104、まさかの告白
コンコン!
「お客様をお連れしました」
ギィ〜と、扉が開かれると、所長さんがにこやかな笑顔で立っていた。マリーが手を振っているのに気づくと、一瞬、困ったような顔をしていた。
「どうぞ、お入りなさい。こちらへ」
母が、所長さんに近くに来るようにと促した。魔道具は離れていると反応しない。どこまでも疑り深いのね。
彼は、どこで学んだのか、アマゾネスの男騎士がする正式な挨拶をした。身分の高い者のいる部屋に入る際の儀礼だ。
剣を鞘ごと抜いて両手で掲げ、深々と礼をした後に、部屋に一歩、足を踏み入れた。
「あら、キチンと礼儀ができているわね」
「お初にお目にかかります、女王陛下。ハロイ島の湖上の街から参りました、リュウと申します」
これも、アマゾネスの礼儀として正しい。一歩、入ったところで名乗るのだ。そして再び、近くに寄るようにとの許可が与えられてから、指示された場所へと足を進めるのだ。
(どうして、知っているのかしら)
母は、彼のその態度に満足げに頷いた。
「近くへお越しください」
「はい、失礼いたします」
所長は、こちらへとゆったりと歩いてきた。私と目が合うと、やわらかな笑顔を浮かべた。でもなんだか、いつもとは雰囲気が違う。いつもは、もっと温和な感じなのに、目つきが鋭いような気がする。緊張しているのかしら。
彼は、母の目の前まで来ると、右手を胸に当てて、ひざまずいた。アマゾネスの男騎士の最敬礼の挨拶だ。
「ふふ、完璧な挨拶ね。楽にして構わないわ。顔を見せてちょうだい。あら?」
彼は立ち上がり、母の顔を見た。
(どういうこと? オレンジ色だわ)
「あなたの種族は?」
「私は、少し特殊な神族です」
「そう、おかしいわね。あなたの何が偽りなのかしら。何も話していない時に、魔道具が反応しているわ」
真偽を判断する魔道具は、オレンジ色に光っていた。所長が種族を言ったときは、黄緑色になったのに、またオレンジ色に戻っているのだ。
「どういうことでしょうね。それは魔道具というより、呪具ですね。珍しい道具を所有されていますね」
(えっ? 呪具?)
「これは、先代から引き継いでいる魔道具ですわ。呪具だというのは、私達が呪いを受けているとでも?」
「いえ、女王陛下、非難めいた言葉に聞こえてしまったなら申し訳ありません。私は魔道具を集めるのが趣味でしてね。呪具は簡単には手に入らないので、うらやましいと思いまして」
母は、いちいち、魔道具を確認しながら話している。一瞬、黄緑色に変わったが、またオレンジ色に戻った。
「そう。これの入手方法は伝えられていないわ。呪具だと、使っていると呪われるのかしら」
「はい、手入れをする方に耐性がなければ、エネルギーを吸収されてしまいます。弱い呪いですが、期間が長いと寿命への影響は少なくありません」
「やはり、そうなのね。いくつかの絶対的に効果のある魔道具を管理する者は、すぐに魔力が枯渇したり、倒れたりしているわ」
「定期的に、呪術士に呪い解除をしてもらう必要がありそうですね。ですが、手入れをする方が男性なら……」
「ええ。私の国アマゾネスは、女尊男卑の国ですから、男は使い捨てにしますわ」
(ちょ、なんてことを言ってるのよ)
その母の言葉はマズイと思ったが、意外にも所長さんは平気な顔をしている。
ふと、彼は私の方を見た。バチッと目が合って、思わず赤面しそうになったが、なんとか表情に出さずに済んだ。
そんな私の様子が面白かったのか、マリーがニヤニヤしている。また私の頭の中を覗いているのね。
「ローズさん、突然お邪魔してしまいました。マリーからいろいろと話を聞いて、驚いています」
「リュウさん、すみません、そうですよね」
すると、母は、やはりそうかとミューを睨んでいた。
ミューは、母に睨まれて、固まっている。
その様子を見て、彼は母の方を向き、そして、母にひざまずいた。身分の低い者が敬意を表するときの態度だ。
「女王陛下、ひとつお許しいただきたいことがあります」
