第47話 光vs重力
「下がっていろ。」
グラフがそう言うと、メイドは一度会釈し、テーブルから離れ、ガスコンロを片付け、折りたたみ、
袋に入れた後、サイドカーに乗せ、
バイクにまたがり、そのままエンジンをかけ、何処かに行ってしまった。
もう夜。ここに居るのは俺と、この男の二人だけ。
二人はテーブルを挟んで椅子に座ったままだ。
バイクの音が聞こえなくなる。
静かだ。
俺は息を一つ吐く。
ふーっ。
吐き切ると同時に、俺は椅子に座ったまま、片足で重いテーブルを蹴り上げる。
と同時に、光を物質化し、剣を作り横薙ぎに切り払う。
遊んだりはしない。一撃で殺す。
そのつもりで攻撃した。
が、
横薙ぎに剣を振る途中で、俺は地面に叩きつけられた。
冷たいコンクリートの固さが俺の顔面にゴリゴリと押し付けられる。
「がっ・・・これは・・・」
重い。
つまりは、コイツの能力は・・・
「重力。100倍。」
グラフは、おそらく、椅子に座ったまま言ったのだろう。
俺は地面に張り付いて、1ミリも動けない。
確か、戦闘機のパイロットでも10Gは無理だったはず。100Gて。
まずい、肺が潰れて息が出来ねぇ。肺が膨らまねぇ。体の内臓の全てが潰れて、目が痛い頭が痛い骨も痛い。
「ざけんなぁッ!!」
俺は光を物質化し、辺り構わず光のトゲを生やしまくる。
顔を上げることが出来ないから姿は見えないが、座っている椅子から移動してないなら、ある程度の居場所はわかる。
もし移動していても、コレだけ辺り一面にトゲを生やせば、何処かで当たるだろう。
が、俺の頭のすぐ上の方、アイツが居るであろう椅子があった場所から、
バキバキバキとなにかが砕ける音がする。
アイツのうめき声も無く、重力が消えることもない。
ぐっ・・・血が、回ってねぇ。
貧血で、目眩がすげぇ。
俺の胸の中から、熱いものが登ってくる。
そして、俺は咳き込む。
「がホッ、がホッ」
血だ。アバラが折れ、胃に刺さったのか肺に刺さったのか、
食道なのか気道なのかわからねぇが、
内臓がどっかやられて、俺は血を吐いている。
朦朧とする意識と、痛みと苦しさでパニックになりかけながら、
俺は、冷静に考える。
重力、地面から生やすと、恐らく重力に負けて折れて届かない。
ならば、これならどうだ。
一瞬で、反射神経で、新しい戦術を試す。
コレまで戦ってきて、積み重なった、戦いの経験値。
俺は、空一面に、光を物質化し、棘の雨を作った。
コレならば、俺を攻撃しながら防げはしないだろう。
突然俺を抑えていた重力が消える。
「くはっっッ!!!」
俺は地面を押し、飛び上がる、やっと解放され、全身に血液が巡る、呼吸が出来る。
が、俺は、そのままくるくると、止まれない。景色がぐるぐると回っている。
つまり俺は今、空中を、無重力か。
落ちるはずだった光の結晶が、俺の上で、いや下で、いや上か、俺が回っているからどっちかわからない。
ふわふわと、クルクルと回っている。
地面の方を見ると、グラフは椅子には居なかった。姿が見えない。
俺は光を剣化し、それを伸ばし、地面に突き刺し、俺自身を固定する。
「目が回るな。」
無重力のままだから、まだ10メートルほど空中にいる。
剣を短くし、地面に降りようとした時、奇妙な感覚に陥る。
無重力とは違う、何か、奇妙な感覚。
周りを見ると、俺が降らそうとした光の結晶でできた棘が、俺の方を向いている。
と思った時には飛んできた。
あの野郎ッ、俺を中心に重力をッ!
俺は光の物質化を解除する。俺に向かって飛んできた光の棘は消えた。
俺が手に持っていた伸ばして地面に刺していた剣も消え、俺はそのまま地面に向かって落下していく。
ま、このくらいの高さなら、楽に着地できる。悪魔と合体している時は超人的な力があるからな。
ガゴッン!!
ガゴン!!
ゴゴン!!
俺は地面に辿り着く前に、壁に取り込まれた。
前後左右、一瞬、俺の方に向かってコンクリートの壁が飛んでくるのが見えた。
真っ暗だ。
俺は、コンクリートの壁で出来たサイコロか、ピラミッドかわからねぇが、
とにかく、箱の中に閉じ込められた。
「光よ!」
俺は光を物質化し、剣を作り、このコンクリートの壁を破壊しようとする。
が、しかし、光がない。隙間無く閉じ込められたこの空間では、光を物質化出来ない。
光が無いのだから。
「舐めるなよ。」
俺は胸から、ライターを取り出す。
そしてすぐにそれを点火する。
ボッと光ると、俺はその炎の光を、物質化し、光の棘として、この壁を突き破る。
光を操る能力、故に光の無い場所に閉じ込められる状況は想定していた。
光の棘により、コンクリートの壁は砕け、俺はそこから飛び出す。まだ空中だった。
俺はその時、グラフの姿が見えないことを理解した。
あいつは、取ってきたんだ。
単純で、巨大で、銀色で、強い武器を、
「我が社のタンクローリーだ。受け取れ。一角十馬。」
俺より上の空中に居るグラフはそう言うと、俺に向かってそれを投げていた。
俺は空中にいるから、避けることは出来ない。
俺は剣を作り出し、それを反射的に切る。
切ろうが、切るまいが、それは、そうなるよう仕掛けがしてあったに違いない。
当然、それは、俺の視界を埋め尽くすほどに、爆発した。




