第4話 初めての友人
教室につくと案の定といったところだろう。桜が降り注ぐ校内まで道のりで視線を集めていた少女が教室に存在した。
鞄を机にかけて、一人読書をしている彼女は周囲から視線を集めているものの、それを気にかけることなく、読書に集中してた。
彼女の名前は……なんて、黒板貼られた座席表に目をやる。自身の座席を確認しつつ、彼女が座っている席に書かれた名前に目をやる。そこには……
『夢咲 桜』
という名前が書かれていた。
(……さくら、か)
なんて心の中で呟きながら、先ほど見た光景を思い出す。まるで、桜吹雪をドレスのように纏う彼女のことを。
(……)
少しぼーっとしつつも、どこか彼女の名前に運命めいたものを感じつた。綺麗であり続けることを求められているようにも感じつつ、俺はその場を離れる。
有明と大翔も座席を把握したことを確認し、一度別れることにする。教室の新しい交友関係を今のうちに作っておきたいから。どうせなら、今のうちにクラスメイトと仲良くなっておきたいから。
そんな風に考えながら、自分の座席まで歩いて行く。窓際の席、丁度、夢咲さんとは反対にあたる位置に俺は腰を下ろした。ふと、隣に目をやると、読書をしている少女の姿が目に入る。緊張しているんだろうか?読書しているその手が、先ほどから1ページも進んでいなかった。
そんな彼女を驚かせないように、穏やかな声で声をかける。
「少し、お話いいかな?」
隣をむいて話しかけると、読書をしていた、黒髪の少女が俺の方を戸惑った様に見る。
「……えっと、私ですか?」
少し上ずった声を上げながら、恐る恐るこちらを振り返る。目元に少し髪がかかりそうな、髪を揺らしながら、茶色い瞳が俺の姿を捉える。
正面から捉えた彼女は、素朴で純粋そうな女の子だった。もしも、髪型を整えたり、オシャレしたら、男子からかなり注目を浴びそうなそんな可愛らしい子で、少し驚く。
そんな動揺を隠しつつ、答える。
「そう。僕も普段から本を読んだりするから、どんな本読んでるのかなってちょっと気になっちゃって、声をかけさせてもらったんだけど。迷惑だったかな?」
「いえいえ、むしろ、私なんかに話しかけてくれてありがとうございます」
なんて、少しおずおずしながら答える。自分に自信がないのだろう、声が少し震えていて緊張がこっちに伝わってくる。それは体にも表れており、少し猫背気味で応えていた。
俺は出来るだけ穏やかな笑みを浮かべながら尋ねる。
「それで、どんな本を読んでいたのか聞いてもいい?」
「……はい、今読んでいたのは『星を羨む』って作品です」
「それ、俺も読んだよ!!」
最近読んだ本の中でも特に印象に残っている本のタイトルを挙げられ、思わずテンションがあがり、ぐいっと距離を縮めてしまう。丁度机との間に会った距離、半分ほど前のめりになる。
彼女はそんな俺の反応に驚きつつ、少し笑みを零した。自分と同じように本が好きだとわかったからだろう。少し安堵しつつ、それでも急に距離を縮めたことに少し委縮しているようにも感じ、俺は体を後ろに引き戻す。
何処まで読んでいるのかな?なんて分からないから、とりあえず冒頭の内容に軽く触れる。
「平凡な主人公が、憧れの女性と出逢って。彼女の隣に立てるように努力する物語だよね?」
「そうなんです!最初は自信がないけれど、小さな目標を達成する姿とか。憧れた人との差を痛感して、憎む気持ちとか、心理描写がとても細かいんです」
彼女もこの作品が好きなんだろう。すっかり、前のめりになりながら、少し早口で語った。それに俺自身もテンションがあがる。だって、俺も丁寧な心理描写に心を揺さぶられた一人だから。
「わかる!こんな僕でも前に進みたいって決意する所には圧倒されのを今でも鮮明に思い出せる!」
「ですよね!!」
二人してうんうんと深く頷きながら、小説の内容に浸ってしまう。ふと、はっとしたように見つめた先の彼女はまだ、物語の世界にいるのだろう。口元に笑みを浮かべながら、優しい表情をしている。
そろそろ、緊張がほぐれてきた頃だろう。そう判断して俺は声をかける。
「そういえば、自己紹介がまだだったね」
「そう~……でしたね!」
彼女も驚いた様にハッとした顔になる。それくらいには楽しく会話出来たってことだろう。実際俺も彼女と話しているのが楽しかった。
「改めて、僕の名前は、鏡 連。得意なことはないけれど、素晴らしい友人が沢山いる」
俺の言葉に一瞬、ポカンとした表情を浮かべ。それから、小さく肩をゆらしながら、彼女が笑う。
「なんですかそれ。普通は“好きなこと”とか“趣味”とか自分をアピールする場面じゃないんですか?」
「確かにそうかもね。でも、俺にとって友人が一番上にくる」
そんな飾り気のない自己紹介に、隣の少女はくすくすと笑った。緊張が和らいだのか、今度は彼女が口を開く。
