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106/124

106、街の新しい店、しゃぶしゃぶ屋に行く

「ちょっと、ローズ!」


「もう、いいでしょう? この話はおしまいよ。私はハロイ島に戻るわ。学園のクラスメイトに、すぐにでも相談しなきゃ」


 母は、大きなため息をついた。


「わかったわ。貴女がそう言うなら、この件は任せます。もし、他の星の者にこの国が侵略されるようなことになったら、国は消滅し、貴女の即位がなくなるわね」


「そうね。お母様が最期の女王にならないようにしてみせるわ。そのために、私をハロイ島へ逃したのでしょう?」


 私がそう言うと、母はミューをキッと睨んだ。ミューは驚いて、マリーの背に隠れている。




「ローズのママ、あたしはローズに女王になってもらわないと嫌なのぉ。それに、パパと結婚してほしいと思っているわぁ」


「マリーさんの父親というのは?」


「あたしのパパはたくさんいるの。ママが、たくさんの優秀な遺伝子を集めて、あたしが生まれたから。魔人リュックもパパのひとりよぉ。でも、パパはたくさんいるけど、話ができるママは、今はひとりしかいないの。おかしいでしょ? バランスが悪いのよぉ」


「えーっと、私には魔族のバランスはよくわからないわね」


 母は、首を傾げていた。両親は、普通は一人ずつだと反論したいのだろう。


 しかし、ママが今はひとりってどういうことなのだろう。マリーのたくさんの父親には、配偶者がいないということなのかしら。


 するとマリーは、私をチラッと見てニヤッと笑った。また、頭の中を覗いたわね。


「パパの奥さんは、あたしのママでもあるわけでしょ? でもねー、パパは変な奴が多いの。だから、側にいる女も変な人ばかりで、まともに話なんかできないのよぉ」


「強く能力の高い男に群がる女は、確かにまともな話が通じないかもしれないわね」


「でしょー? やっぱ、ローズのママっていいわぁ。よくわかってるー。だからねぇ、ローズがパパと結婚したら、あたしは嬉しいの」


 なぜか、マリーの意味不明な主張に、母は便乗しようとしているようだ。母は、彼を……魔人を手に入れたいのだ。


 二人にジッと見られて、私は居心地の悪さを感じた。



「もう、その話はおしまいって言ったでしょ。マリー、ミュー、帰るわよ」


「えー、もうっ! パパがキチンと口説かないから、こんなことになるんじゃないのぉ」


 カバンは、チラッとマリーを見たあと、母に、ひざまずき、男騎士の別れの挨拶をした。


「女王陛下、お邪魔しました。これにて、失礼」


 そう言うと、この場からスッと姿を消した。


(眼鏡がなくても、挨拶できるのね)


 私は少し驚いた。まぁ、でも、当たり前か。



「ローズ、少し冷静になって考えなさい。リュックさんを伴侶にできれば、アマゾネスは安泰だわ」


「わかっているわよ。でも、彼は私を欺いていたわ」


「はぁ。誰に似たのかしらね……私は貴女くらいの年齢の頃には、もう少し冷静に駆け引きはできたわよ」


「そんなことより、ワープワームを用意してちょうだい」


「裏庭で、すでに待機しているわよ」


「そう。では、お母様、ご機嫌よう。マリー、ミュー、いくわよ」


 私は、謁見の間の奥のテラスから裏庭へ降りた。マリーは、戸惑うミューの手をひいて、私に続いて裏庭に飛び降りてきた。ほんの1メートル程度を飛び降りるのも、ミューはコワイのかしら。


 テラスから、母の大きなため息が聞こえた。


「ローズ、貴女はなぜ、キチンと扉から出ていかないの?」


「この方が早いわ。合理的に行動しただけよ。じゃあね」


 私達は、ワープワームを使って、ハロイ島へと戻った。




「ローズ様ぁ、女王陛下が怒ってますぅ」


「ミュー、気にしなくていいわ。あれは呆れているだけよ。怒っているわけではないわ」


「ローズ、お腹減らない? 今ならどこもランチバイキングは空いているわよぉ」


 マリーは、ランチバイキングと言っているが、黄色い太陽はそろそろ沈みかけている。もう夕方ね。


 私達は、湖にかかる橋を渡り、湖上の街へと入った。


「マリー、もう晩ごはんの時間じゃない?」


(確かにお腹は減っているわ)


「じゃあ、あの店に行こう!」


「どの店?」


「新しくしゃぶしゃぶ屋ができたのよぉ、知ってた?」


「しゃぶしゃぶって何ですかー?」


 ミューがいち早く食いついた。知らない料理名には敏感ね。


「薄切り肉や野菜を、しゃぶしゃぶして食べるのぉ。お鍋よぉ」


 ミューは、首を傾げながらも、ちょっとワクワクしているようだ。しゃぶしゃぶということは、同郷の神族の店かしら?


