六階層の広間にやってきた。
出現したのは臙脂色の猫。
《巨象の厚鎧》
「ワタシがいきま―――」
《L96AWA》
ズドンッ。
戦闘終了。
「―――すぅ...」
ティアが走り出す姿勢のまま固まっている。
「さっきの良い話が無駄になったな、マコト」
「グラムが本気を出せって言ったから...」
まぁーこうなっちゃうよね。
素材も魔石も採らずに上へ向かう。
ここからはグラムの予想通りの無双展開となった。
二十七階層。
柘榴色のワニ。
ズドン。
二十八階層。
黒緋色の狐。
ズドン。
二十九階層。
弁柄色の猿。
ズドン。
三十階層。
東雲色の象。
ズドン。
「よし。一旦休憩だ」
グラムの提案で、三十階層の扉地点で座る。
「一時間ぐらいだな」
「結構休むんだな」
「一気に上がると体調が狂うんだよ」
高山病。
気圧の低くさに体を慣らす必要がある。
逆に言えば、この三十階層でそこまでの高さに来たと言う事だ。
能力が強化されているから疲れないだけで、本来なら富士山を登っているに近いはずだ。
「〔象テント〕」
グラムが生産魔法でテントを作る。
クルクルと丸めて持って来たシーツが材料だ。
支える柱は象の骨だった。
「三十階層でよく休むから登録してあるんだよ。中は簡易のトイレになってる」
そう言うのも必要になってくるよな。
他に必要なのだと。
考える。
食事は持ち込みや魔物の肉で間に合うし、飲み水は...―――っ!?
トイレを一瞥する。
「水は魔物の血からだぞ、マコト」
「し、知ってるし! というかなぜ俺に言うのかなぁー、ははー」
「「「「............」」」」
視線が冷たい。
顔に出ていたらしい。
いや、仕方なくね。声に出してないだけマシだろ。
その後、しばらく話しかけてもらえなかった。
「じゃ、燃やすぞ。リセルちゃん」
作ったテントを焼却処分する。
俺とティアでしばらくは戦えそうなので、リセルのMPを使っても回復すると見越してだ。
三十一階層。
朱色の蜘蛛。
ズドン。
三十二階層。
宍色の蟷螂。
ズドン。
三十三階層。
肌色のゴリラ。
ズドン。
三十四階層。
桜色の蝶。
ドドドドドド。
三十五階層。
小豆色の食虫花。
ズドン。追加で【炎の魔法】。
三十六階層。
曙色の馬。
ズドン。
三十七階層。
朱鷺色の狼。
ドドドドドド。
三十八階層。
茜色の鳶。
ズドン。
三十九階層。
橙色の蛙。
ズドン。
四十階層。
鴇羽色のセイウチ。
ズドン。ズドン。
「一発じゃ死ななくなったな」
「だが二発で倒せるんだ。楽が出来てラッキーだぜ」
「ワタシもようやく仕事が出来ましたっ」
ティアが喜ぶ。
ここまで接近すら出来なかった。
それでも毎回きちんと全力ダッシュしていた。
四十階層で初めて一発で仕留められず、あせった。
「ありがとうティア。助かったよ」
「なんの! マコト殿の活躍に比べればこの程度たいしたことではありませぬっ」
セイウチの体当たりを《ガルドラの頑盾》で防いでくれた。
おそらくグラムの【震衝】に匹敵するほどの威力だったが、ティアは危なげなく持ちこたえた。
やはり強かった。
「(それに対して私は...)」
フレイヤの小声が聞こえた。
いつもなら聞こえないが、ここは窓の無い《赤尖塔》の広間。
声は反響して思った以上に大きくなる。
フレイヤも聞こえてしまった事に気づいて、あたふたする。
「あ、いえ! 今のは、その...」
「フレイヤ殿!」
「勇者、さま...?」
「ティアですっ」
唾がかかりそうな程、近づく。
「フレイヤ殿、心苦しいか?」
「...はい」
「迷惑をかけている。頼ってばかりで居心地が悪い。そうですね?」
「...はい」
「たえてくださいっ!」
「.........え?」
きょとんと呆ける。
「その苦しさ、罪悪感にたえてくださいっ! そしてそれをバネにしていつか応えてください! これこそ人類の強さですっ」
ティア、いや勇者は言う。
「ワタシからフレイヤ殿に頼みましょう。その苦しみにたえてください! フレイヤ殿が戦闘でワタシ達を頼る。その代わりツライ気持ちにたえる事を頼みます」
言葉遊びに近い。
言葉はいくらでも言い繕え、行動でしか誠意は示せない。
だというのにフレイヤの顔にあった暗さは薄れていた。
勇者の人徳、か。あんなに自信満々に言われると、そうなんじゃないかと思ってしまうな。
押し売りセールスに近いかもしれない。
「不満そうだねマコト君」
「まー実際、問題は解決してないだろ。心の持ち様が変わっただけで、階層を上がって行けばまた暗くなるぞ」
「そしたらティアさんがどうにかしてくれるよ」
フレイヤは勇者様に頼んだの、とリセルは笑う。
頼ればティアは応える。
精一杯、頑張ってくれる。
「そうしたらリセルはどうなんだ?」
ここまでフレイヤと同じく戦闘に入っていない。
同じく心苦しさを感じているかもしれない。
「だから私はマコト君に話しかけているでしょ?」
「...ははっ! ありがとう。息抜きが出来た」
「どういたしまて」
必要以上に力が入っていたかもしれない。
リセルの顔を見たら緊張がほぐれた。
この階層で夜を明かした。
グラム、リセル、フレイヤが率先して見張りをした。
とはいえ、俺が貸した《M60》で即殺だったけど。
銃の仕組みが分からない三人のために湧き位置に向けて立脚で固定しておいた。
敵が出たら引き金を引く。
それだけだったから三人にも使えた。
こうして俺は安全に睡眠を―――。
ドドドドドドドドド。
「おいマコト。これ楽しいなっ!!」
「無駄撃ちするな馬鹿グラムっ!!」




