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103、挙動不審なミューに、真偽の魔道具

 私は、マリー、ミューと共に私室を出て、謁見の間へと移動した。私室の前にいた近衛兵数人も、私達の後ろをついてきた。


 私に呼びに来た母の伴侶……妹の父親は、私の顔を見ると嬉しそうに微笑んでいた。彼は私の武術学校の先輩で、私の初恋の相手だ。もう忘れたと思っていたのに、私はまだ好きみたいだわ。


(はぁ、気が多いわね)


 自分で自分にため息をつきつつ、謁見の間の扉を叩いた。



 コンコン!



「ローズ・シャリルが参りました」


 ギィ〜と、扉が開かれた。玉座には女王陛下が座っている。私は、謁見の間にいる近衛兵の多さに驚いた。何かの催事のときのように、両側の壁際にズラリと並んでいる。


 私が一歩足を踏み入れると、近衛兵はこちらに向き、敬礼をした。私は、真っ直ぐに玉座へと進んだ。


 マリーは、キョロキョロしながら、私の後ろをついてきた。その後ろにミューがいる。私からはミューの様子は見えないけど、きっとオドオドしているだろう。



「女王陛下、ローズをお呼びでしょうか」


 私は、母の前で、わざと仰々しく礼をした。それが、私の嫌味であることは当然、母はわかっている。


「ローズ、お帰りなさい。学園生活はどうなの?」


「それなりに楽しんでいるわ。まだあまり魔法は使えないけど、クラスメイトが教えてくれるから、そのうち、使えるようになってみせるわ」


「あら、教師ではなく、学生に教えてもらうの? なんだか、ずさんな体制なのね」


「私が所属するクラスは、そういうクラスなのよ。ミューから聞いているんじゃないの?」


「ミューは、大げさに話す癖があるからね。信用していないわけではないけれど、本人に確認するのが一番でしょう。その後ろにいる方が、貴女のお友達?」


 母は、マリーに目を移した。マリーの素性が伝わっているのだろう。珍しく、警戒した表情だ。なるほど、マリーがいるから、この数の近衛兵なのね。


「ええ、マリーよ。私が入っている寮の管理人の仕事をしているわ。いろいろとお世話になっているの」


 すると、母は立ち上がり、私達の方へと近づいてきた。そして、マリーに笑顔を向けた。ポーカーフェイスが上手いのね。


「そうでしたか。マリーさん、ようこそ。ローズがご迷惑をおかけしていないかしら」


「女王陛下、こんにちは。あたしの方が彼女に迷惑をかけているかもしれないわぁ。長話に付き合わせちゃったりしているもの〜」


「ふふ、そうですか。親しくさせていただいているのですね」


「ええ、仲良しよー。ねぇ、ローズ〜。あ、ここでは王女様って言わなきゃいけないのかしらぁ?」


 マリーは、私の方を振り返って、ニヤニヤしている。


「マリー、公式な会合ではないから、いつも通りでかまわないわ」


「うふっ、よかったぁ。やっぱり、ローズのママって綺麗な人ねぇ。噂どおりだわぁ」


(何? その噂って)


「あら、マリーさんにそう言っていただけて、とても光栄ですわ。そんな噂があるなんて存じませんでしたよ」


「地底での噂だからねぇ。あたしのママも綺麗なんだけど、地底のアマゾネスって言われているのよ。主要な魔王で女性なのは、今はドラゴン族のママだけだから」


「まぁ、そうなんですの。私達は、ある意味、知名度が高いのですね」


「そうねぇ、ふふっ、ローズが女王になったときに、あたしがドラゴン族の魔王になっていたら、楽しいわね〜。まさしく、世界は女の時代ねぇ」


「そうですわね。想像するだけで楽しくなってきますわ。マリーさんのような方とお会いできて嬉しいわ」


「私も、アマゾネスの女王陛下に、会ってみたかったの。だから、今日、ローズの里帰りについてきちゃったのよぉ」


 マリーは、母の頭の中も覗きながら話を合わせているのだろう。母が喜びそうな話題を選んでいるようだ。


 だが、母もマリーに合わせようとしているようだ。マリーの機嫌を損ねてはならないと、ピリピリしている。



「そうそう、ローズ。ミューの話では、伴侶候補ができたということなのだけど、私にいつ紹介してくれるのかしら」


(うわっ、きた……)


