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目覚め②

「ナハド!」

 突然の襲撃者から私を庇うように前にでた少年の名を叫ぶ。

 しかし黒装束二人の刃が彼に届くことはなかった。

 白羽取り。

 彼は腕を交差し、首を狙った後方からの振り下ろしを右手で、正面から胴を狙った切り上げを左手で、それぞれ刃を掴み止めていた。

 かなりの手練れであろう黒装束の二人も目を見開いている。

 その隙を逃さずナハドは右膝で正面の黒装束の顔面を突き飛ばす。たまらず放された剣を左手で刃ごと握り込み今度は左側後方にいるもう一人の黒装束の鳩尾に左の肘鉄を打ち込む。

 思わぬ反撃を受けた黒装束二人へのダメージは深いようだ。どちらも膝を折ってまともに立てず、彼をにらみつけているがその表情には恐怖の色もほのかにうかがえる。得物である剣は二本とも彼の手の内、形勢は一瞬にして逆転した。

 強い。

「お前たちは何者だ」

 ナハドは端的に問いただす。

 そうだ、ここは未踏査地区、事前にギルド・マグナルプスから聞いていた調査計画にも含まれていない場所、他の企業やギルドの調査ベースとも大きくかけ離れている。さらには飛空艇が墜落してから二時間も経過していない。

 にも拘わらずこの黒装束二人はここにピンポイントで現れた、生存者である私たちを殺す気で。あらかじめ飛空艇が墜落することを知っていなければ不可能だ。

 墜落は事故ではない?企業かギルドに内通者がいる?

 頭を回転させ、思考を張り巡らす。

 その時、黒装束の二人が目くばせで合図をするのが見えた。

 一人が砂利を握り込みナハドの顔面に投げつける。

 目潰し!?

「っつ!」

 ナハドはとっさに腕で目を覆う。その隙をついたもう一人が小刀を取り出して投げつける。

 狙いはこちらか。

 小刀の軌道は私の眉間を正確に捉えている。


 ギィン


 金属同士がぶつかる鈍い音が響く。ナハドは手にした剣で投げ出された小刀を正確に叩き落していた、視線は黒装束の二人に向けたままだ。先ほどの白羽取りといい、どんな目をしているのだろう。

 だが彼が姿勢を崩したところを見逃さず二人はすぐに起き上がり、ナハドと私の脇をすり抜け、炎上している飛空艇に目掛けて駆けていく。

「……まさか!?」

 逃げるなら森側しかないはず。つまり……。

 黒装束の二人は躊躇することなく、燃え盛る飛空艇の中でも最も火の強い場所へと飛び込んでいった。炎が揺らぎ火の勢いが少し増す、黒煙が一段と鈍い色となった。

「自害したのか、なんて覚悟だ」

 ナハドがつぶやく。

 これで、彼らの身元を突き止めるのは困難になった、残された剣と小刀も一般的に流通している武具のようだ。どこの所属かを判断する材料としては弱いだろう。

「リハネ、怪我はないか?」

 ナハドが声をかけてくれる。表情には少し影が差している。

「えぇ、大丈夫。ありがとう。おかげで助かった」



「ナハドの方こそ大丈夫?」

「強いのね、びっくりした。」

 リハネがまた健気な笑顔を見せるが先ほど見たものと比べるとどこかぎこちない。

 俺は先ほどの戦闘を振り返る。あの時の思考は支離滅裂で何を考えていたのか自分でも理解できなかったが、身体は襲撃者を撃退するための最適な反応した。記憶を失う前の自分は闘いに身を置いていたのは間違いないのだろう。

「これ以上の襲撃は無いとは思うけど用心はしないとね」

 リハネが表情を引き締めてつぶやく。


 少し耳鳴りがした気がする。


「救助をここで待つか、こちらから調査ベースに出向くべきか、どちらもリスクが…」


 キィーーーーン


 耳鳴りが急に大きくなる。

 視界が揺れ、平衡感覚を失い、その場に倒れ込む。


「ナハド!?ナハド!?どうし……」


 リハネが駆け寄りこちらに声をかけるが、それもどんどん遠くなる。

 視界が暗転し、泥の中に身体が沈んでいく感覚を最後に意識が途絶えた。

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