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第5話 周囲の注目を一身に集める彼女

体育館に入場すると、いつものように母さんは俺を見つけて、手元で小さく手を振っている。その隣には父さんの優し気に微笑む姿もあって、大翔や有明の両親と並んで座っているのが見えた。


「連~!」


なんて母さんからは、楽し気な声が聞こえてきそうな程、嬉しそうな笑みを浮かべていて、俺自身、それに感化されてつい微笑んでしまう。


もちろん、式の途中であり、他の親御さんの視線もあるので、手を振り返すことはしない。ただ、せめてもと、母さんの方を向いて微笑みながら頷いた。それに対して、嬉しそうに、笑みを深める。そんな様子を父さんは見守るように、穏やかに微笑んでいた。


「がんばれよ」


なんて父の声が脳内で再生されて、「うん」と返す。


席に付くと、入学式は順調に進んでいく。教頭先生の開式の辞、国歌・校歌斉唱が行われ、新入生総代の挨拶へと移行する。入試の成績一位。俺たちにとってのライバルであり、目標となる人物の名前が読み上げられる。


「新入生総代、夢咲桜さん」

(……っ!?)


その名前を聞いたときに、ふと、彼女の方を向いていた。黒髪が綺麗な容姿の整った彼女の方を。クラスのみんなもまた、夢咲さんの方をみつめていた。


(みんなも、同じように彼女が気になっていたってことだろうな……)


なんて、全員が彼女の名前を把握していたことに、苦笑する。名前を呼ばれた彼女が立ち上がると、他のクラスからの視線も否応なく集まる。嫉妬や羨望。それと彼女の美しさに目を惹かれる男性たちの視線が一気に集まった。


彼女はそんな視線を気にせず、凛とした立ち姿のまま前を進んでいく。まるで慣れたようなその様子で。


(いつも周囲からこんな風に視線を浴びていたんだろうな……)


真っすぐ、ただ前を見つめて歩く彼女は堂々と胸を張って一歩ずつ、迷いなく踏み出す。強くあろうとしている彼女は、いま何を感じているのだろうか?もう慣れたという諦め?それとも、少し鬱陶しいと感じているだろうか?それとも……


色んな感情を想起しながら彼女の方を見つめる。その視線は、何も映さずに"作業として"淡々とこなしているように感じた。無理やり、感情を動かさないようにしているようにも感じる。


そんな彼女を視線で追っていると、ふと顔に自身のある生徒数名のだらしない表情が目に映った。


(……あぁ、なんというか大変そうだな)


なんて少し同情する。きっと、明日から沢山の人に告白されるんだろう。その全てに対応しなくてはいけない苦労を想像して、少しだけ溜め息を吐いた。少しだけ遠くを見つめながら、彼女の方を向くと。既に壇上に上がっていた。


壇上にあがった彼女は淀みなく挨拶をしていく。一度も視線を逸らすことなく、鋭い視線で後ろに控える、保護者席の方を見つめていた。


「春の日差しも」


という恒例ともいえる枕詞から入る。ソプラノ声の良く通る綺麗な音が体育館に響く。音色を奏でるように周囲を魅了する彼女の声に、殆どの人が見つめいた。それでもやはり、嫉妬せずにはいられない人もいる。美しくて、勉強もできる彼女は、進学校に通う人間からすれば、何もかも持っているように映るから。


そんな人たちを視界に入れて、要注意人物として記憶しておく。来年入学する義妹は、壇上に立って彼女以上に注目されるから。


「————新入生代表 夢咲桜」


少し意識が逸れている間に、彼女の式辞が終わっていた。あぁ~、またやってしまったな。なんて思いつつ、彼女が壇上から降りているのを確認する。


一歩ずつ階段を降りる度に、ふわりとたなびく髪に、男子の目が大きく見開かれる。まるで人形めいた美しさをもつ彼女に先生ですら、「おぉ~」という声が聞こえそうな程、感心した表情を浮かべていた。


そんな、彼女が入学式の印象全てを搔っ攫ったような感じで入学式は幕を閉じる。


教室にみんなで隊列を組みながら戻ると、教室は彼女の話題で持ちきりだった。特に、男子の方は


「夢咲さんと同じクラスになれてラッキーだな」

「それな! それに他の女子もレベル高いし……」


なんて、彼女の存在のおかげで、既に親友みたい距離感になっている。隣にいる中野さんもまた、


「夢咲さん凛としていてカッコ良かったですね」


なんて彼女の方に視線をやりながら告げていた。


「……そうだね」


なんて、少し淡泊な反応になってしまい。そんな俺の様子を少し首を傾げながら見ていた。素直に喜べないのは、彼女を取り巻く間でなんとく問題がおきそうに感じたからだった。


せめて進学校らしく、他者を尊重する余裕くらいは見せてくれよ。なんて、一人心の中で呟いていた。


その後は、担任が教室に入ってきて、淡々と明日以降の説明をする。その声を聞き流しながら、俺はふと窓際へ視線を向ける。


窓から差し込む春の光を受けながら、彼女は静かに席へ座っている。凛とした空気をまとい、担任の話をジッと聞いていた。


(真面目なんだな……)


なんて、俺を含めて、注意が散漫になっている生徒とは違う。今だって周囲から視線が集まっているのを分かっているだろう。それで一切反応しない彼女の様子に、どの生徒とも関わろうとしない孤高の意志を感じた。


避けているというよりも、彼女の方が関わりを持たないと決めているように見える。それは、周囲の生徒たちも感じ取っている気がした。


結局、その日は誰も彼女に話しかけることなく、入学式は終了となる。俺もまた、


「じゃあ、中野さん。また明日」

「はい。また明日です」


と軽く挨拶を交わして、別れた。


その後は大翔たちと一緒に、両親と合流し昼食を取ってから帰宅した。もちろん、記念撮影もしっかり撮ってね!


***


家に帰った俺は少し息を吐きながら、今日の事を思い返す。校門で見かけてた、周囲の目を惹くほどの、美しい彼女のことを。本の話で盛り上がった、素朴な可愛さをもつ少女のことを。それと、クラスの様子を思い返す。


女子の数名はすでに、有明や大翔の方をチラチラと確認していたし、男子は夢咲さん。それと白峰さんという人を見ていることが多かったな。


でも少し気になったのは、その白峰さんが、夢咲さんのことを少し悲し気な視線で見つめていたことだった。昔仲良かったのかな?


なんて思いった。二人の様子が少し気になりつつも、制服を着替えた俺は、いつものように机へ向かった。

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