フレイヤ・ユーフェルミナ
※注意※ 視点が変更されています
私、フレイヤ・ユーフェルミナは部屋の整頓をしていた。
姉さまが弟さんのお墓を作ると決意なされ、彼の私物を部屋中から探す事になりました。
いまごろマコトさんと一緒に北部の丘にいることでしょう。
ご一緒したかったのですが、弟さんと私は仲が良くなかったので初回はお邪魔かと思い遠慮しました。
次回以降はお墓参りに付いて行くつもりです。
「ふぅー」
アストの私物がなくなってすっきりした部屋を見て寂しいと思えない私はやはり同行しなくて良かった。
「そういえばここを利用してもうじき四年になるのでしたね」
その事の方が心に響きました。
故郷を失い、姉さまに助け出していただいた。
グラムさんはオルニアンに一軒家をお持ちです。
私達に家を持ったらどうだ、と何度か提案されました。
でも。
こわい...。
かつての記憶が消えない。
姉さまはこんな私を迷惑に思わず、一緒に宿で過ごしてくれます。
弟さんのこと、馬鹿に出来ないんですよね。
私だって姉さまに頼りきりだ。
でも弟さんとは違い、手伝う努力を怠っていない。
それが決定的な違い。
あら? これは...。
部屋を整頓して本棚も綺麗にした。
数少ない本の中から一冊手に取る。
『姫と勇者様』
絵本だ。
よく姉さまから聞かされましたね。
美しい姫には婚約者がいました。
ですがその男は影で悪逆非道を繰り返す鬼畜でした。
憂う姫を城から連れ出したのは勇者様。
姫は地位を失い、勇者も誘拐の罪で追われました。
追っ手や魔物を退け、ついに他国へ逃亡を果たした二人は幸せになりました。
「つらい過去を忘れるほど幸せにするよ」
それが勇者の締めの言葉です。
金や地位よりも愛を、と説いた絵本でしたね。
懐かしい。
本棚に戻す。
タイミングを同じくして扉の外から音がする。
この階段を登る音は、姉さまですね。
思ったよりも早い帰りに嬉しくなる。
きっと弟さんとの別れで気分を落としているはずです。
私が癒してあげなければ。
あっ!? 姉さまの好物レオグの実が切れてる! 私の馬鹿っ。
もう手遅れだ。
姉さまが部屋に戻られた。
「......た、ただいま」
「? おかえりなさいませ、姉さま?」
あれ。顔が赤いです。熱を引かれたのでしょうか?
最近無理が続きました。
疲労が溜まったのでしょう。
「お疲れのようですね。今日はもうお休みになられては?」
「そ、そうね」
姉さまがベッドに腰掛ける。
私は買出しに行こうとし、呼び止められました。
「あのね、フレイヤ...ちょっと相談したいことがあるの」
...珍しい。
頼られて嬉しい私は二つ返事で椅子に座ります。
「あの...面と向かっては恥ずかしいから...こっちでいいかな」
姉さまはベッドをパタパタと叩き、横に座るようアピールする。
もちろん逆らう気はないので腰掛ける。
「さっきね...アストのお墓を作ったんだけど、その時にね」
そう前置きして丘であった出来事を話してくれました。
.........。
......。
...。
「本気の勝負だって...そう言ってくれたの」
聞き終えて、私はマコトさんへの評価を上げた。
姉さまのフォローをしてくださり、感謝している。
今度ご馳走しようと決めた。
しかし分からない。
なぜ私にこの話を。
そもそも相談ではなかったのか。
「あ、あのね。フレイヤはどう思う?」
「...え。そうですね。マコトさんは良い人ですね」
「そうじゃなくてね。私も最初はそう思ったんだけど...よくよく考えてみるとね」
口を一度閉じる。
両手の人差し指をちょんちょんと付けたり離したり。
そして思い切って言い出しました。
「これって―――プ、プロポーズだよねっ!?」
「............は?」
「だ、だってね! マコト君がプライドを賭けた勝負だよ。死ぬまで諦めないよ! ということは勝つまで...私がアストを忘れるまで、つ、付き合って、くれるってことでしょ!?」
「......」
「しかも本気で忘れさせるって...攻撃するって...。私、何されちゃうのかな!? も、ももも、もしかして...キスとか」
ああそう言えば『姫と勇者様』のラストシーンはキスでしたね。
姉さまは今まで弟さんや私のお世話で忙しかった。
恋愛の経験はない。
そこに大好きな絵本と似た台詞を言われて勘違いした。
マコトさんは異世界人です。
『姫と勇者様』は知りません。
深い意図はなく、単純に元気付ける目的で言ったのでしょう。
「フレイヤどうしよっ! へ、返事は早いほうがいいよね!」
「落ち着いてください姉さま」
「髪大丈夫かな、枝毛ないよね。ねぇフレイヤ、どこか変なところあるかな」
「しいて挙げれば心が変です」
「うそっ!?」
えらく悲しんでいます。
冗談ですよ、と明かすと笑顔になりました。
ハァ...どうやら惚れてしまったようですね。
姉さまのご寵愛を賜ることへの嫉妬心は少なからずあります。
ですが姉さまのご様子や、マコトさんの性格を考えれば喜ばしいことです。
私は応援することにしました。
「そ、それにねフレイヤ...私とマコト君って、血が繋がってるじゃない」
十三歳の私には厳しい相談ですよ姉さま。
「神父様は兄弟で結ばれると悪魔の子が生まれるって言ってるけど、本当なのかな!?」
「あんな人たちは信用しなくていいですよ」
かつて私の村を救わなかった神の言葉など聞く必要ありません。
「そうなの...じゃあ、大丈夫なんだ...ふふ」
こんな嬉しそうな姉さまを久々に見ました。
マコトさんになら任せられますね。
「よし! じゃあ返事してくるね」
「ダメです! マコトさんは求婚した訳ではありません」
「そうなのっ!?」
「姉さまの早とちりです」
「な、なんだぁー...」
「マコトさんの事、好きなんですね」
「......うん。そう、みたい」
「私は応援します」
「っ! フレイヤー!!」
私は恋のアドバイザーになりました。