「あら、何かしら? それに、あなたは神族なら、私には、対等に接してくれてもかまわないわ」
「いえ、種族に関係なく、私個人として、ローズさんのお母様にお許しいただきたいことがあるのです」
「何かしら」
「私は、順番を間違えているかもしれません。ローズさんには、まだお話をしておりません。ですが、女王陛下に先にお許しをいただくべきかと考えました」
彼は私をチラッと見て、そして、母に視線を戻した。
「ローズさんと、交際をさせていただきたいのです」
(えっ!? うそ)
母と私は、ほぼ同時に魔道具の光を確認した。黄緑色に変わった。だが、またオレンジ色に戻ったが。
「まぁ! ローズは成人した大人ですよ。わざわざ私の許可など必要ないわ」
そう言いつつも、母は嬉しそうな顔をしている。神族の彼が伴侶になると考えているのだろう。
私は一瞬嬉しくて舞い上がった。でも、そうなると、彼の人生を狂わせてしまうわ。探偵業をとても楽しそうにしているのに……。
「女王陛下、ありがとうございます。ローズさん、私のことを許してくださいますか」
「えっ? リュウさん、どういうこと?」
(許すって……何を?)
彼は、私を見てやわらかく微笑み、そして、なぜかうつむいてしまった。
(何? なんのことか全くわからないわ)
少しの間だったが、部屋はシーンと静まり返った。
そして、彼は、何かを振り切るようにパッと顔を上げた。
「ローズさん、すみません。今まで何度も打ち明けようと思ったのですが、できなかった。どんどん時間が経つにつれて、苦しくなってきました。そして、余計に打ち明けられなくなりました」
母は、チラチラと魔道具を確認していた。
私からは魔道具の色が見えた。彼はわざと、私から魔道具が見える位置にいるのかもしれない。
彼が話している間は、ずっと黄緑色だった。話が途切れるとオレンジ色に変わる。オレンジ色は隠し事……。
(何を隠しているというの?)
「私は、もっと早くに打ち明けるべきでした。そうすれば、こんなに苦しくはならなかったでしょう。こんな、感情を私は……オレは、知らなかった。知らない方が幸せだった」
(な、何? 話し方が……)
「ライトは、こんな感情を持つようになったことは、いいことだと言っているけど……でも、どうすればいいかわからなくなってきて、私は、いや、オレは、おまえのことが好き……」
そこまで話して、彼は、眼鏡に手をかけた。
そして、眼鏡を外した。
「えっ!? 嘘っ!!」
眼鏡を外すと、彼の黒髪は、サッと銀色に変わった。そして、魔道具の光はオレンジ色から黄緑色に変わった。
「オレは、おまえのことが好きになっちまったんだよ! どーしてくれるんだよ。おまえは、オレのことが嫌いなのに……」
(嘘! 所長さんは、カバンなの!?)
私は驚きのあまり、言い返す言葉が浮かばなかった。頭をガーンと殴られたような衝撃で、目がチカチカしてきたような気さえした。
「もうっ! パパ、そんな言い方しちゃダメじゃないのぉ」
マリーがニヤニヤしていたのは、このことだったの? いま、私は所長に告白された? いや、カバンに告白された? 魔人がなぜそんな感情を持つの?
私より先に、母が口を開いた。
「魔道具のオレンジ色は、そういうことだったのですね。驚きました。確か、あなたは、リュックさんでしたね」
「あぁ、久しぶりだな。いや、すまない。言葉遣いが悪いな」
「いえ、かまいませんよ。眼鏡は、魔道具でしたか」
「あぁ、変装と、あと、礼儀正しい多言語を話せるオプションつきの魔道具なんだ。ただ、偽っている感覚が半端ねーから、仕事のときはいいんだが……ローズと向き合っていると辛くなってきた」
「リュックさん、ローズの伴侶になってくださるのですか」
「女王陛下は、オレだとわかって気が変わったんじゃねーか?」
「ふふ。より一層、ローズの伴侶になってもらいたいわね」
「ふーん、なら、条件がある」
(な、何よ? 勝手に話を進めないで!)




