第51話 ねぇ、好きな人くらい、いるんでしょ?
事態が収拾つかなくなったことを察したところで担任が手を叩いて進める。
「転入生の自己紹介が押しているから、次に進むぞ」
お陰で、皆の視線が望未に集まる。先程よりも表情が少し陰った気がしたが気のせいだろう。今は先程のように優し気な笑みを浮かべていた。もしかして、手紙を返せていなかった点についてまだ罪悪感を感じていたりするんだろうか……?
そう考えている間にも、望未は黒板に自分の名前を書き込んでいた。そうして、満面の笑みで自己紹介を開始する。
「春風 望未といいます。出身はこちらで、小学生から関西に10年ほどいました。可愛いものが好きなので、そう言ったお店を教えてくれると嬉しいです」
ぺこりと彼女が挨拶をしていると、女子の数人がざわざわしていた。授業中なのに堂々とスマホを取り出しているのはある意味先生への挑戦だと思っているが、先生もそれを止める様子がない。頭にクエッションマークを浮かべていると
「やっぱり、はるのんだ!!」
そういって大きな声で宣言したのは、隣に左隣に座る東雲 葵さんだった。黒のショートカットに青い瞳。クラスでもムードメーカーであり、男女気兼ねなく接するからこそ、男子の人気も高かった。まぁ、彼氏がいるって告げたたときの男子の悲壮感はすごかったけど……。
「にしても、はるのんって、なに?」
知らない単語に俺はいつも様に尋ねてしまう。すると、何で知らないのという責めた視線を向けられるが、なんで責められているのか分からない。
「幼馴染なんだよね?」
「……そうだけど、連絡を取ったのなんて去年ぶりだよ」
そう宣言すると、俺を見つめた後にジーっと望未を見つめていた。にやりと笑うと納得したように頷いていた。
「はるのんってのは、アイドルHaruNoの愛称なんだよ。関西では有名なアイドルで、それが彼女!!」
「へぇ~、それで東雲さんは何で知ってるんだ?」
「かわいい子を探すのが趣味だから」
「わかります!!」
望未がのってくるのが意外だったのか、俺も東雲さんも彼女を見つめいた、
「あとで、語り合いましょう!!」
「えっ……うん!!」
いやテンション上がりすぎだろう。そんなことを思いつつも、どこか自然と笑みが零れつつ二人の様子を見つめいた。早くもクラスメイトの心を掴んでいるのは流石ってところだろう。
「ほらそこ、携帯しまって授業を開始するぞ」
「そうですね」
「席は一番後ろっていいたいが。連が後ろにいってくれるか?」
「はい、もちろんです」
先生が言いたいことは分かる俺の隣の席が東雲さんである。彼女の隣にすることで仲良くなるきっかけを作るためだろう。何よりも、俺と距離を遠ざけることでヘイトを少しでも下げられるってわけか。
「ごめんね、連君」
「大丈夫だよ、俺は親友の大翔と隣になれて嬉しいしな」
「だなっ」
そう大翔も返事をして、そちらにもペコリとお辞儀をしていた。一つ一つの所作が洗練されているからこそみんなの目を引く。これからの学園生活にまた一波乱が起きそうだなんと感じた。
***
「にしても連にあんなにカワイイ幼馴染がいるなんてね」
大量の人に囲まれている望未の方を見つめながら千聖がどこか問い詰めるような視線を向けてくる。
「まって、変に誤解しているかもしれないけど、さっきいったように去年に手紙でやり取りした位で……」
「じゃあ、彼女と再会したのは偶然なんだ?」
「そうだよ。だからつい驚いたというか……」
思わず立ち上がりそうになるほど俺自身も動揺していたほどだ。彼女がこの学校にくるなてほんとに想定していなかった。
「でも、仲良いんだよね?」
桜は俺の表情を確認しながら尋ねてくる。千聖に詰められる俺をどうやら助けてくれるようでそれに頷く。
「そうだね。家が近いというのもあって結構遊んでたな」
子供ながらに公園で遊んでいたのも思い出す。望未は色々と着眼点が凄かったけな。そんな昔のことを思い出してついつい、懐かしさから笑みを零していた。
「付き合っているとか、実は将来を約束した間柄でとかじゃないよね?」
「ないよ。逆にあんなに変わっている方が驚きだったかな。それに向こうも彼氏だっているでしょ?」
「そう……ね」
どこか納得しない不服そうな顔をするなかで、千聖もまた彼女の方に近付いていく。少し険しい顔をしているはなぜなのかと少し不安になりながら見つめる中で、千聖が質問する。
「ねぇ、私も質問良いかな、望未さん?」
「うん、いいよ」
自然体に応える彼女の悪意のなさに、千聖もどこか口にしずらいようだった。それでも口を開く。
「その……望未さんには向こうで特別な存在とかいたの。例えば彼氏とか?」
