第2話 高校生を説得しよう
登場悪魔紹介 マスターメビウス
東京タワーの頂上から、下界を見下ろす一人の女。
肌は浅黒く、黒く長い髪、紫色に輝く目、
赤い宝石のブローチ、金の腕輪と金の首輪。
アンテナの先端に立っているのではない。浮いていた。
手には大きな本を開いている。
「さて、誰にするかな。」
重く大きいページをめくる。
女、男、老人、若者、子どもはいない。
様々な人間が記されている。
女は本を閉じ、その場所から飛び降りた。
「どう信じさせるかが問題だ。」
人というものは、大抵、未知のものを信じない。
自分が数十年の間に見聞きしたものだけで全てを判断する。
世界はお前が知らない場所のほうが多いのに。
かと言って、いきなり信じるような頭クルクルパーのバカじゃ生き残れない。
女は、あるアパートの屋根に現れた。
古くボロい壁に、すっと滑り込む。
中には、一人の男がいた。
壁には学生服が掛けられている。
男はどうやら、勉強をしているようだ。
壁にくっつけられた机に、卓上ライトをつけて、何かを書いている。
女は壁をすり抜け入り、ふわふわと浮いたまま、背後から男を見る。
男は気づかない。
シャッシャッと鉛筆が擦れる音。消しゴムで字を消す音だけが部屋に響く。
「ん~~~~~~~~~~わっかんね~~~~~~」
男は鉛筆を放り投げ、椅子に背をもたれる。
椅子を下げ、立ち上がる。
現在の時刻は夜12時。もう寝る時間だった。
「おわあああああっッッッ!!」
男は後ろに居た女に気づいた。絶叫する。
そしてその女は地面に足をつけず、浮いていた。
「おばけ!!?」
「違うな。悪魔だ。」
女は答える。
男は停止する。汗をかきながら。
「私の名はマスターメビウス。悪魔だ。お前に用があってここに来た。」
男は固まっている。
まったく、とマスターメビウスは思った。
「これからある儀式が行われる。七人の人間が殺し合って
最後に生き残った一人が願いを叶える事ができる。」
男はまだ固まっている。
まったく。こっちは正直に話しているんだ。まったく。
部屋には本棚があり、その上にはロボットのプラモデルが飾ってあった。
それを手に取る。
「まて、それは俺のだ。」
男が答える。
私はそれをくりくりと動かしながら答える。
「私が悪魔であることは信じるか?」
ロボットを、人形遊びのように使い、手を振って見せる。
男はまた固まった。
ま、考えることは大抵2種類だ。夢か、幻覚か、の。
「これは・・・俺が見ている幻覚だ。」
手に持っていたプラモデルを粉々に握りつぶす。
「あっ!やめろっ!」
「やめろとは?私はお前が生み出した幻覚なのだろう?
私がやることはお前がやらせているに過ぎない。」
私は男の後ろに回り、机と椅子を、燃やした。
青い炎が一瞬にして灰に変える。
「ああっ!俺の机がッ!!」
「信じるか?」
「こんな事が現実に起きるわけがない。夢だ。夢を見ているんだ。勉強のしすぎて疲れているんだ俺は。」
まったく・・・
では、手を変えよう。
男の眼の前に移動し、私は着ている服を消した。
砂のように、粉となって消えるドレス。
「うわっ、何をっ、」
裸になった私に驚きながら、見るのか見ないのか、目線を右往左往しながら、慌てふためいている。
「これが夢なのであれば、私を裸にしたのはお前の意識だ。」
「わかった!わかったから服を着ろ!!」
「何がわかったと言うんだ?」
私はふわりと男の周りを飛び、この体のすべてを見せつける。
「悪魔と認めるから、服を着ろ!」
ふん、意気地のない。
私は服をもとに戻す。
一瞬で元の姿に戻る。
「なんなんだお前は、何しに来たんだ。」
男は息を荒げながら、私に言った。
「言っただろう。」
「・・・願いが叶うとかなんとか、言ってたな。」
「そうだ。最後に生き残った一人が願いを叶える事ができる。」
「人を、殺してか?」
「そうだ。」
「嫌だ。そんなもの、信じられない。殺したくもないし、殺されたくもない。」
「ふーん、ま、別にお前じゃなくても良い。条件がたまたまあった人間の一人でしかないからな。」
「その条件って何だ?」
「人を殺したことがあるかどうか。」
私がその言葉を口にした時、男の目の瞳孔がギュッと縮むのが見えた。
男は汗を流し、手も振るえている。
男は手を口に当てる。
「俺は・・・人を殺したことなんか・・・無い。」
余りにも小さな声。
それよりもつばを飲み込む音のほうがよく聞こえる。
「そうか、ま、あれは事故だからな。」
「・・・何を・・・何を知っている。」
「全てさ。あの時あの場所で、私は見ていた。」
男が一歩後ずさる。
視線を下に落とし、何かを考えている。
今にも倒れそうなぐらい顔が真っ白だ。
「・・・なぜ、いや、悪魔・・・」
男はそうつぶやき、私を見た。




