第35話 土管の肉まん
俺はコンビニにもう一度入り、肉まんを2つ買って出てくる。
すると、ののは、公園で食べようと言い出した。
たしかにちょっと行った所に公園がある。
もう日もくれて夜だし、これ食ってさっさと帰ろうと思っていた。
けど、まぁ、断るほど俺は忙しくないし、言われたとおりに公園に行くことにした。
夜の公園。なかなか来ない。電灯がついてる。光と影。
不気味・・・とまでは言わないけど、奇妙な感覚がある。
ここまで冷たい空間になるのか。誰もいない、夜の公園。
子供の頃を思い出すな。・・・ああ、そうか。ああ、思い出した。
「ねぇ、土管の中で食べようよ。」
公園には、土管があった。
土管がそのまんま置いてあるんじゃない。
なんつったらいいか・・・コンクリートで出来たこんもりした山の上に、土管がそのまんま乗っかってる。
珍妙なイメージを思い浮かべるだろうが、俺の目で今見ても珍妙なデザインだなぁ・・・と思う。
ののが先に土管の中に入る。
「おい、パンツ見えるぞ。」
「いいよもう。好きなだけ見なよ。」
意に介さず中に入り、ごそごそと体勢を整える。
体育座りのように膝を曲げるが、下の面が丸なので、微妙にズレて、頭と足の位置が水平になる。
俺も入るが、流石にキツい、ののよりも、頭が深く下がる。頭と膝の位置が水平。
そして何よりも狭い。俺は子供の頃から身長2倍になってんだからそりゃ狭いよ。
「あはは、せまそう。」
「すっげぇキツい。」
土管の中は声が、響く。中は暗い、妙に青く見える。青黒い、というか。
ののはスカートがめくれてパンツが半分ほど見えっぱなしになっている。
めくれたスカートを足の間に挟んでいるが、他の部分が見えてる。
俺の方はそれどころではない、体中が既にもう痛い。
そんな状態で、二人でコンビニの袋から肉まんを取り出す。
ちょっとぬるい。熱々でもなければ冷めてもいない。
生暖かいとはこのことだ。
ぬるくなった肉まんは、小麦の匂いが強く感じる。粉っぽいと言うか。
水蒸気でベタベタになって食感も、ふわふわではなく、もちゃもちゃしている。
味は・・・美味いっちゃ美味い。
がこの姿勢で食うのは辛い。一緒に買ったお茶で流し込む必要がある。
「おいしいね。」
ののが食べながら話しかける。
「ああ。」
とにかく土管が冷たい。どんどん体温を奪われていく感覚がある。
二人で、肉まんを、もちゃもちゃ食べている。
土管の中で、もちゃもちゃという音が響く。
二人同時に肉まんを食べ終わり、
二人同時にお茶で流し込む。
「ふぃー。おいしかった。」
「ああ。美味かったよ。」
なにか言うたびに、奇妙な反響が土管の中に響く。
土管の中は砂が入っており、既にケツが痛い。
「ねぇ、覚えてる?」
「ああ、覚えてるよ。いや、今思い出した。」
ののは、膝を抱え、話し始めた。
「私。昔、小学校の頃、いじめられてた。今思うと、ただの子どもの悪ノリ。ただの悪口。小学校なら良く起きること。
でも、私はすごくショックだった。すごく傷ついた。それで、学校に行きたくなくて、逃げた。
家にも帰れない。学校にも行けない。私は、ずっと、ここに居た。この土管の中に。」
「そうだったな。」
「冷たいなぁ。ここは誰も居なくて、誰も私をいじめないけど、冷たいな、と思った。
そしたら、君が現れた。小学生の君がね。」
「ああ。学校は違ったから、会ったのはあの時だけで、あれがお前だとは。今、気づいたよ。」
「・・・君は肉まんを持ってきて、ここで一緒に食べた。私、嬉しかった。幸せになった。そして、キミの事が好きになった。」
「俺は、あの時、あの火事の後、別のクラスに入った。そこで、おれは・・・」
「いじめられたの?」
「優しくされた。」
「・・・それが、苦しかったんだね。」
「そうだ。俺は、それが、すごく、嫌だった。だから学校に行かずに、逃げて、公園に隠れようと思った。
そしたらお前が居た。お前は・・・一人で、寂しそうだった。だから・・・」
「優しくした?」
「・・・そうなんだよな。そう、そうしないと、って思ったんだよ。きっと。」
「私は、嬉しかったよ。」
「・・・」
「・・・」
「土管、狭いね。」
「ああ。」
「冷たいね。」
「ああ。」
「もう、帰ろっか。」
「そうだな。」
俺達は、土管を出ようとする、そのためにまず、ずり落ちた体勢を元に戻そうと、手をつき、足で壁を押し、
上体を地面に対し垂直にする。
そうして、膝をつき、土管から這い出る。
土管から出た後は、尻に付いた砂を払い、曲がって居た体を伸ばす。
俺達二人は、ある所まで、一緒に歩き、
そして、別れた。
「バイバイ。またね。」
「・・・ああ。またな。」
俺は、家に向けて歩く。
夜の道を、一人で。
ああ、一人って、さみしいな。と、心の底から思った。