その問いかけに周囲の男子が思わず会話を止めて聞き耳を立てる。そんな空気感を感じながらも望未は笑みを浮かべたまま口にする。
「いないよ」
その一言で、数人の男子が小さくガッツポーズをする。……いや、喜びすぎだろ。そう内心でツッコむなか、望未と目が合った。そして、一瞬だけど、また悲し気な顔をしたのは気のせいかな……。
ただそれを疑問に思う間もなく、千聖の質問を皮切りに女子の方から恋愛系の質問がどんどん飛んでくる。
「向こうでカッコいい人いなかったの?」とか「今まで彼氏とかはいたんじゃないの?」という質問に、
「う~ん。いたと思うよ」
「彼氏は今まで一度もいたないかな」
と答える。本当に恋愛経験がないと分かった周りの女子達は一斉にいった。
『もったいない』
その言葉にほとんどの女子が頷いている。男子の方はどこか大げさに抱き合っていて、それに思わず笑ってしまう。
「ほら、私アイドルやっていたし」
「でも、過去に気になる人くらいはいたんじゃ?」
「うん……いたよ。昔から好きで、彼の隣に立てるくらい自信を持てるように始めたのがアイドルだった。でもファンをの人に悪いと思って諦めたんだ……それに今は彼女もいるしね」
少し悲しそうな表情を見せたからだろう。質問した女子も罪悪感を感じてるようだった。その変化を望未は見逃すはずもなくすぐに笑顔で伝える。
「でも、その人のお陰で私は今の明るい性格になれた、可愛いものが好きって面と向かっていえるようになった。だから、後悔はしていないかな」
そう告げる彼女の言葉に納得した。向こうで好きな人が出来て、彼女は変わったんだろうと。素敵な出会いを称賛すると同時に彼女を振った、いや告白されてはいなにだろうが……その男子にもっと彼女を見てやれといいたい。なにより、叶うならその恋が実って欲しいとも思った。
それを聞いた千聖はようやく俺への疑いを薄めたようで戻ってくる。ほんと、疑いが晴れてよかったと感じる。
そんな中で東雲さんが引き継ぐように尋ねる。
「本当に大切な人なんだね」
「うん。家族と同じくらい大事に思っている」
「でも、会いに行くとなると時間とか掛かっちゃうもんね」
「そうでも…………えっとそうだね!!」
何かに気づいた彼女は慌てたように机から立ち上がった。姉妹校というのもあり向こうの学校とも雰囲気が似たような感じだからだろう。まだ関西にいたころの感覚が抜けていないようだった。恥ずかしくなった彼女がスカートを掴んで顔を赤らめいている様子に、周りの女子達は頬が緩んで見つめている。
カワイイという心の声が聞こえてきそうなほどだった。望未も抜けているところがあるんだなと、謎の安心感を覚えていると、俺に対しての視線を感じる。その方向に目線を見つめると東雲さんがいて、俺を見て何か納得しているようだった。俺の後ろに何かあるのかと思い振り返るが、そこには大翔や有明しかいない。
……?もしかして二人と面識があるとか?なんて考えていると東雲さんから質問が飛んでくる。
「連ならその相手を知ってるんじゃないの?」
「手紙でのやり取りを最近した程度だからね。分からないよ。それに望未を変えてくれた人物ってのは俺の方が気になるかな?」
「へぇ~、気になるんだ」
俺の方を見つめてニヤついている彼女は何が狙い何だろうな。若干千聖と、隣にいる雫からの視線が鋭くなるのでやめてほしい。まさか、東雲さんにまでとも言いたげな二人の視線に内心で弁明する。
流石に彼氏持ちにまでアタックしないよ……と。
東雲さんの方のあの笑みはどこか小説のような物語を楽しみにする人のソレで。きっと、幼馴染か、離れ離れになってしまった想い人どっちを取るのかなんて妄想しているのだろうな……。
当の本人である望未の方はそんな東雲さんの方を見て、どこかむくれたように冗談っぽい起こり方をする。
「私ばかり質問されてズルい……そういうモテそうな葵の方は彼氏とかいないの?」
ぷくっと膨れた望未に対して、東雲さんは危機感を覚えることなく、頬が緩んでいる。ハッと我に返って自信ありげに答える。
「私は彼氏がいるからね」
胸を張ってこたえる彼女に足して、嫉妬するのかと思ったがそうじゃなかった。
「サラッと答えるのズルい」
そんな風に少し怒ったように頬を膨らませる。怒った姿ですら可愛いと思ってしまうのだから凄いなと感じた。常に可愛いを意識した振る舞いに、本当にアイドルして頑張っていたんだなという努力の跡が見られる。
(そっか、望未はファンの人を本当に大切に想っていたんだな)
どこか温かな気持ちに包まれる中、他の生徒もまた望未と東雲さんが言い争っている姿を見て、和んでいた。それに笑みを零しつつ、彼女ならきっとこの学校でも上手くやっていくだろう。そう思った。




