第33話 もう一つの決着
ボロボロと結晶が崩れていく。
なんとか、なんとか耐えきった・・・
ふーっ、と息を吐く。
「・・・殺す気かあの野郎!!!!」
はぁ・・・はぁ・・・危なかった。本当に死ぬかと思った。
俺の体から、にゅっと悪魔が飛び出してきた。
ベルゼブブとアモンは。そのまま地面にうつ伏せに倒れた。
ぴくりともしない。
女の方を見ると、悪魔が一人、飛び出て地面に同じく死体のように転がっている。
コイツの協力が無かったら、確実に死んでた。
女の方もすべての力を使ったらしく、ボロボロのふらふらだ。
俺は遠く離れたつるを見る。あの痺れるようなプレッシャーはもう無い。
遠くで、どういう顔をしてるかわからないが、つるは、振り向き、背を向け、歩き出した。
・・・そうだな。さようなら。つる。
俺はボロボロのズキズキのカスカスになった体を、なんとか動かし、女の方を見る。
「そうね。決着を・・・つけないと・・・」
女はそう言いながら、ふらふらとこちらを向く。
俺の体から、右肩からマスターメビウスが飛び出す。俺は首を回し見上げると、
その姿は、半分だった。
左半身が、無い。その断面は紫水晶のように、まるで宝石で体が出来ているようだった。
そのマスターメビウスが言った。
「力を使えるのは、あと3秒だな。それ以上は無理だ。」
女の方も、同じく悪魔が飛び出した。体は殆ど無く、顔と、右胸、右腕がようやく繋がっているような状態。
「あと一声だね。」
今まで持っていたウクレレも無い。
そう言ってお互いの悪魔は引っ込んでいった。
四大天使の力は、本当に、それほどに強かった。
悪魔も力を出し切り、俺も、女も、すべての力を使い、手を取り合い、協力し、
なんとか死なないですんだ。
それでも、それだけボロボロでも、決着はつけなければならない。
「私の名前は、ミラー、悪魔はリリス。願いは、この世からある人間の記録、記憶を消し去る事。」
女が、突然、自己紹介をした。
俺は、それをする意味が、なんとなく理解できた。
そうだ。これからどっちかが死ぬ。でもそれは恨みがあるからじゃない。
なんだろうな、妙に、清々しい気持ちだ。
思わず笑いがこぼれる。
「ハッ。俺の名は一角十馬、悪魔はマスターメビウス。願いは、罪悪感を消すことだ。」
俺は、何ももたない両手を、頭の上に掲げ、上段の構えを取る。
結晶の剣を作れるのは、ほんの一瞬。もうこうするしか無い。
ミラーが、両手を組んで、胸の前に置き、祈るような姿勢を取る。
地平の荒野。えぐられた水平線。真っ青な空。
何もかもが常識外れのこの状況で、
最後の力を使う、その瞬間を待つ。
全神経、体に存在する全てのセンサーを全開にして、
相手の呼吸を感じ取る。
・・・
・・・
・・・
ミラーが、ふっ、と息を大きく吸った。来る。
俺は剣を生成する。そしてそのまま、振り下ろす。
「ラーーーーーーーーーーーーッ」
シバッ
・・・
・・・
・・・
ミラーの体から、血が吹き出す。
俺の斬撃は、空気を切った。音を切った。
ミラーは、体から力が失われ、倒れた。
危なかった。もし、俺の斬撃の力が弱ければ、俺が真っ二つになっていた。
俺は歩いて近づき、うつ伏せに倒れたミラーの前に立つ。
ミラーは、肘を立て、立とうとするが、四つん這いになることも出来ない。
血が、俺の足まで広がっている。
赤い。残酷に美しいほど赤い。
「つるに・・・伝えて・・・会えて・・・よかったって・・・」
そう言うと、ミラーは一瞬で灰になって消えた。
その中には、青い宝石が残った。
俺はそれを拾い、自分の口に放り込み、飲み込んだ。
これでも良いだろう。あとでマスターメビウスが取り込むだろう。
意味なんて無い。そうしたかったからそうしたんだ。
俺は、そして、帰ることにした。
痛みだらけの体を、無理やり動かしながら。
ミラーとの戦い、共闘、天使。つるとの戦い、決着。
めまぐるしく変わる頭の中。
今日起きた事を、グルグルと考え続ける。
あまりにも大きな出来事が起きすぎた。
だが、後二人だ。
残る悪魔は後二人。
戦うべき相手は後二人だ。
後少しだ。
俺は、そう思うことで、それが希望だと思い込むことで、
なんとか体を動かした。




