第13話 炎と怒り
紫蘭「おおーーー」
炎が上に大きくなる。3メートル、5メートルは伸びる。
それが一瞬で手のひらサイズに小さくなる。
理屈で考えれば、今、攻撃すべきだろう。
だが、眼の前で、人間が、友人の手から炎が出てたら、唖然とするしか無いだろう。
俺は、あまりの非現実的な光景に、動けなかった。現状を飲み込むのに時間が掛かっていた。
炎が蛇のように、ぐるぐると紫蘭の周りを回っている。
何も知らねぇやつが見たら、綺麗だとか思うんだろう。確かに、闇夜に緑色の炎が光り、綺麗っちゃ綺麗だが。
今からあれで焼き殺されるかもしれねぇ側の人間からはおっそろしい可能性にしか見えねぇ。
フッっと炎が消える。
紫蘭がこっちを見る。
やべぇ。
俺は校舎まで下がる。そして、校舎の砕けたコンクリート片を拾い、思いっきりぶん投げる。
それは紫蘭には当たらなかった。
当たる前に燃え尽きたのだ。
どんな火力だ。いや、単なる炎だと思っちゃダメだ。悪魔の力で生まれた炎だ。物理的な常識を期待するほうが間違ってる。
近づくのは不味い。俺は走り、電灯のある場所まで移動する。
そして電灯を引っこ抜く。
それを武器に、ぶん回して攻撃する。
バスン、と音がした。手に持つ電灯が軽くなり、重心が変わったせいで思わずよろめく。
先を見ると、電灯が短くなっている。炎で溶断されたのだ。
さらに返す刀で切り返す。
また短くなる。
鉄を一瞬で溶断。何度なんだ。3万度ぐらいあんじゃねぇか。
一メートルぐらいに短くなった電灯を紫蘭に向かって投げ捨てる。
回転して飛んでいくが、片手であっさりと溶断される。
舌に鉄の味がする。アドレナリンが出ている、つまり今俺は、死を感じてる。
体すべての細胞が危機を感じている。
ボウッっと紫蘭の体全てが炎に包まれた。
なんだ。と俺はそれを注視する。当たり前だ。眼の前に人間ほどの炎が現れたら誰だってそれを注目する。
が、それが罠だった。
目くらましだ。分身の術と言っても良い。
ヤツは炎に視線を集め、その内に横から踏み込み、無防備な俺を攻撃する。
それは、俺が吹っ飛んで炎の熱さと痛みを、小学校の校舎の瓦礫の中で、やっと理解をした。
炎の攻撃を受けた左手は、かなりのダメージが入っている。明らかに焦げてる。いや炭になっている。
左腕の半分が、黒くえぐれている。痛い。痛いがおそらく悪魔と合体したことで、痛みは抑えられている。が痛いもんは痛い。
っていうか、アイツ本気で俺を殺す気じゃないか。いや、そうなんだが。そういう状況なんだが。
このままじゃ不味い。と思っていると、さらに不味いことになる。
俺は今、小学校の校舎の中にいる。壁を突き抜け、コンクリートを破壊し、ちょうど壁際の廊下にいる。
立ち上がり、戦わないと、と思っていたが、アイツは本気で俺を殺す気だ。
眼の前に緑色の炎の壁が吹き上がる。いや、前だけじゃない、後ろもだ。後ろの教室も燃えてる。崩れて二階の廊下の天井も見えてる。
その上も燃えてる。右も左も、前も後ろも燃えている。
シンプルに、炎で燃やす。そりゃ強えよ。そりゃ強いよ。原始的で、単純で、破壊的な力。
炎。
アイツは俺をこの校舎ごと燃やす気だ。
熱い。熱い。熱いよ、紫蘭。俺の体にも火が燃え移る。
ああ。俺。死ぬな。と思った。
こりゃ、ダメだ。
アイツは本気だ。
燃える。俺も、校舎も、景色も。
・・・まぁ。
「それで良いのか?」
マスターメビウスの声だ。
いや、ここは。この場所は。
そう、あの場所だ。あの、先生に、別の道を行こうと言った場所だ。
・・・嫌だ。死にたくない。
違う。
なんでかわからない。わからないが、俺は、ここで死ぬのは許せない。
わかんねぇ。
わかんねぇけど、ここで死ぬのは嫌だ。
わからねぇけど、ここで燃え死ぬのは許せねぇ。
俺は立ち上がる。
体は燃え、息もできない。それでも立ち上がる。
・・・怒りだ。俺は今、怒っている。
理由はわかんねぇ。わかんねぇがめちゃくちゃ頭に来る。
一十「ふざけるな。」
そう答えると、
炎が、ガラスのように、固まった。




