第24話 ミラーの場合
「ぼくの名前はリリス、悪魔だ。よろしく、」
青い髪の悪魔、男の姿をしている。が、ソファーに座ったまま、挨拶をしてきた。
「私はミラー。貴方の名前は?」
女、長い髪の、白いワンピース、が、名乗る。
私は、ゆっくりと、ソファーに座る。一人だけ立っているのも、変だったから。
「私は鷹宮鶴。私の友達、一角十馬が、マスターメビウスという悪魔と一緒に、願いを叶えるために殺し合いをするとか言って、
居なくなっちゃった。私は・・・それを探している。貴方の悪魔なら、なにか知ってるかもと思って、追いかけたの。」
全てが事実だ。最初に全部言ってしまえ。と思った。
リリスが答える。ポロロン、とウクレレを弾く。
「それは、七祭の契約者だね。マスターメビウスという悪魔の名前は、聞いたことが無いけどね。」
言い終わると、またポロロンとウクレレを弾く。
「七祭・・・?」
「君の言った通りさ。ま、もう一つ別の目的があるけど、部外者の君に言う必要はないなぁ。」
ポロロン
「もう一人、紫蘭っていう男の子もいなくなって、もしかしたら・・・」
ミラーが答える。
「あの男のことじゃあ無いわね。どうみても学生には見えなかったもん。」
ミラーは何処から持ってきたかわからないオレンジジュースをストローで飲んでいる。
「殺したのですか?」
「ええ。体を金属にする力を持っていたわ。溶解させて倒した。憑いていた悪魔は
ミノタウロス。」
ミラーがそう言うと、ミラーの体からぬぐっと、角の大きい女が出てきた。
「私がそのミノタウロスだ。どうも。」
赤い髪、赤い目、褐色の肌。いかにも骨太で、活発な力にみなぎっていた。
ミノタウロスは挨拶だけすると、またミラーの体の中にひっこんでいった。
これで悪魔を見るのは3体目だ。だんだん驚かなくなってきた。
「・・・あなた、あなたが人を殺してまで叶えたい願いって、なんですか?」
私は聞いた。知りたかった。知らないと、一十の事を理解できないと思った。
ミラーは答える。
「ねぇ、私を知ってる?」
「・・・知りません。今日初めて会った人だし。」
「じゃあこの歌は?」
ミラーがマイクを取り、アカペラで歌い出す。
“静かの海を走る砂の波 アイスコーヒーを飲みながら地球の海を眺める”
“大きな光が幾つも見える 私の帰る場所は無くなったのだ”
「知ってるわ。遠い星の歌。私、CD買ったもん。でも、歌手の名前は知らなかった。
まさか、貴方だったなんて」
私は誰が歌ってるとかあんまり興味が無い。
歌が好きで聞くんだから。ただ、次からは誰が歌ってるかは覚えとこうと思った。
まさか、本人に会うなんて。気まずい。
「へぇ、珍しいわね。曲は知ってて歌手の名前は知らないなんて。」
「ご・・・ごめんなさい。」
「いいのよ。それよりも驚いたわ。この歌、売れなかったのよ。どうやって知ったの?」
「私、全く関係ない、全く知らない曲を聞くのが好きで、ショップで
適当にCD買う買い方してて、それで買ったの。それで好きな曲に出会えると
嬉しい。気に入らなくても、気に入らない曲って自分から聞かないじゃない?
だから自分の世界が広がるから、それはそれで楽しいのよ。」
「あなた、面白いわね。」
ミラーがくすりと笑った。そしてもう一度マイクを手にする。
「じゃあこの歌は?」
ミラーが再び、アカペラで歌う。
“私たちは死んだ 人の頭の中で そこには無限の世界が広がっていた 麻痺 楽園 認識 思想”
“私たちは生きている 死んだ人間の頭の中で 麻痺 楽園 認識 思想”
“パラダイムシフト パラダイムシフト パラダイムシフト”
「知ってる。すごく有名な曲。でも私は嫌い。・・・確か、歌ってた人は・・・死んだ・・・はず。」
ミラーはマイクを置き、私の対面に座る。悪魔のリリスは、我関せずと言った感じで、ポロロンとウクレレを弾くだけだ。
「折上玲奈。私の友達だった。幼馴染で、一緒の学校で、芸能界のライバルだった。」
「・・・つまり、貴方の願いは、その子を生き返らせる事・・・?」
私は、そう考えた。今までの話の流れから言って、それは自然だから。
でも、それを聞いたミラーの顔は、一瞬、止まった。キッと眉をしかめる。
ああ、と思った。もう一つ。この話の流れなら、もう一つの可能性を考えておくんだった。
そう。つまり、ミラーは、彼女を・・・
「違うわ。私は、私の願いは、玲奈の存在を、記録を、歌を、この世から消滅させることよ。」
恨んでいるんだ。
ミラーは続ける。
「最初人気が出たのは私の方なのよ。期待の新人、って感じでね。タイアップでバラエティ番組のテーマソングに使われたりね、最初にCDを出せたのも私。
私が彼女を世話してたのよ。家も食事も、お金も、友達だから。」
・・・ミラーの目に熱がこもる。今までのミラーは、落ち着いて冷静な大人だった。
けど、それが、だんだんと、崩れている。
「彼女を励まし、癒し、慰めたわ。そして、テレビ局にも推薦した。結果、彼女は売れたわ。私よりもね。
それも、私の存在が消えるほど。かき消されるほど。居なかったみたいになるぐらいにね。」
「私も覚えてる。凄い歌手が出てきたな、って。凄い歌だった。私は嫌いだったけど、それでも、凄いとは思った。」
「このままだと、私は居なくなってしまう。そう思って、頑張って新曲を出したわ。それでも、彼女の才能はすごかった。天才よ。本物の。」
だから、私が殺したのよ。この手を持って、彼女を殺したのは私。」
「・・・えっ?・・・殺した・・・?」
いや、わかる。きっと、そうだ。
「この子さえ居なければ、そう思って包丁で一突き。でもね、その後どうなったか知ってるでしょう?」
知っている。本当に、連日連夜そのニュースしかやっていなかった時期がある。
「ええ、人気の絶頂で突然の死。その事がさらに知名度を上げ、人気は爆発。伝説の、悲劇の歌姫として、日本中誰もが知る人間になった。」
「そう。あの子を消そうとして、あの子を永遠にしてしまったの。あれからもう何年も立つけど、あの子の歌は売れ続ける、本は出る。映画にもなる、私は誰からも注目されない。笑えるでしょ?」
「笑えないよ。」
ミラーは、目を落とし、一息つく。そして、こう答えた。
「・・・そうね。」
・・・
・・・
沈黙。
悪魔リリスもウクレレを止めている。
音のない空間で、カラオケのモニターの光だけがピカピカとカラフルに部屋を染めていた。




