↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/55

第50話 止まった時の中で


平らだった地面が、あの大爆発で、クレーターになっている。


その縁から、バラバラと、コンクリートの塊が浮き上がり、弧を画きながら、穴に吸い込まれていく。


その引力は、遠く離れた俺にも届いている。ジリジリと、まるで坂にいるかのように、引き寄せられているのを感じる。


夜空に、光の輪が一つ。


それを彩る花弁のように、物体が衛星となり回っている。


美しいな。なんて考えてる場合じゃない。


はっ。笑える。


最後の最後で、ブラックホールとは。


グラフはどうなってんだ。生きてんのか、死んでんのか。






俺が持つブラックホールに対する知識はこうだ。


①光さえも吸い込む。出ることは出来ない。


②光が出ることが出来なくラインを事象の地平線と呼ぶ。


③太陽よりもさらに巨大な星が爆発して、残った重い星が、ブラックホールになる。


ま、学校の授業で習う程度の知識しかねぇ。


肝心な事が一つ、わからない。


・・・ブラックホール、破壊できるのか・・・?


俺がそう考えている間にも、ブラックホールは次々と大地を吸い込み続けている。


このまま行くと、本当に地球が滅ぶんじゃねぇか。


なぜバフォメットがコレをやったか、答えを考えるヒマは無い。


今、このブラックホールをなんとかしなければ。


ブラックホール。だが、太陽よりも大きな星の質量で産まれるなら、


今、ここにあるモノは、それに比べたら質量が小さいはずだ。


自然に、物理法則に乗っ取って生まれたものじゃない。


能力によって生み出されたブラックホール。


自然じゃない。なら、破壊できる可能性は・・・わからない。


わからねぇが、殺るしか無い。


「まったく・・・笑えるな。」


俺はそうこぼしながら、ありったけの力を使う。


俺の視界全てが、光の輪を作るブラックホールを除き、黒く染まる。


光だ。俺は、今、俺の視界に届く全ての光を右手に収奪する。


光を物質化するために光を奪う。奪われた物質は、当然光を反射しないから、黒くなる。


何も照らさない激しい光が右手に輝く。


「行くぞ。」


一点に集めた光を、1本の線にする。剣だ。いや、剣というか、もはや視界には先が見えない。天空に伸びる1本の線にしか見えない。


「うおおおッ!切れろ!!!!」


俺は腕を振り下ろす。


その光の線には、重さがない。


俺から離れれば離れるほど、その先端速度は加速する。


地球を切断する勢いで、俺はブラックホールにその線を叩きつける。


真っ暗な世界で、光の線が、光の輪に衝突する。


俺は腕を振り抜いた。


俺の光の線は、深々と、地面に突き刺さった。


地下がどれだけ切れてるかはわからない。地球の裏側のブラジルまで切断されたんじゃねぇか?