 母は、私とミューをチラチラと見ながら、困ったことを言い出した。ミューをチラッと見ると、オドオドどころではなく、思いっきり挙動不審だった。


「そんなことのために呼んだの? 私はそんなに暇じゃないのよ。今日の授業を休んだんだから」


 私がそう言い返すと、母は深いため息をついた。


(マズイわ。ミューの嘘がバレる)


 母は、近衛兵に何かを指示した。案の定、近衛兵は魔道具を操作し始めた。



「珍しい魔道具ねぇ、女王陛下、何が始まるのかしらぁ?」


「マリーさん、客人の前で失礼ですが、魔道具を起動させました。私達は、重要なことについては真偽の判断に魔道具を使っていまして」


「ふぅん」


「もし、ご退屈なら別室でお茶の用意をさせますが……」


「退屈じゃないよー。人族って大変だなぁと思っただけよぉ」


 マリーは、不思議そうな顔で、ジーッと魔道具を見ていた。見たことのないものなのかもしれない。



「さぁ、もう一度、聞くわ。ローズ、ミューが言っていたことは正しいことなのかしら」


(はぁ、マズイわね。言葉を選ばなければ)


「ミューから、西の国境の話は聞いたわよ」


「えっ!? そ、そう。その話もしなければと思っていたのだけど……。ミュー、口止めしたわよね」


「わっわっ、女王陛下! あ、あの、ミューは、えっと、ローズ様が……じゃなくて、マリーさんが、あの……」


(ミュー、不意打ちには、特に弱いわね)


 西の国境の話は、マリーが術をかけたことにしようと決めていたが、そうすると、魔道具に嘘だと暴かれてしまう。のらりくらりとかわさないと……。


「口止めしたのに話したのね」


「はいー。でも、さっき、ローズ様のお部屋でのことですぅ。さっきまでは、言わないように我慢していました」


 母は、チラッと魔道具を見て頷いた。魔道具は、真実だと黄緑色に光る。嘘なら赤色、隠し事はオレンジ色になる。


「そう。では、ローズの伴侶の話は事実かしら」


「ふぇっ? あ、あの、ローズ様が気に入っている人はいますが……ちょっとまだ相手にその話ができていないというか、あの……」


 魔道具はオレンジ色に変わった。ミューってば……。


「ミューの話は、嘘だったのね」


「う、嘘じゃないですぅ。ほんとにローズ様は気に入った人がいるのですー」


 ミューの絶叫で、魔道具は黄緑色に戻った。


「そう。その彼を今日、連れてくるはずじゃなかったかしら?」


「えっ? はわわ、あの、その方はお仕事があるというか、いやあの……」


 ミューの感情が大きく揺らぐと、魔道具は反応してしまう。まだ、何も嘘はついていなくても色が変わった。予測機能でも備わっているのかしら。


「ミュー、はっきりと話しなさい。魔道具がオレンジ色だわ。隠し事はできないわよ」


「ふぇっ、あの……」



 コンコン!


「女王陛下、お客様がいらっしゃいました。お約束をされていたのでしょうか」


 母の伴侶の一人が、部屋に入ってきた。


「いま、取り込み中なんだけど、約束? どこの誰かしら」


「ハロイ島で教師をしているリュウという男性ですが」


(えっ? 所長さんが?)


 だが、ミューは、テンパっていて、そのことに気付いていない。マリーをチラッと見ると、両手ピースサインだ。

 マリーが、念話で、所長をこの場に呼んでくれたのね。


「お母様、彼が、話題の人物よ」


「まぁ! すぐにこちらへ」


「かしこまりました。城門におられるので、こちらにご案内します」


 ミューは、ホッとした顔をしていた。ほんとに焦りすぎよ。


「仕事で遅れたということなの?」


「たぶん、マリーが念話で呼んでくれたんだわ。彼が来る予定ではなかったもの」


「呼んでなかったの? はぁ、ミューは、言われたことが半分しかできないのね」


 母は、呆れた顔をしていたが、ミューは、嘘がバレなかったことにホッとしすぎて、ヘラヘラしている。


(嘘がバレるのは、これからよ、ミュー……)



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