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第3話:目を惹く存在

駅へ辿り着くと、待ち合わせしていた二人の姿がすぐに見えた。朝の改札前。通勤客や学生たちが行き交う中でも、大我と有明は妙に目立つ。


「おー、連!」


大翔が片手を上げながら、大きな声で俺の名前を呼ぶ。その爽やかな笑顔に、近くを歩いていた女子生徒たちがちらりと視線を向けていた。


一方、有明はいつものように、静かに笑みを浮かべて俺の様子を確認する。先程まで無表情でクールな印象だった知的なイケメンが見せる笑顔に、大翔と同じように視線を集める。


(相変わらず、二人は周囲の視線を集めるな)


なんて思いながら「おはよう」と二人に挨拶して合流した。



***



電車へ乗り込み、三人並んで揺られていると、やはり周囲から視線を感じる。ちらちらとこちらを見る女子生徒たちの視線の先には大翔と有明の姿があった。


二人とも中学時代からかなりモテてたもんな。彼女持ちだと知られていてなお告白されるくらいには、とにかく目立っていた。


大翔は、いわゆる爽やか系のイケメン。百八十を超える長身に、鍛えられた体格。茶色がかった髪と、人懐っこく笑う表情が印象的で、男女問わず好かれるタイプだった。


一方の有明は真逆だ。


落ち着いた雰囲気に、切れ長の目。眼鏡の奥から知性を感じさせる空気を纏っていて、普段は淡々としているのに、ふと笑った時の破壊力が高い。


そりゃ、女子人気が出るのも良ーくわかる。俺でも時々惚れそうになるくらいにカッコいいからな二人とも。そんなことを考えていると、有明がこちらを見てくる。


「どうしたんですか、連君。急に静かになって」

「いや、二人とも本当に注目されてるなって思って」


素直にそう言うと、なぜか二人とも微妙な顔をした。


「……相変わらずですね、連君は」

「いや、別に嫉妬とかじゃないぞ?」

「えぇ、分かっていますよ」


なんて、少し呆れたように愛おし気に見つめられる。意味がわからず見つめ返していると、大翔の方もなぜか苦笑していてさらに意味が分からなかった。


それでもこうして、二人の笑顔を見ると少し安心する。常に周囲に気を配らなくていい、互いを信頼して、緩慢とした空気感になる瞬間が好きだった。


その後もいつものように、何気ない会話をして、学校へと辿り着く。


入試以来、久しぶりに訪れた学校。少し緊張しながら俺は校門をくぐる。以前見たように、大きな校舎が正面に構えている。その側に植えられた桜の木から、花びらがぱらぱらと舞っていて、風が俺たちのもとまで運んでくる。そんな周囲を彩る景色に。


(あぁ、美しいな)


なんて、俺以外にも、その景色に見惚れている者もいる。少し緊張していた心持ちも、どこか春らしいその雰囲気に、自然と気分が落ち着いていくのがわかる。


周囲の生徒たちも同じなのか、ふと空を見上げて立ち止まっている者もいた。だからだろう、その違和感はすぐに感じ取れた。


どこか緊張したような視線で、皆が一斉に同じ方向を向いて固まっている。友人と来ている者たちは、何やらこそこそと話していて、ざわつき出すのがわかった。


「……?」


何事かと思い、俺たちも既に通過していた校門の方を振り返った。その視線の先には、一人の少女がいた。丁寧に手入れされた長髪の黒髪をたなびかせ、凛とした美しさと知性を感じる黒い瞳。少し幼い印象を受けつつも、あまりにも整った顔立ちをした少女がいた。


一瞬時間が止まったかのように、彼女が姿が鮮明に瞼に焼き付いた。周囲を気にすることなく、ただ前を見つめる姿に、思わず目を奪われるほどに綺麗だった。彼女を祝福するかのように、桜の花びらが彼女の周りを舞っている。


そんな光景に、俺はふと、妹の姿を重ねていた。


——小学校の入学式。


新品の制服に身を包み、不安そうに、それでも前を向いて歩いていた小さな背中。どこか緊張している義妹に、あの頃の俺は声を掛けることが出来なかった。


兄は妹より優れていなければならない。そんなくだらない考えに縛られて、素直に近づくことができなかった。ふと、過去の後悔を思い出し、少し下に視線を落としてしまう。


再度見上げた先には、周囲の視線にさらされているというのに、表情を一切変えず。——それでも、少し寂し気に見える彼女の表情があった。


どうしてあんなにも、悲しそうなのだろうか?なんて、つい気になって彼女の姿を目線で追っていた。彼女が校舎に入っていくと、ふと隣から声が掛かる。


「気になるんですか、連君?」


真剣な表情で俺を見つめる有明に、頷いて返す。


「うん、周囲を寄せ付けない雰囲気の中に、どこか悲しさを感じたんだ」

「そう……ですね。あの容姿せいでしょうか、同性からの嫉妬も、異性からの恨みを買うことも多そうですし。過去に何かあったのかもしれませんね」


ふと悲し気に呟く彼も同じような経験をしたことがあるのだろう。中学時代にも、先輩の彼女が有明に好意を抱いて、面倒なことになったのを思い出す。


そんな嫌な出来事を思い出して、俺たちが落ち込んでいる中、空気を変えるように大翔が明るい声を上げながら、俺たちの肩に腕をまわす。


「なら、力を貸してあげないとだな」

「そうですね。そういうのは、連君の得意分野ですし」

「……あぁ、確かにそうだな」


なんて、つい笑みを零していた。本当に頼もしい友人と出逢えてよかったと。心から思う。


彼らは俺を信頼してくれるけれど、俺自身に優れた能力はない。有明のような冷静さも、大翔のように周りを照らす明るさもない。でも、二人がいる。彼らとなら、どんな場面でも乗り切れると確信していた。だから、


「困った時は、いつものように手を貸してくれる?」

「おう!」

「もちろんです」


明るい声を上げる大翔に、冷静に答える有明に俺は安堵しつつ真っ直ぐに目の前を向いて歩き出す。彼女と同じクラスになりそうだという予感めいたものを感じながら。俺たちは教室へと向かった。

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