第6話 来訪者その②
俺はその日、色々試してみた。
河原で思いっきり走ったり、コンクリートの壁を殴ってみたり、
が、何も変化はなかった。手からビームが出るわけでもねぇ。
力を与える、ってなんなんだ?
無駄に運動しただけだった。
マスターメビウスは沈黙したままだ。
・・・これなら学校に行っても変わんなかったな。
そう思いながら、俺は家に帰った。
翌日、俺は図書館に行き、悪魔について色々調べた。
フレッド・ゲティングズの悪魔の辞典。ゲーテのファウスト。大奥義書。赤竜。
読んでは見たが、七祭のことなんて一言も書いてなかった。
いっそ七夕なのか?いや、字が似てるだけで、全く関係無いしなぁ・・・
昼はマクドでハンバーガーを食べ、
午後からは再び能力の確認、やっぱりなんにもならない。
タイムリミットが迫る危機感と、このままで良いのかという焦燥感がだんだん強くなって、嫌な汗をかいてきた。
しかし、自分ではどうにもならないので、家に帰ると、
ドアの前に、つるが居た。学校帰りだろう。ちょうど放課後の時間だったからな。
鷹宮つる。俺の幼馴染というか、小学校からの友達。
つる「うわっ!ビックリした・・・」
部屋に居なかった俺が急に横から現れたから、驚いたのだろう。
一十「・・・おお、つる。なんか用か?」
つる「あんた、なにしてんの?先生は病気だって言ってたけど、」
AKがそう言ったんだな。ま、それしか無いだろうな。
俺はつるの言葉に答えず、鍵を取り出し、ドアを開ける。
一十「中、入れよ。」
つる「・・・」
つるはちょいちょい俺の部屋に来て、漫画を読んで帰る事があるので、
俺の部屋に何があるか知っている。
勝手に冷蔵庫を開けて、勝手にコップを取り、勝手にオレンジジュースを注いでちゃぶ台に持っていく。
俺の分のジュースも用意してくれている。
つる「ねぇ、なんで学校に来ないの?街をふらふらしてるらしいじゃない。何してるの?」
一十「・・・」
俺はちゃぶ台を挟み、つるの前に座る。
俺は、言うか迷った。こいつは、知っている。俺の過去を。同じ場所に居たからな。
だから、言うか迷う。
一十「信じるか?これから俺が、何を言っても、本当のことなんだ。」
つる「なによ・・・深刻に・・・」
一十「悪魔が現れてこう言った。七人で殺し合いをして最後に生き残れば願いを叶えてくれると。」
つる「・・・」
信じてないな。
一十「起きろ。マスターメビウス。」
つる「?」
俺の胸から、ヌルっと、頭が出てくる。
メビウス「何だ。」
一十「これがその悪魔だ。」
マスターメビウスは、ぬるんと俺の胸から飛び出し、俺の肩に座った。重さは一切感じない。
つる「・・・うそ。」
メビウス「始めまして。私の名はマスターメビウス。悪魔だ。今はこの男に取り憑いている。以後よろしく。」
つるは、明らかに動揺している。手を口に当て、頭を掻き、手を肩に当て、首に当て、
キョロキョロと左右を見る。
メビウス「で、何の用だ?」
一十「俺が学校を休む理由を信じてもらうために出てきてもらった。それだけだ。もう戻っていいぞ。」
メビウス「そうか、お嬢さん。さようなら。」
そう言うと、メビウスは俺の肩から、ぐんにゃりと俺の体の中に入っていった。
一十「こういうことだ。」
つる「・・・今の、何?」
一十「見たままだよ。言ったとおりだ。」
つる「・・・・じゃあ、今のが悪魔だとして、現実だったとして、さっき言ってた、
殺し合いとか、願いを叶えるとか、あれも本当なの?」
一十「俺は、罪悪感を、消したいんだ。あの事件の。」
そう言うと、つるの目が変わった。俺が、何を言っているかわかるのだ。
つる「あんたが、それを自分から言うって、本当なんだね。
あんたは、あれを、冗談とか、嘘で、使わないのを私は知ってる。」
一十「・・・」
つる「私は・・・、」
つるは目を伏せる。
俺は、こうなることをわかっていて、言った。
自分で卑怯だと思った。
つる「帰る。」
そう言って、がばっと立ち上がり、つるは帰っていった。
俺は、追いかけなかった。
ちゃぶ台の前で、じっと座ったまま。
誰も居ない部屋で、新たな罪悪感に襲われながら。
動けなかった。
俺は、友達を、傷つけた。




