第3話 契約しよう
驚愕、困惑、動揺、逡巡、恐怖、
変わるがわるの目。
ああ、楽しい。私は今楽しい。
人間が、もがき、足掻く姿を見るのが楽しい。
男は、はぁーっ、と呼吸を深く吐く。
何かを決めた顔。これから勝負してやるぞ!って顔だ。
いいねぇ、いいね~~。
感情。私は人間の感情が好きだ。
「願いを叶えると言ったな。」
「ああ。」
「あの火事を、無かったことにすることは出来るか。」
「ん~、可能ではあるが、ダメだ。」
「なんだその言い方は。」
「例えば、」
私が燃やした机と椅子を、もとに戻す。
「このような事は簡単だ。だが、10年前の出来事を無かったことにする、ということは、この世界を10年分巻き戻すということだ。
確かに今回の七祭の規模でなら出来る。しかし、」
「しかしなんだ、」
「嫌だ。」
「嫌だ、って、」
「私の信念に反する。」
「悪魔に信念て。」
「今のお前があるのは、今まで起きた事に影響を受けてその人格が産まれた。
お前以外もそうだ。それを無かったことにする。それは私の美意識に反する。」
「美意識って・・・」
「そしてもう一つの方法、時空を飛んでその部分だけ触って、現在を変える方法だが、」
「なんだ。何を言いたい。」
「失敗するとこの宇宙全体が吹っ飛ぶ。」
「あぁ?・・・うん?・・・・・・・なんでだよ。」
「ガラスに亀裂を入れると全部割れるだろう?あれと同じだ。小さな亀裂がどこまでも裂けて行き、宇宙の整合性が破壊され、
宇宙が吹っ飛ぶ。」
「・・・ふーっ、・・・ちょっと考えさせてくれ。」
男は椅子に座る。
口に手を当て考える。
「死んだ人間は生き返らせることは出来るか?」
男は考えながら、苦痛に歪みながら言葉を出す。
「可能だが、生き返らせる人間の代わりとなる人間、いわば生贄が必要だ。」
「・・・」
男は黙る。
「私も、暇じゃあないんだ、いつまでも質問に答える気は無い。別にお前じゃなくても良いんでな。
次、お前が面白くないことを言ったら、私は帰る。別の人間を探しに行くだけだ。」
「・・・」
男は一点を見つめ、じっと動かない。
考えている。人生を、命を賭けて、答えを出すために考える。
言葉を選び、理論を組み立て、思考し、考える。
「・・・罪悪感を、無くすことは出来るか?」
私は人の願いを聞くのが好きだ。その人間の本質が現れるからだ。その人間が最も求めるもの、
それはその人間の魂の形そのものだから。
そしてそれは人それぞれだ。
欲望のため、現状維持のため、他人のため、過去のため、
それはたいてい似通ってくるが、たまに、私も経験したことのない、
私の想像を超えてくる人間が居る。
ああ、楽しい。私は今、楽しい。
「もちろん。」
男は再び考える。
「殺し合うのか?」
「ああ。そうだ。」
「相手も、人を殺したことのある人間か?」
「そうだ。犯罪になるかの心配はいらない。証拠は残らないからな。」
「わかった。やろう。」
「では手を出せ」
「?。ああ、」
私は空間からペンを取り出し、男の手をちょいと突き刺す。深くはない。ほんのちょっと、血が一滴出るぐらいだ。
「痛っ。何をッ。」
私は契約書を空間から取り出し、パラパラとめくり、
男に差し出す。
「血でお前の名前をサインしろ。血は何よりも濃いからな。」
「・・・」
男は名前を書く。
男の名は、 一角十馬 (いっかく とば)
たった今まで、ただの高校生だった男。
悪魔と契約したからには、碌な最後は迎えない。
わかったうえで、そうせざるを得なかった。
わかったうえで、それ以外の選択はとれなかった。
ああ悲しくも若く愚かな人間よ、私にみせてくれ。お前の心を。お前の命の形を。
私は最後までお前を愛そう。お前とともに戦おう。
血の契約。最後の契約。
未完成悪魔機械化事典 七祭
プロローグ
終わり。




