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第54話 真実はどこにあるのか

平衡感覚を一瞬失い、よたよたと、後ずさる。


そして俺は、そのままバランスを崩し、尻餅をついた。


下は石の地面。痛みが骨に直に来る。


ゴッという音が俺の体の中に響く。




なぜ殴られたか、なぜ殴ったのか、わからなかった。


俺の頭にあるのは、痛い、よりも、なぜ?だ。



ぺたぺたと裸足のマスターメビウスが、石の床の上を歩いてくる。


そして、両腕で、俺の学生服の首元をつかみ、俺を引き上げる。


「それがお前の願いかッ!!!!」


顔を近づけ、大きな声で怒鳴る。


何を、何を怒っているんだ。


うわっ。


マスターメビウスは、そのまま体を半回転させ、俺をぶん投げた。


俺はごろんごろん、と受け身を取りながら、地面にぶつかる。


顔を上げると、今度は蹴りだ。足が飛んできた。


が、俺はそれを両腕をクロスし、ガードする。


俺は今、悪魔と合体していない。つまりふつーの人間だ。


だが、マスターメビウスの蹴りは、その、ふつーの人間にも防御できるものだった。


・・・本当なら、本当に俺を殺すつもりなら、アリを潰すように、一瞬で出来るだろうに。


そんなふうに考え事をしていると、もう一発蹴りが飛んでくる。


俺は考え事をしていたせいで、防御が遅れ、右の頭に蹴りが直撃する。


痛い。


「一角十馬ァッ!!ふざけるなぁッ!!」


・・・ムカついた。


マスターメビウスが右拳で俺に殴りかかるが、俺も、右の拳を握り、


顔面を殴り返した。


「ぐあっ!」


殴った感触は、本当に、普通の人間だった。


マスターメビウスは口を切ったのか、口角に血が滲んでいた。


「何が気に入らねぇんだよ。マスターメビウス。願いを叶えるつったのはお前だろ。」


俺は口の中に溜まった血を吐き捨てる。


血は、口の中にあると、非常に嫌な味になる。酸味と不快感の、鉄の味。


「それがお前の、心からの願いだというのか。」


「そうだと言っているだろう。」


マスターメビウスの顔に血管が浮き出る。


それと同時に、ゆっくりと近づいてくる。


「それは、お前の願いでは無いだろう。」


マスターメビウスが俺にそう問いかけた。


「俺の願いだ。」


俺は答える。


答えた瞬間、今度は右の頬に衝撃が走る。


マスターメビウスの左拳が俺の顔に直撃した。


だが、今度は倒れない。


「俺の願いだ!!!」


俺はそう叫びながら、左手で、マスターメビウスの顔面をぶん殴る。


マスターメビウスはかわさない。


一瞬怯むが、俺から目を離さない。


「ふざけるなッ!!!」


「うるせぇッ!!!」


俺はマスターメビウスを殴った。


マスターメビウスは俺を殴った。


「嘘を付くなッ!!」


「嘘じゃねぇ!!」


マスターメビウスの顔から、血が滴り落ちる。鼻血がぼたぼたと。


俺も、似たようなものだ。


しばらく、殴り合った後、


お互い息も絶え絶えになり、ぼろぼろになり、肩で息をしながら、


マスターメビウスは、手を広げ、こう言った。


「ここには、私とお前しか居ない!!誰も、お前を見るものは居ない。


誰もお前を批判することはない。たとえどんな願いを言ったとしても、お前は誰にも否定されない。」


「うるせぇ。」


「一体お前は誰のために生きているんだ?社会のため?国のため?世界のため?お前のその願いはなんなんだ。ふざけるなよ。


私は、お前の願いを、と言ったんだ。」


「うるせぇ。」


「私が見てきた人間は、欲深かった。己のために生きた。自己利益のために、欲望のために、野望のために、」


「うるせぇ。」


「その過度な自罰的な態度は何だ。何のための、誰のための自罰なんだ。」


「・・・」


「誰もお前を責めていない。誰もお前を否定していない。誰もお前を嫌っていない。なのに、


なぜお前は、それを無視する。なぜ、常に自分が、自分で自分を罰して、ありもしない罪を償おうとする、いや・・・」


腹の底から、怒りが込み上げてくる。


俺がマスターメビウスの顔面に拳を叩き込む。


が、それは、空を切った。するりと、かわされた。


「つまり、自分で自分を傷つけるから、もうぼくを傷つけないでほしい。と言っているのか?」


伸び切った俺の右腕の中から、マスターメビウスの右手が絡まり突き出てくる。


それは俺の顔面を直撃した。クロスカウンターだ。


凄まじい衝撃に、首の根本から骨が軋む音がする。


一瞬、全ての感覚が喪失する。


体の力が抜け、地面に崩れ落ちる。


・・・


目が覚める。地面に落ちる前に。


俺はギリギリで踏ん張り、倒れるのをこらえる。


「お前に何がわかる!!」


俺は低い姿勢から、マスターメビウスの脇腹に、フックをねじり込む。


素手に肋骨が折れる感触が伝わる。


「がっ・・・かはっ・・・」


マスターメビウスは咳き込みながら口からどろりと血を吐く。


「わからないね。」


「・・・」


「いつまでも、勝手に落ち込んで、勝手にいじけて、勝手に苦しんでる愚か者のことなんて、わからないさ、この世の誰もな。」


「俺が、どんなに苦しかったか・・・わかってたまるか!!」


「ではお前は、周りの人間の苦しみは、わかるというのか?」


ピタリと、俺の体が止まる。


・・・言い返せない。


「・・・」


「お前は、卑怯者だ。自らが傷つきたくなくて、先回りして自分を傷つけ、だからもうぼくを傷つけないでと、


人と向き合うことから逃げ回る。愚かな存在だ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・認める。」


何も言い返せなかった。


何も。


俺は、泣いていた。


涙が、ボロボロと溢れていた。


涙と血の混じった液体が、地面にポツポツと流れ落ちている。


悲しい。俺は今。悲しい。


心の底から。本当に、悲しい。


なぜ悲しいか、マスターメビウスに、卑怯者と言われたからじゃない。


痛いからじゃない。そうじゃない。


わからない。なんでこんなに悲しいか、わからないが、俺は今、悲しい。





マスターメビウスは、両手を広げ、高らかに宣言する。


「お前の願いを叶えてやろう。どんな願いもだ。あの火事を起きなかったことにしたいのなら、歴史を変えてやろう。


お前が罪悪感を感じなくなりたいのなら、そうしてやろう。


死んだ人間を生き返らせたいのなら、好きなだけ生き返らせてやろう。


お前が世界を支配したいのなら、そうしてやろう。


お前が神になりたいのなら、神にしてやろう。


この宇宙を消滅させたいのなら、消滅させてやろう!!


この私、悪魔、マスターメビウスが!!


この七祭で生まれた因果、力、宝石、全てを使って!


7人の悪魔の存在、6人の人間の魂の元に、


無制限の可能性。無制限の選択肢。無限の力。無限の現実!!


お前の願いを叶えてやろう!!全てだ!!どんな願いもだ!!!」


「・・・」


「だが、一度だけだ。お前が言葉を発することは一度だけだ。


お前が言葉にした瞬間、それは叶う。やり直しは無い。いいわけも許さない。


たった一度だ。さぁ。言え!お前の願いを!!」


「俺は・・・」


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