「私は中野 雫っていいます。趣味は読書です」
「さっきも本を読んでいたもんね」
「はい、今日も3冊は持って来ているんですよ」
そういって、彼女は鞄から本を取り出す。まだ、教科書が入っていないからだろう。中身は俺と同じように、すかすかだったのが見える。
「『硝煙』と『桜の時』って本なんですけど、知ってますか?」
「『桜の時』は読んだよ。思い出す度に少し泣きそうになるほど、よかった」
「そうなんですね! 楽しみだな~」
なんて、嬉しそうに笑う姿に俺も表情を緩めていた。
「ほんとに本が好きなんだな」
「はい! そういう鏡さんだって、好きですよね」
「うん、めっちゃ好き。だから、こんなにも本の話で盛り上がれる子と知り合えたのが、嬉しいかな」
「私も……嬉しいです」
少し恥ずかしそうに、頬を染めながら、素直気持ちを伝えてくれる。若干緊張もしているのだろう。本に触れていた指先に力が入っているのが分かる。
それでも嬉しそうに笑う姿はとても魅力的に思えた。この瞬間を写真に残しておきたいと思うほどに。
それから色んな話をして、通っていた学校の話になる。
「私は王来中学校から、ここに進学してきたんです」
王来といえばここから一時間以上はかかるはずだ。たしか、大翔が中学時代に、野球部の試合で行った時に大変だったと語っていたのを覚えている。
「けっこう遠いよね、王来って?」
「そうですね。電車とバスを乗り継いで……だいたい一時間くらいかかります」
「やっぱり、結構かかるんだね。俺は並木ヶ丘中学校だから割と近いんだ。最寄りは桜ヶ丘駅だし」
「ここから6駅の所ですね。少し羨ましいです」
なんて、微笑みながら告げる。話していると分かってくるんだけど、感情がつい表情に出るからこそ、素直な気持ちが伝わってきて、凄く話しやすい人だなって感じる。
「それで、中野さんはどうしてこの学校を選んだの?」
さすがに一時間以上かかるこの学校を選んだ理由が気になった。彼女の方面で、ここと同じくらい偏差値が高い学校がある。それにこっちの方が倍率が高いから、つい気になった。
「この学校って、先進的じゃないですか。放課後にはプログラミングとか、専門的なことを教えてくれる先生もいますし。そう言った新しいことに挑戦したくて選んだんです」
「なんか、いいね。その理由。自分も頑張ろうって思える」
「そうですか?」
「うん。目的をもって努力しようって人を見ると、自然と背筋が伸びるんだ。自分も頑張らない取ってね」
そんな俺の方を微笑みながら見つめる。口持ちに手を当てて、肩を揺らす姿が可愛らしいなと思った。やがて、何かを疑問に思ったのか、目を開いてこちらを見つめる。
「逆に、鏡さんはなんでこの学校を」
「う~ん。単純に進学校で家から近かったからかな。褒められる理由じゃないけど」
本心的な部分で言うと、涼花が心配だからという理由だった。何かあったら、すぐに駆け付けられるようにしたいというのが本音だ。ただ、それでも、偏差値が高い学校を選ぶと少し距離が遠くなったんだけどね。
だってさ、いずれ涼花も同じ学校に通う予定だからこそ、俺が選択肢を狭めないようにしたかった。だから、どこの大学へでも挑戦できる学校を選択したんだ。
「もしかして、他のところでも受かる実力あったんですか?」
「うーん、行けた可能性もあるかもしれない。まあ、挑戦してないから、どっちとも言えないんだけどね」
さすがに深く理由を聞かれて、「義妹基準で選びました」なんて理由は、初対面で話す内容じゃないなと思い、少しだけごまかして、俺は言った。
「でも、この学校だったら確実に受かるって思ってたってことですよね?」
「まぁ。優秀な教師がついてたから」
「……やっぱり、そうですよね。周りの人は裕福で気後れしてます」
なんて、呟くと。少し彼女が気落ちした様子で告げる。そんな彼女を安心させるように、ゆっくり周りを見渡しながら伝える。
「ウチもある程度裕福だけど、気にしなくていいと思うよ。どうせ、皆んな勉強に追われるんだし」
「ふふ……なるほど。下手な慰めより現実的ですね」
なんて、小さく肩を揺らしながら、中野さんが笑っていた。そうやって他愛もない話をしていると教室のドアが、ガラリと大きな音を立てて開いた。そちらを見ると、そこには一人の男性教員が立っていた。
「――お前ら、席につけ!」
その声に、ざわついていた教室が一斉に静まり返る。皆がそれぞれの席に戻り、先生の説明が始まった。
「事前に資料を配っているが、もう一度今日の流れを説明しておく」
先生からの説明を一通り聞く。隣には真剣な表情で先生の説明を聞く雫の姿があった。一通り説明を受けた俺達は、入学式のために体育館へと向かうのだった。




