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八月五日 金曜日 (3)

 窓から転げ落ちるように室内に入ってきたのは、汗だくのアラカワだった。四つん這いになり、肩で荒い息をする。やがて顔を上げた彼は「うおっ」と声を出すと、目を真ん丸にして向かい側の壁に張り付いた。


 信じられない、といった顔。彼もオカルトに対するスタントとしては、チョーノのそれと同じだった。


 アラカワはチョーノとそれ(・・)を交互に見ると、ジャケットの内ポケットからカードケースを出し、名刺を、トランプのカード投げのように二本の指で摘み、一枚ずつ乱暴に投げた。


「ほ、ほら! お前の好きな『名前』だ!」


 名刺はそれ(・・)をすり抜けて、対極側にいるハナの足元に落ちる。黒い影の三点の穴がチョーノから逸れ、ハナの足元を向いた。


「ひいぃぃ」


 ハナはか細い悲鳴を上げる。足元の名刺には、様々なフォントで肩書きと名前があった。


『株式会社〇〇代表取締役 荒川一朗』


『フリーライター 荒川一朗』


『ウルトラメディアクリエイター 荒川一朗』


『私立探偵 荒川一朗』


 アラカワは窓から射す月明かりを背景に、その大きな闇を見た。輪郭はぼやけ、まるで白いキャンパスの上に炭で黒を塗りたくったような、そんな影の塊。それが今度は、アラカワを狙ってゆっくりと動き出した。


 チョーノは固まっていた頭を回転させた。ーーハナの悩みに興味本位で首を突っ込み、事を荒立ててアラカワを巻き込んだのは自分自身だ。ダメ人間だと思いこんでいたアラカワはキッチリ仕事をこなし、今は自分を助け犠牲になろうとしている。ーー助けなくては。どうする、どうする。何が出来るーー。


 彼は月明かりを受けてぼんやり光る、茶封筒を見た。元々彼の部屋にあったものではない。直感的に、アラカワが持ち込んだものだと思った。手を伸ばし、それを取る。深い闇がアラカワに迫っているのが視界の端に映る。


 チョーノは急ぎ封筒の中の紙を引き抜くと、目を凝らして、そこに書かれた文章に目を通した。

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