勇者
様子見で『赤尖塔』25階層まで行った翌日。
休日となった。
「マ、マコト君...あのね、一緒にどこかへ行かない?」
「ごめんリセル。ちょっとやりたいことがあるんだ」
「そ、そっかー。じゃあ、仕方ないね」
断腸の思いで誘いを断った後。
落ち込んだリセルに代わり、フレイヤがやってくる。
「ご馳走はなしです」
足を強く踏まれた。
ご馳走...?
それにあの態度。
やはり、そうなのかもしれない。
だけど今はやらないといけない事がある。
これからダンジョンに通う以上、死の危険性を減らすために一刻も早く装備を揃えたい。
「なぁフレイヤ。リセルの好物ってなに?」
「レオグの実です」
用事が済んだら買って帰ろう。
.........。
......。
...。
目的地に向かう途中、冒険者ギルド前を通る。
「あんたのせいでウチの旦那はっ―――!!」
バチーン。
良い音で勇者が叩かれていた。
「すみませぬっ!」
頭を下げている。
「しかもまた挑むつもりなんだって! いい加減にしておくれよ!!」
バシャーン。
今度は桶に入った水をかけられた。
「本当にすみませんぬっ! ですが! それでもワタシは―――」
バコンッ!
最後に桶を投げられた。
「勇者なんてやめておくれっ! まったく...」
おばさんが肩を怒らせて行ってしまう。
その背中に向けて勇者はひたすら頭を下げ続けていた。
「【火の魔法】で乾かそうか?」
「む? 確か昨日グラム殿と一緒にいた...」
「えっと、マコトの方でいいか。俺はマコトだ」
「ワタシは勇者のティアだ」
「とりあえず乾かすぞ」
冬のように寒い訳ではないが、そのままでは風邪をひく。
調整した魔法ならドライヤー代わりになる。
「申し訳ない。ご好意だけ受け取らせてもらう。これはワタシのせいなのだっ」
「...そう言うなら、仕方ないか」
「ご理解頂きありがとう! この悔しさに堪えねばならんのだ。決して甘えてはならぬっ」
ああー。なるほど、こういうタイプの勇者か。
非力さを痛感している。
いま、手伝われると罪悪感が薄れる。
それが嫌なのだろう。
「それでは失礼する! また頼みに行かねばならないからなっ」
「どうしてそんなにダンジョンに挑むんだ? 踏破の報酬は不明なんだろ?」
伝承ではダンジョンが手に入る、だったか。
「マコト殿、ダンジョン外で魔物に襲われて亡くなった人がどのぐらいか知っておりますか?」
知らない、と首を横に振った。
「ダンジョンで命を落とした冒険者の三十倍にも達します」
「...そんなにいるのか」
「これは王国が把握している限りですので、実際はもっと多くなります」
俺自身、襲われた一人だ。
ダンジョンの魔物討伐が少なくなると、湧きポイントが拡大する。
だからダンジョンの入り口に砦を作れば良い、という話ではない。
「古の教えでは踏破すればダンジョンを管理できるようになります。素材を安定的に供給でき、周辺地域の安全が約束されます」
「でも、根拠はその教えとか伝承だけだろ」
「だとしても挑めば魔物を倒します。それだけでも誰かを助けられますっ!」
意思の硬さを感じた。
「いまはどのぐらい集まったんだ?」
「...ゼロです」
それは...また。
「一ヶ月前と期間があいていなからな。みんなそんな早く立ち直れないんだろ」
「ですがっ! この間にも魔物が人を襲っているかもしれません」
「ならティア一人で行けば?」
グラムは『人類最強』だと褒めていた。
俺と同等に考えても、中層までは楽に行けそうだ。
「ワタシには攻撃手段が―――ないのですっ!」
「...あー」
「武器は要りません。勇ましさは堪えることですっ。そうすれば仲間が応えてくれます!」
RPGのタンクだ。
ひたすら敵の攻撃を受けて、味方の援護をする。
それは勇者の一つの在り方。
「そういう事なら応援してるよ」
「ありがとうっ! でしたらワタシと共にダンジョンに行きましょう」
「ごめん。用事がある」
「そこをなんとかっ!」
唾がかかった。
「いやだから―――」
「頼みますっ」
逃げる。
「あっマコト殿!」
「―――」
「お願いしますっ」
「―――ああもう、本当に用事があるんです!」
「そうでしたかっ。それは大変失礼しました。で、用事はいつ終わり―――」
勇者から逃げ出した。
全力で駆けた。
グラムが面倒くさそうに対応していた理由が分かった。
なんとか逃亡に成功した。




