壮行会
グラム宅の裏庭。
「なんですか、それ...?」
リセルが俺の持つ物を指差す。
グラムとフレイヤも興味を示している。
「銃」
ドンっ!
「「「...」」」
試射を見て三人が一斉に顎を外した。
「前世での武器だ。あいにくと魔法なんて便利なものがない世界でさ。こういう武器が発達したんだ」
見えたか、とグラムが横にいる二人に聞く。
「...見えませんでした」
「...姉さまと同じく」
「...オレもだ」
驚く三人。
「速度と威力、射程。この三つにおいて最強だ」
「それ、攻撃の全てじゃねぇか...」
「いいや。この世界には魔法がある。不足の事態や思わぬ能力は十分に考えられる」
『赤尖塔』の様子見をした際に肌で感じた。
不意打ちをはじめとした魔物の多様性。
これから生活するため、『赤尖塔』へ潜ることになるだろう。
万全の体制を敷くべきだ。
「というわけで至近中遠対応のオールレンジ銃装備だ!!」
「「「...」」」
俺にとって銃は常識の内だ。
しかしグラム達は外の外。
呆然としている。
この様子だと今すぐ銃を広めるのは無理か...。
俺が《ショートソード》を《ブラックショートソード》に出来なかったように。
でも将来的には広まっていくに違いない。
根拠は称号だ。
手に入れた称号を開く。
称号詳細説明
名称『砲』
効果:砲撃の攻撃力+100
条件:弾を撃つ事に精通する
称号詳細説明
名称『銃』
効果:MPを消費し瞬間的に銃撃の攻撃力上昇(消費MP=上昇量)
条件:『砲』を習得し、銃を学び十全に使いこなす
こんな称号が用意されていたんだから、この世界にもいずれ銃は生まれたんだろうな。
俺はちょっと早めただけに過ぎない。
「これがあればダンジョンなんて余裕なんじゃねぇか」
グラムの言葉に曖昧な返事をしておいた。
披露会が終了したので冒険者ギルドに向かうことにした。
家を離れる際。
「いってくるぜ」
誰もいない家に向かってグラムが挨拶した。
言葉は返ってこない。
何も言ってやる事が出来なかった。
聞かなかった事にするしかなかった。
.........。
......。
...。
「グラム殿っ! それにリセル殿にフレイヤ殿、おおーマコト殿もいるのですねっ」
鬱陶しい勇者と鉢合わせしてしまった。
「グラム殿。私とダンジョンに行ってくれませぬかっ!!」
「......」
頭を下げた。
「頼みますっ!!」
「......」
誠心誠意にお願いされた。
あれ、断らないのか?
グラムを見ると、目があった。
「マコトはどう思う」
判断に迷う。
「リセルちゃん達は?」
「私は良いと思いますよ」
リセルが賛成を投じた。
前も勇者の誘いを断りづらそうにしていた。
「私は姉さまと一緒です」
フレイヤの意思は固い。
アストの一件で、その想いは誓いへと昇華したのだろう。
「マコト。オレはよ、危険は極力避けたいんだ。だけどよ、つい、期待をしちまってんだよ」
真っ直ぐに目を言われた。
誰に期待しているか、なんて言葉にされずとも分かる。
様子見の帰り、グラムは勇者を加えた俺達なら「もしかしたら」と呟いた。
そしてグラムは妻と娘を魔物に殺された過去がある。
魔物に対して、いまも胸に燻る熱がある。
そう言われたなら答えないといけない。
「わかったよ。俺も賛成だ」
「おおっー!! ありがとうございますっ」
勇者が泣いて喜んだ。
そう言われると嬉しい。
「目指すは頂上っ! リーダーはグラム殿にお願いしたい。撤退の判断もお任せしますっ」
「いいのかよ? お前はあの一件があるから二度目の撤退はやばいだろ」
風評的な問題。
勇者というブランドの信用が堕ちる。
「私は最前線での盾、そしてしんがりですっ! グラム殿の判断を頼りにしておりますっ」
信用していた。
「分かった。やべぇと判断したら躊躇なく撤退だ」
こうして『赤尖塔』の頂上を目指すことになった。
.........。
......。
...。
頂上を目指すなら準備は万端にしなければならない。
完全な休養日を一日設けて本日、前人未到のダンジョンの最上層に挑む。
「おはようございますっ」
エルフのくせにプライドがないのかと思うほどの低姿勢。
今日もティアは絶好調だ。
「今日はよろしくおねがいします!」
ティアと合流し、《赤尖塔》に向けて歩き出す。
都市は静かだった。
「なんかあっさりで肩透かしなんだが」
「マコト君は花びらを撒かれての出陣が良かったんですか?」
「いや、そこまで大げさじゃなくてもいいんだけど...」
見られている。
遠目から、距離を開けて覗かれている。
人々からの視線で針のむしろだ。
本日俺達がダンジョンの攻略に行くことは知られている。
ギルドに一昨日のうちに報告してあるからだ。
