第45話 最後の男
ある日の正午
東京タワー 海抜351メートル
海抜とは、海水面からどれだけの高さにあるか、である。
東京タワー 海抜340メートル
キュオン キュオン と、甲高い共鳴音が響く。
東京タワー 海抜330メートル
東京タワー 海抜300メートル
ギギギギと、金属が擦れる音が響く。
地上には、異変に気づいた民衆が、集まってくる。
パキン、パキン、と、何かが弾け飛ぶ音がする。
東京タワー 海抜280メートル
展望台のガラスが割れ、地面に降り注ぐ。
明らかに異常な光景。
群衆は落下物から散り散りとなって逃げる。
東京タワー 海抜150メートル
もはや、かつての姿は無い。
たった数分で、潰れた空き缶のように、歪み、ゆっくりと上から押しつぶされていく。
東京タワーだけではない。東京タワーを中心とした半径四キロ。
公園の木々、ホテル、寺、学校、コンビニ、東京タワーを中心としたあらゆる建築物の海抜が下がっていく。
赤坂、虎ノ門ヒルズ、国会議事堂、
中央区、渋谷区、新宿区、
地震のような激しい衝撃はない。
ゆっくりと、まるで透明な天井に押しつぶされていくように、
建物が、木が、電柱が、潰れていく。
ギギギギと鉄筋コンクリートが鳴く音が辺り一面に鳴り響く。
パキパキと割れるコンクリート。カリンカリンと割れるガラス。
人々は異変に気づき、建物から飛び出す。
警察も消防も、国会議員も、テレビ局も、何もできないまま、世界が、潰されていく。
第84代内閣総理大臣 徳川松太 海抜171cm
大きな地鳴り、崩れ潰れる国会議事堂から逃げ出し、国会議事堂前に避難していた。
第84代内閣総理大臣 徳川松太 海抜168cm
身体全身に、奇妙な重さを感じる。
体が重い・・・いや、何かに、押しつぶされているような・・・
第84代内閣総理大臣 徳川松太 海抜70cm
思わず、膝をつく。
なにかに、頭を、いや、身体全体を、重く・・・
第84代内閣総理大臣 徳川松太 海抜52cm
もはや立つことも、四つん這いになることも出来ず。
地面に、ぺたんと寝転んでいる。
第84代内閣総理大臣 徳川松太 海抜48cm
助けを叫んでも、誰も来ない。
周りの人間も、同じように、地面に突っ伏している。
中には、二つ折りになっている人間も居る。
泣き叫ぶもの、謝るもの、怒るもの、困惑するもの。
第84代内閣総理大臣 徳川松太 海抜10cm
それらはもう、何も、音を出すことはなかった。
第84代内閣総理大臣 徳川松太 海抜0cm
ほんの、10分、15分で、見渡す限り、全てが、平らになった。
コンクリートと、鉄と、ガラスと、プラスチック。
タンパク質と、水分と、カルシウム。そしてセルロース。
全てが平らに潰され、一つの地面となった。
人間が作り出したもの。自然が生み出したもの。全てが平らになった。
そして、中心に、一人の男が居た。
たった一人。
男の名はグラフ。
七祭最後の一人。
契約した悪魔はバフォメット。
その願いは、世界から罪悪感を消すことだった。




