人類最強
ガラッ。
岩の動く音で数時間ぶりに意識が覚める。
ガラッ。
聞き間違いかと思った。
ガラッ。
いや、間違いじゃない。
でも体が動かない。
もう限界だった。
ガラガラガラッ。
今度の音は大きかった。
残った肌に日差しの暖かさが移る。
もう夜は明けていた。
「おい大丈夫か!」
「...ああ、なんだ、またか」
グラムの声がした。
知ってる。
またあの熊が来たのだ。
【異常回復】
「しかっりしろ!!」
「...あ、れ」
まだ声が聞こえる。
それに霧が...かかってない。
「なんて酷い怪我だ! いま治療してやるからな! 気をしっかり持て!」
本当、なのか。本当に、グラムさんなの? 信じて、良いの?
暖かい光に包まれる。
この暖かさ、覚えてる。だって最初に受けた魔法なんだから。
「グラム、さん...」
「...アスト、なのか!?」
ははっ。そうだよね。
こんなひどい状態だ。
身元なんて分からないよな。
あ、でもそうだ。
「〔ステータス...オープン〕」
アスト・ヴェルホロウ
称号『升』 役割:剣士
職業:平民 階級:五級
Lv31
HP 1402/1402 MP 1527/1527
物攻 877 物防 952
魔攻 1056 魔防 899
俊敏 772 耐久 1154
武装魔法
壱 《ショートソード》 弐 《登録なし》 参 《登録なし》
支援魔法
○【物理上昇Lv50】【魔法上昇Lv50】【俊敏上昇Lv28】【耐久上昇Lv50】
→【身体強化Lv74】
○【HP回復Lv50】【MP自動回復頻度Lv50】【異常回復Lv50】
→【HP自動回復上昇Lv81】【MP自動回復上昇Lv79】【異常自動回復Lv56】
→【再生Lv1】
○【火の魔法Lv50】【水の魔法Lv1】【土の魔法Lv1】
→【炎の魔法Lv99】
→【紅の魔法Lv2】
○【毒の魔法Lv1】【乱の魔法Lv1】
○【火の耐性上昇Lv50】【水の耐性上昇Lv50】【木の耐性上昇Lv10】【土の耐性上昇Lv23】【金の耐性上昇Lv10】
→【全耐性Lv17】
○【察知Lv50】【探査Lv50】【把握Lv50】【精査Lv50】【隠匿Lv50】【霧消Lv50】【剥取Lv1】
→【探知Lv99】【地図Lv31】【隠蔽Lv46】【鑑定Lv13】
○【移動Lv1】【停止Lv1】
○【切の技術支援Lv50】【打の技術支援Lv2】【刺の技術支援Lv50】
→【斬の技術支援Lv74】【穿の技術支援Lv31】
○【範囲拡大Lv38】【対象拡大Lv12】【規模拡大Lv50】
→【指定魔法Lv3】
生産魔法
〔なし〕
「「「――――っ!?」」」
息を飲む音が三つした。
もしかしてリセルとフレイヤもいるのか...。
「アスト!!」
この声はリセルか...はは、そんなに強く抱きしめないでよ。痛いよ。
「良かった。見つけられた」
フレイヤも嬉しそうだ。
だからこそ心苦しい。
「...すみません...俺、アストの体を、こんなにしちゃって」
「何を言ってんだ馬鹿野郎っ!!」
ペチ、と頬を優しくはたかれた。
「お前は良くやったんだ。謝るなよ。むしろオレこそすまん。すぐに見つけてやれず」
「...仕方、ないですよ。そりゃ、生き埋め、ですから」
体温も下がって、心音も小さい。
もはや仮死状態で、さらに生き埋めだ。
【探知】の魔法でも見つけるのは困難だったに違いない。
「リセル...ごめ―――」
「謝らないで! グラムさんの言うとおりですよ。その体をみればわかります。命がけでアストの体を守ってくれたんですね。本当に―――ありがとうございます!」
より強く抱きしめてくれる。
「あなたの『おかげ』です」
ぽた。
...冷たい。これって。
ぽた。
「ありがとう、ぐすっ、ございますっ! 本当に、ぐすっ、ありがとうございます!」
「...泣いて、る?」
「泣いちゃ、だめですか」
「ダメじゃ、ないよ...」
ああ、母さん。本当だ。俺、いますごく、嬉しいよ。
「俺こそ、ありがとう。リセル、グラムさん、フレイヤ」
この気持ちを伝えたい。
「皆さんの『おかげ』で助かりました。本当に...ありがとうございます」
ああ。なんで涙がでないんだよ...おかしいだろ。
誰かの『おかげ』で泣ける人間になろう。
俺のちっぽけな矜持。
胸が張り裂けそうな想いがあるのに、爛れた眼窩では涙を流せない。
ふざけるな...たった二つのプライドなんだよっ。母さんからもらった大事なプライドなんだよっ!
治れ。
治れ!
治れよ!
ああもうっ! 治らないんだったら、もういっそ新しく再生でもしろよっ―――!!
【再生】
「―――なっ」
「嘘...!」
「...すごい」
光だ。
ひと筋の光が確かに見える。
真っ暗闇の世界に光が差し込んだ。
それは加速度的に広がっていき、暗闇を晴らしていく。
「...はっは。はっはは! 見える。見えるぞ!」
驚いているリセルの顔が―――。
呆然とするグラムの顔が―――。
唖然とするフレイヤの顔が―――。
滲んで見えた。
「みんなの『おかげ』です! ぐすっ。ありがとうございますっ!!」
「「「え? 再生は君(お前)の手柄でしょ(だろ)」」」
............。
「あれ? そうなの」
「「「うん」」」
「......」
ステータスを開く。
「本当だ。【再生】覚えてる...というか、能力が四桁いってるんですけど。もしかして俺...」
「最強だ」
「無敵ですね」
「頂点」
ふつふつと喜ぶが湧き上がってくる。
子供じみた気持ちだけど、やっぱり最強は男心を刺激する。
「【再生】があれば腕や足もどうにかなりそうだな」
「そうですね。私たちもこれからは多少無理ができますね」
「「「え?」」」
「どうしました?」
「リセルちゃん、それって...」
「姉さま...」
「リセル...」
ごほん、と背筋を正してリセルが言う。
「あなたの、本当の名前を聞かせてください」
「俺は―――坂上誠。今度ともよろしくお願いします」