「『がんばれー』とか『生きて帰ってこいよー』とかさ、そういうのもないの?」
「前回はありました。それこそ花びらも撒かれ、お祭りのようでしたっ」
ではなぜ今回はこうなのか。
群集の中に、先日ティアにビンタをして水をかけ、あげく桶を投げたおばさんがいた。
彼女と同じ目をしている人々が散見できた。
「また失敗しにいくのか。そう思われているのでしょうね」
リセルが肩を落とす。
「今回はグラム殿達もいるので、もう少し期待されていると思っていたのですが、これは予想外ですね」
これではティアのモチベーションが上がらないだろう。
彼女は、人々のために命を賭けて挑もうというのにこの扱いなのだから。
「いいえ、これでいいのですよ。ワタシはたえます」
そして応えます、と力強く言う。
「勇者のお姉ちゃん!!」
群集の壁から小さな女の子が駆け出してきた。
ティアが腰を降ろし、目線を合わせる。
「頑張ってね!」
たった一言。
何かをプレゼントしてくれる訳でもない。
「ああ、もちろんっ!」
受けるティアも一言。
女の子は笑顔で帰っていく。
「よしっ!! やる気が出てきましたっ」
ティアのボルテージは上がった。
「一人の応援で随分だな」
グラムがからかう。
「一人では無いようですね」
フレイヤがふっと笑い、指差す。
冒険者ギルド支部、そこにはジャココを初めとした職員が並んでいた。
「「「「勇者様ご一行のご活躍を期待しておりますっ!!!」」」」
パチパチパチパパチパチ。
職員から始まった拍手が冒険者に、そして市民に移っていく。
「...ぉおおー!!」
拍手の波は広がっていき、オルニアン全体に広がる。
「みなさんのご期待に応える為、今度こそ踏破しますっ!!」
ティアが自身の武装魔法で《マギウスの巨盾》を掲げる。
それは数人を一度に守れる程に大きな盾。
ワァァァアアアアーーーーーーーーーー!!!!
拍手と喝采が最高潮に到達する中、堂々と行く。
「「「皆様の無事のお帰りをお待ちしております!!」」」
ガンッ!!!
門を守る騎士達が槍で地面を叩く。
数多くの声援に背中を押されて《赤尖塔》への道を行く。
「どうだマコト、これでも物足りないか?」
「グラム...意地悪な質問はやめてくれよ」
失礼な事を言ったと謝罪する。
「だけどさ、だったら最初から盛り上げてくれてもいいじゃないか?」
「それは無理なんです」
ティアがはっきりと否定した。
「マコト殿も気づいたでしょうが、拍手をしなかった者、周りに合わせて仕方なく声援を送る者もいました」
いた。
「ワタシの力不足で先月命を落とした、もしくは重傷を負った家族の方々でしょう。まだ喪に服す期間ですから」
四十九日は日本の文化だけど、この世界にもそういうのがあるのだろう。
そこには誠意が必要であり、よそ者の俺は理解と敬意を払わなければならない。
だったらもう少し時間を置いてから出発すれば良いと一瞬思ってしまった。
だが、その間に誰かが魔物に襲われて死んだら。
それをティアは許せない。
応えるために全力を尽くさないと気が済まない。
「始めに声援がなかったのは、市民の皆様がそういう方々に気を配ったからです」
勇者を応援したいが、隣には先月家族を失った人がいる。
拍手を送りづらかった。
それを打ち破ったのは慣習に疎い子供。
続いたのは冒険者という身内であるギルド職員。
数が増えれば遠慮していた市民も合わせる。
そして声援の波は大きくなっていった。
それが真実だった。
「ワタシを悪く思う方も当然います。ですからたえます」
ティアは自分の進む道を信じていた。
「勇者様ご一行到着っ!!」
《赤尖塔》の入り口には多くの人がいた。
きっとオルニアンでは声援を送りづらいと思った、熱心なファン達だろう。
「頑張ってください!」
「まずは命を大事にしてください!!」
「あなた達に期待しております!!」
手続きはは不要だ。
一昨日、グラムが済ませている。
これだけ注目を浴びているのだから、サインや目的階層などの記入は要らない。
「マコト、あそこにいる綺麗な女性が分かるか」
「おいグラム。こんな時に物色なんて...」
「ちげぇよ! あの人の旦那はオレも知ってる冒険者だ。先月命を失った」
なのに応援してくれていた。
オルニアンにいたおばさんのような人もいる。
でも、当然、旦那の無念を晴らしてほしいと期待している者だっている。
「応えなければならぬっ!」
ティアの信条に少し共感した。
「「「皆様のご帰還を心よりお待ちしております!!!!」」」
最後に最大の声援を受けて《赤尖塔》へ入った。
「さて、踏破しますかっ!!」
「やる気が出たんですね」
「ああ! 俺達のおかげだと泣き喜ばせたくなった!!」
さあ行こう。
向かうは前人未到のダンジョン。
そこに俺達の名を刻もう。




