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目覚め④

 医務室で唯一埋まっていたベッドの住人は消え、部屋にはケルススとセネカ二人の男が取り残された。

「ずいぶんと疑われているな」

 ケルススがどこか他人事のように口を開く。

「それが監査局の仕事だからな、加えてあの状況……、私でも内通者を疑うさ」

 セネカは諦めまじりにつぶやく。

「それで?お前さんの考えは?」

「襲撃者はともかく、飛空艇墜落の原因を作ったのはペクテンの内通者だろうな」

 セネカが声を抑えて答える。

「根拠は?」

「飛空艇墜落の第一報がでたときペクテンの連中はわかりやすく狼狽した」

「普段はふんぞり返ってギルドの報告を待つばかりの役員どもが、やたらと慌てて物資の心配ばかりしていたよ。よほど大事なものを運んでいたらしい」

「物資の搬入リストは?」

「確認したよ。特に目を引くものはなかったが自社製の飛空艇だ、()()を紛れ込ませるのは造作もない」

「他企業にとって、この空中大陸に持ち込まれるとまずい()()を潰すために飛空艇ごと破壊した。わざわざリスクを呑んだ後詰まで用意してな、それができるのは物資の中身を知るペクテンの内通者だ」

 ケルススが大きなあくびをする。

「一から十までお前さんの妄想じゃないか、そもそも()()ってなんだ」

「三大企業による資源争奪戦は大陸中心部では既に小競り合いの様相を呈している。本来の目標である幻獣討伐を差し置いてな」

「その状況を打破できる()()さ、たぶんな」



「空中大陸に上陸するには厳重な審査をパスする必要がある。また、同大陸内の全調査ベースには監査局員が配置され、いつだれがどこで、どんな依頼(クエスト)を発注・受注したかを共有できる。逸脱した行動をとれば即孤立、それが今後どんな結果を生むかは誰でも予想できる」

 リハネに連れられ医務室を後にし、調査ベース内を足早に進んで行く。

 すれ違う人々は皆、冒険者や傭兵だろうか、目を輝かせ活気に満ちている。

 一方、彼女は深刻な表情を浮かべ、声量を落とし自分にだけ聞こえるように顔を近づける。

「それを踏まえるとあの襲撃者の存在と行動はやはりおかしい。状況から見て怪しいのはペクテンだけど、ギルドも白とは言い切れない。とにかく隙をみせないことが大事ね」

 しばらく歩くとリハネが一つのテントの前で立ち止まる。ここら一帯だけ人の往来が少ない。

「ここが監査局の事務所。狭いけど少しの間付き合って」

 リハネは遠慮なくテント入口の垂れ幕を開け放つ。


「リハネ、ただいま戻りました」

 彼女に続いてテントに入る。中には向かい合うデスクが2組とそこにかける職員と思われる男性3人、応接用のソファとテーブル、壁一面の棚には書類が押し込まれている。手狭ではあるが整理整頓が行き届いている。

「あれ?副局長は?」

 リハネが部屋を見渡す。確かにデスクが一つ空だ。

「企業に聞きたいことがあるって出て行ったよ、……後ろの彼が例の重要参考人か」

 眼鏡をかけた黒髪の青年が口を開く。鋭い目つきは元々だろうか。

「と言っても記憶がないのなら、なんの参考にもならないけどね」

 今度は小太りの青年が口を開く。こちらに一瞥もくれず手元の書類を凝視している。

「今はな、いつどこで記憶が戻るともわからん、その記憶次第ではどこぞの組織の毒になるやもしれないのだろう、野放しにするには危険すぎる。彼にとってもね」

 3人の中で最も年齢が上であろう男性がこちらをまっすぐに見据えている。

 彼がここの責任者だろうか。

「そのことで提案があります。彼の監視を私に一任させてください」

 リハネが突然、予想だにしないことを言い出す。

 監査局の男3人は互いに顔を見合わす。

「良いんじゃないかな、身元におかしなところもなかったし」

 小太りの男が特に気にする様子もなく賛同の意志を示す。

「まぁ、監査局員が常に付いてまわるなら、企業やギルドに対してある程度の牽制にもなるだろう」

 眼鏡の青年も異論はないようだ。……というより面倒ごとを避けているような気もする。

「君たち……、もう少し慎重に考える気はないのかね。リハネ君には悪いが彼と2人で次の便にでも乗って地上へ降りてもらうのが最善だろう」

 年配の男がため息まじりにつぶやく。

「局長。現状の空中大陸で不穏な動きがあるのは疑いようがありません。それを突き止めるのに彼の存在が今後のキーになると私は確信しています」

 リハネがまっすぐな目で局長と呼ばれた男を見つめている。

 しばし視線が交わった後、先に目をそらしたのは男の方だった。

「……わかったよ。定期的な情報共有をすること、企業とギルドの動向には常に気を配ること、以上を厳守したまえ」

「承知いたしました!ありがとうございます!」

 リハネが嬉しそうな声をあげる。

「ナハド、行こう!」

 彼女が踵を返し、俺の腕を引っ張り部屋の外に向かう。意外と力あるな。

「えっと……、どこへ?」

 部屋を出る間際、局長と呼ばれた男の表情が妙に冷めていたのが気になった。

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