第7話 来訪者その③
翌日。夕方。今度はののが来た。
和良地のの。
高校1年の同級生のハズだが、小学生何じゃねぇかと言うぐらい小さい。
小さいと言うか、幼い。そして、俺はちょっと苦手だ。
のの「おじゃましまーす。」
一十「なにか飲むか?」
のの「飲む!」
俺は冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、
コップに注いで持っていく。
ちゃぶ台の前に座るのの。こーしてみると、本当に小学生を相手してるみたいだ。
一十「何の用だ。今日は。」
こくこくとコップを両手に持って飲むのの。
のの「なんで学校に来ないの?」
一十「AKや、つるから聞いてないのか?」
のの「うん。聞いたら、自分で聞いてこい。って。つるに何を言ったの?悲しい顔をしてたよ。」
・・・こいつは幼い、幼いが、どこか、鋭いところがある。それが俺は苦手だ。
一十「今から言うことは嘘じゃない。お前をからかってるわけじゃない。」
のの「うん」
一十「悪魔が現れて、俺にこういった、七人の人間と殺し合って、最後に生き残れば願いを叶えてくれると。」
のの「・・・悪魔!?」
ののは、ちゃぶ台に手をついて身を乗り出す。
のの「その悪魔ってどこにいるの?」
一十「俺の体の中に居て、今は眠ってる。」
のの「見たい。」
一十「おい、マスターメビウス。起きろ。出てこい。」
のの「・・・」
じっと俺を見る。真剣な目で。
一十「・・・今日は出てこないみたいだ。昨日は出てきたんだが。」
この3日4日、散々語りかけて、出てきたのは昨日の一回だけだからな。昨日なぜ出てきたのかも分からない。
が、悪魔に対して、理由を考えるのも無駄だから深くは考えないようにしている。
悪魔に整合性や一貫性、理屈を考えるのは無意味だ。そう思っているから。
のの「見たい。」
一十「っつっても、俺がコントロール出来ることじゃないからよぉ・・・」
のの「見たい。」
一十「あのなぁ。俺がわがまま言ってるわけじゃなくてさ・・・」
のの「見たい見たい見たい!!」
一十「できねぇんだって。」
のの「やだやだやだーーー!!見たい見たい!私も見たいーーーー!!」
体を後ろに放り出し、バタバタと駄々をこねるのの。
一十「お前、パンツ見えるぞ。」
寝転んで足をバタバタさせるから、スカートがめくれ上がっている。
のの「みた?」
ガバっと起き上がり、スカートを手で抑える。
顔を真っ赤にしている。お前にも恥ずかしいって感情があったんだなと思った。
一十「ピンクのしましま。」
のの「じゃあ悪魔みせて。」
じゃあじゃねぇだろ。じゃあじゃ。
ののは涙目になりながら、眉間にシワを寄せて睨んでいる。
一十「マスターメビウス、出てこい!」
俺が強く叫ぶと、俺の頭に違和感が発生する。
磁石で引き寄せられるような、奇妙な感覚。
ののの視線が上に上がっていく。
おそらく、俺の頭から、マスターメビウスが出てきたんだろう。
自分で自分の頭を見れないから、推測するしか無いが。
のの「うわーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
ののは驚いて後ろの壁まで後ずさる。またパンツが見えている。
のの「ぎゃーーーーーーーーー!!殺されるーーーーーーーーー!!!!」
一十「落ち着け。あのなぁ。お前が見たいつったから呼んだんだろ。」
メビウス「まったく、お前は毎日毎日女を取っ替え引っ替え部屋に呼んで、欲求不満なのか?」
一十「ちげぇよ!!こいつが悪魔を見たいっていうから出て来てもらったんだよ。」
メビウス「ふむ、そうか、どうも始めまして。私の名はマスターメビウス。悪魔だ。」
のの「あばばばばばばばばばばばばば」
一十「コレで信じたか?」
のの「わかった。わかったから。はーっ、はーっ。」
メビウス「お嬢さん。名前は?」
マスターメビウスは、くるりと空中を滑り、ののの隣に移動する。
のの「私は・・・和良地ののです。」
メビウス「のの。悪魔は人を殺すようなヤツばかりではないのだよ。それは誤解というものだ。
ま、そういうやつもいるがね。私は違う。私は人を殺さない。滅多には。」
のの「はーっ。はーっ。そうですか・・・。」
メビウス「私はね、人間が好きなのだよ。人間の感情が。行動が。精神が。そう・・・人間の・・・ファンなんだ。」
ののはだいぶ落ち着いて来た。つばを飲み込み、深く呼吸を一つした。
のの「では、殺し合いを何故させるのですか?」
これだ。ののはコレがある。本質を見抜く力があるというか、
妙に鋭い感性を持っている。
メビウス「ふむ・・・」
マスターメビウスは水槽の魚のように、部屋の中をキュンキュンと飛び回る。
見えない椅子に座ったような姿勢ででくつろぎ、ののに対して回答する。
メビウス「この質問をしたのは君だ。君だけに応えよう。」
マスターメビウスがそう言うと、突然音が聞こえなくなった。全ての音が。
自分の鼓動の音さえも聞こえない。不気味だ。
一十「おい!何をする!」
と叫んでみるが、本当に何も聞こえない。声が出ているかどうかも分からない。
のの「いちじゅーに何をしたの?」
メビウス「音を聞こえなくしただけだ。」
のの「バーカバーカいちじゅーのバーカ」
一十「・・・」
本当に何も聞こえない。
メビウス「さて、質問の答えだが、人間の願いを叶えるのには君の言う通り、必要ない。だが、私たち悪魔の目的にはそれが必要だからだ。」
のの「その目的のために、人を殺し合わせるための、餌。」
メビウス「君は聡いな。そのとおりだ。」
のの「一十はそれを知っているのですか。」
メビウス「いや、知らないな。興味がないようだ。質問もない。」
のの「一十の願いはなんですか?」
メビウス「それは私は答えられない。本人に聞いてくれ。」
マスターメビウスとののは、何かを話しているが、全く聞こえない。
そうしてるうちに会話が終わったのか、マスターメビウスは背中から俺の体に沈み込んで消えた。
すると音が聞こえるようになった。
一十「お前、何を話した。」
のの「十馬が叶えたい願いはなんですか?」
あの野郎。一体何を話したんだ。
一十「・・・罪悪感を無くすことだ。」
それを聞いたののは、立ち上がり、てちてちと俺の背中に回る。
何をするのか、悪魔が入った背中を見たいのか、と思っていたら、
突然、ぎゅっと抱きしめられた。
のの「これで、消えませんか。」
・・・温かさが伝わってくる。心臓の音も。呼吸も。
・・・
一十「前に座れ。」
のの「うん。」
ののを膝の上に乗せる。
今度は、俺が背中から抱きしめる。
一十「消えないんだ。お前たちと一緒にいても、どんなに楽しくても、どんなに嬉しくても、俺の苦しさは、
ずっと消えないんだ。それが、耐えられないんだ。」
のの「人を殺しても?殺されるとしても?悪魔と取引しても?」
一十「そうだ。どんな悪いことをしても、俺は、この苦しみを消したいんだ。」
のの「・・・痛い。」
その言葉に、自分が力を込めすぎていた事に気づき、ののを離す。
のの「ばいばい。」
ののは帰っていった。
これでいい。
俺はこれから罪人になるんだ。
かかわらないほうが良い。
そう言い聞かせて強がっても、体に残るののの温かさが消えることはなかった。