が、顔を上げると、ブラックホールは、健在だった。


ブラックホールのその周りを、砕かれた光の線が、ぐちゃぐちゃに、まるで蜂の動きのように、乱雑に渦巻いている。


確かに、ブラックホールは直線的に吸い込むわけじゃあない。円周状にくるくる旋回して吸い込まれるものだ。


それが、光の軌跡で視覚化されている。


科学者でもここにいりゃ、泣いて喜ぶだろうな。ブラックホールの実地実験出来るんだからよ。


俺が力を解除すると、周囲の光は再びもとに戻る。


さぁ、どうするか、最大出力でぶっ放しても、あのザマだ。


徐々にブラックホールは大きくなっている気がする。俺を引っ張る引力も。


汗が滲み出る。突然、人類どころか、地球の存亡が俺の両肩にかかってんだ。そりゃ汗も出る。



はぁ、と息を一つ吐く。


コレが最後だ。コレでダメだったら、もうどうにもなんねぇ。


俺は、全身の力を抜いた。


目を閉じ、指先、足先、心臓、肺。自分の体の感覚を確かめる。


息を大きく吸う。


吐く。


数秒。停止する。


目を開ける。


俺は全身を光に変換する。


最後だ。


光と化した俺は、ブラックホールに向けて、まっすぐに、直進した。


一瞬で音速を超え、俺のすべての力を速度に変える。


景色が、前方に縮まっていく。青く、青くなっていく。


光が、放射状の光が、一点に収縮していく。


それ以外は完全な闇だ。


俺はさらに加速する。もう加速というのかどうかもわからない。


俺は光の速度、光そのものになる。


視界は一点に収縮する。


そして、その一点を、俺は越える。


奇妙な、清々しさ。俺は足を止める。


気がつくと、世界が静止していた。


俺は今、時間を無視している。


光速で移動するものは、時間が停止する。


小石も、風も、ブラックホールも、全てが静止している。


引力も感じない。


俺は今、世界から疎外された存在になっている。


静止した世界は、灰色だった。光の性質なのか、ドップラー効果なのかわからないが、


全てが灰色に見える。


俺はその灰色の世界から光を奪い、剣を作る。


光を奪われた場所は、暗闇になる。


ブラックホールに近づいても、重力は感じない。


俺は、光の剣で、ブラックホールの中心を、叩き切る。


光の剣は、ブラックホールの暗黒空間に消え、見えないが、恐らく核に当たり、剣の方が砕けているようだ。


俺は再び剣を作る。そして再び切る。


再びブラックホールの中で、剣は砕けているようだ。手元に残った剣は先だけが奇妙にひび割れている。


俺は再び剣を作る。再び切る。


再び剣を作る。切る。


剣を作る。切る。


切る。


切る。


切る。


切る。


切る。


光の速さで、俺の力が続く限り、


事象の地平線なんか知ったこっちゃねぇ。


切る。


切るほどに、光の破片がブラックホールの周りに漂い、停止する。


俺が切れば切るほど、世界から光は失われていく。


時間の停止した世界が暗闇になっても、星空全ての光を奪っても、


例え地球の影に存在する太陽の光全てを使っても、


俺は切る。斬り続ける。


どうやら、自分の体を光に変換するのは、無理があるようだ。


段々と、俺の体が、削れていく。


そう言えば、カロンは体の電化を、一瞬しか使わなかったな。


そう思いながら、俺は、斬り続ける。


時間を止め、自らの体を光にし、無限の斬撃、無限の光の物質化、その代償に、俺はこの世から、削れていく。


ついに、俺の両腕が砕け散った。


俺は足で、ブラックホールに蹴りを入れる。


が、右足は砕け散る。


俺は、地面に落下する。


肘から先は残っているから、それで、なんとか起き上がる。


立ち上がろうとするが、力が入らない。立てない。


膝をつき、屈むので精一杯だ。


俺は、光化を解除する。


時間が動き出す。


無限の斬撃、無限の破壊のエネルギーが、一気に動き出す。


それは巨大な爆発となり、俺は、再びふっ飛ばされる。


俺は砕けた両腕、右足の切断面から、血を吹き出しながら投げた石みたいに、地面に何度もぶつかり、


意識が消える寸前で止まる。


これで、コレでダメなら、もう本当にどうにもならねぇ。


痛い。そりゃそうだ。両腕と足1本吹っ飛んでるんだから。


地面にぶつけた頭も痛い。


首も、背中も、肩も、全てが痛い。


だが、それよりも苦しいのは、


ブラックホールが、何一つ、変わっていなかったことだ。


何事もなかったように。未だそこに存在する。


円盤状に、周囲の物質を吸い込み続けている。


俺も、その引力に引っ張られ、ずりずりと、移動している。


しかし、もう俺に抵抗する力は何もない。


動けない。光を物質化する力も、もう使えない。


俺は、前のめりに、うつ伏せに倒れる。


ずりずりと、引っ張られ。移動し続ける。


どうにもならねぇ。ああ。どうにもならねぇ。


指1本動かねぇ。いや、指はもう無かったな。


・・・


今、俺に出来ることは何だ、全てを失った。俺が、出来ること。


・・・


・・・


・・・


「助けてくれ。マスターメビウス」


俺は、そう、その言葉を、言うことしか、出来なかった。


「良いだろう。助けてやろう、一角十馬。」


失血で朦朧とする意識の中、


その声が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。