「お腹減ってるし、いいわね、しゃぶしゃぶ」


「ふふっ、ローズなら絶対そう言うと思ったわぁ。ちょっと時代が違うんだけど、日本人だった人がやっている店なんだって〜」


「へぇ。じゃあ、神族?」


「うん、ちょっと不思議な女性らしいわよぉ」



 私達は、マリーに案内されて、その新しい店に行った。芝居小屋や、劇場があるストリートから少し入った場所にあった。


 夕食にはまだ早い時間だったから、店は空いていた。


「いらっしゃい。3人ですか。メニューは1種類しかないから、好きな席にどうぞ。すぐに用意します」


 店長らしき人は、全く笑わない女性だった。客商売としてはどうなのかしら。


 ホールの店員さんは、にこやかだった。


「いらっしゃいませ〜。この店は、初めてですかぁ?」


「うん、初めてだけど、しゃぶしゃぶ屋なのよねぇ?」


「はい。しゃぶしゃぶというのは、鍋料理のひとつでして……」


 説明を聞くのが面倒だったのか、マリーはその説明を制した。


「あたし、たぶんわかるからいいよ。料理が出てきてわからなかったら聞くわぁ」


「えっ? あ、はぁ……」


 ミューは、店員さんの話を聞きたそうにしていたが、マリーがそう言うので、断念したようだ。完全に上下関係ができているわね。ふふっ。



 出てきた料理は、しゃぶしゃぶというより、火鍋のような感じだった。大きな金属製の鍋が出てきた。鍋は三つに区切られている。

 店員さんは、そこに三種類のダシを注ぎ、鍋を置いているコンロのような魔道具に火をつけた。


「鍋、区切ってるー。どうして?」


「マリー、これ、中華料理の火鍋みたいな感じじゃない? 三種類のダシ、白、赤、透明、それぞれ何味かしら」


「えー、火鍋って何? 知らなーい」


「ちょっと辛い鍋よ。たぶん赤は辛いわ。白は鶏ガラかしら? 透明なのが、普通の水炊き用みたいな感じね」


 そして、薄切り肉が数種類と野菜がでてきた。


「えっ? 生ですよー? 調理忘れてるんじゃ……」


「ミュー、これでいいのよ。まぁ、見てなさい」


 私は、白菜っぽい野菜や、水菜っぽい野菜を放りこんだ。そして、少しダシの味見をした。うん、赤はけっこう辛いわね。


「まず、白いダシに、こうして、肉をしゃぶしゃぶして、器のつけだれにつけて食べるのよ。赤は辛いから気をつけてね。それから、熱いから気をつけるのよ」


 ミューは、こわごわ、しゃぶしゃぶして、口に肉を入れるとパァッと笑顔になった。

 マリーも、しゃぶしゃぶしてニッコニコだった。


 二人とも、赤は苦手らしく、ミューは白、マリーは透明を気に入ったようだ。いつのまにか、しゃぶしゃぶではなく、肉が大量投入され、ぐつぐつ煮立っている状態だったが。


 私は、薬味として味噌が置かれていたので、それを赤いダシに投入した。すると味がまろやかになり、私好みになった。


「この店は、この三人で来るのがいいわねぇ。好みがかち合うとケンカになりそうだもの〜」


「ふふっ、しゃぶしゃぶじゃなくて、ただのお鍋になってるけどね。でも、味噌があるなんて、嬉しいわね」


「ローズって、味覚、お婆ちゃんじゃないのぉ? あたし、味噌汁って嫌いだったわぁ」


「あら、味噌の良さがわからないなんて、マリーって子供ね」


 私がそう言うと、カチンときたのか、私好みにアレンジした赤い辛味噌ダシに、肉を突っ込んでしゃぶしゃぶしていた。そして、パクっと食べて、微妙な笑顔を浮かべている。


(ふふ、マリーって負けず嫌いね)



「いらっしゃいませ〜」


 私達が食べ終わる頃、数人の男性客がやってきた。


「うげっ、マリーがおるやんけ」


(あ、あの男……)



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― 新着の感想 ―
[一言] 次作はモフモフが主人公になるか… それか この店の女将さんが主人公だと良いな…(´ー`).。*・゜゜ 子供の頃はしゃぶしゃぶって肉の旨味が汁に流れていってしまう感じがして あんまり好きじゃ…
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