第41話 少し話してもいいかな?
数分歩いた先、彼の家が見えてくる。その作りは豪邸のそれだった。高さ3mはあるだろう門に、普通の家何棟分かの家。一度入ったらきっと助けを呼んでも聞こえないんだろう。そう思いながら玄関を通る。
どうせ弱みに付け込むんでしょ?……そう思っていたのに。
「お兄ちゃん、お帰り!」
なんて無垢な少女が現れる。その子は私よりも圧倒的に綺麗だった。なにより、穏やか笑みに対してみせる彼の表情で分かってしまう。彼は心の底から目の前の少女を信頼していて、裏切りたくないという想いが本物だと。
初めて見せる、彼が気を抜いた姿に、頭を抱えたくなった。——あぁ、やっぱり神様は残酷だなと。少しは自信があった容姿ですら、否定され、性格ですら私は目の前の少女よりもずっと薄汚れていた。
私の心の内など知らない彼は、明るい様子で告げる。
「悪いけど、風呂場まで案内してもらってもいい?それと説明とかも」
「もちろんだよ」
そういって彼女は私のことを案内してくれる。そんな少女のことを信頼して、彼はリビングらしき部屋へと向かって行った。
「それじゃあ、こっち来てもらっていいいですか?」
その言葉に私は頷く。ふらつく足取りで彼女の妹に連れられてお風呂場へと向かう。一人お風呂に入る中、涙が止まらなかった。
あぁ、なんて私は醜いんだろう。ほんとは彼がそんな人ではないと知っていたのに、つい求めてしまった。彼が落ちぶれたら良いと……。
風呂場から上がった私は服を着る。上は青いレディースシャツに下は黒のパンツだった。そのシャツの上ボタン。それを数個上げる。丁度ブラが見えるように。彼はそれにどう反応するのだろうか?試すようにその姿のままいった。
彼が入った部屋には義妹とさんもいて、胸元を少し隠す。
「じゃあ、少しの間席を外すね」
妹さんは私を見て、優しく笑い去っていった。中は大きなリビング。私が住んでいるアパートよりもずっと広かった。144型ってやつなのかな?壁には大きなテレビが張り付けられていて、その前に四人ほど座れそうな白いソファーがおいてある。
その隣にも三人ほど座れそうなソファが直角で置かれていた。彼は奥の三人用のソファに腰を下ろして、
「どこでもいいから座って」
と私を促す。少しでも彼が意識するようにと、彼から一番近い四人掛けのソファの端に腰を下ろした。それに彼は驚きつつ、どこか悲し気な表情をしていた。それが気になってしまう。どうして、今にも泣きそうなのか問いかけたくなる中で彼は口を開いた。
「落ち着いたら話をしたい。まずはお茶を飲んでよ」
そういって、彼は用意してくれたコップを進める。そこに映る私の表情は酷い顔をしていた。どこか、目が虚ろで、酷く暗い顔をしている。だから……か。そう思いつつ、私も口を開いた。
「……家、大きんだね」
口から出た言葉は、彼に対して嫉妬していることを再確認する内容だった。彼はそれに少し顔を歪めつつ答える。
「そうだね、親が社長だから」
彼は淡々と返す。その口調に自慢めいた響きは一切ない。
「あんなに可愛い妹さんがいるなら、私で驚かないわけだ」
少しだけ、唇が歪む。自分でもわかる、笑顔とはほど遠い表情だって。
「そう……だな。確かに涼花は世界一可愛いと思う」
彼は何を言えばいいのか戸惑っているようだった。その間も私の胸や尻。そういった部分を邪な視線で一瞬たりとて確認することはない。ずっと分かっていたけど、彼は私に一切興味を持っていなかった。
ほんと、可笑しいよね。これまで男性に何て一切興味を持ってほしくなったのに、今は彼に少しでもいいから興味を持ってもらいたいって思っている。私の存在を少しでも認めてほしいと、そんな都合のいい願いを抱いてしまう。そんな自分が心底嫌になる。
(何やってるのんだろう、私……)
見上げた天井の白さが、やけに眩しかった。それは照明の光じゃない。まるで、自分がずっと目を背けてきた現実を、容赦なく照らし出す光のようだった。
「そっか。最初から私は特別じゃなかった。ただ、勘違いしていただけ……なんだね」
ポツリとそう呟いていた。ねぇ、気づいている。今も少し胸元が見えるように着崩していることに。それに対しても何の反応もない。色仕掛けすら通じないほどに私に対して興味ないんだろう。ならなんで私に構うの。優しくするの?そう思ったら、私は泣いていた、
彼は少し困ったような、苦しそうな笑みを浮かべながら私に一言言った。
「俺は、夢咲さんのことを特別だと思っているよ」
「どこが、何に対して?」
瞬間的に反応していた。嘘だったら許さないと彼をにらみつける。彼は少しだけ宙を見つめて告げる。
「過去の自分と違って、決めたことに一直線で頑張れるところかな。その道は苦しくて、俺は逃げたから……」
笑っているのに、どこか泣き出しそうだった。その姿に少しだけ溜飲が下がる。
「意味が分からないんだけど」
でも、そのはぐらかしたような言葉には強く返してしまう。彼は私を見つめて、少しだけ苦しそうな笑みを浮かべて目を瞬かせる。つらい表情をさせたことに少しだけ罪悪感を感じた。彼は、息を吐いて真剣な表情で私を見つめる。
「少し、俺の話をしてもいいか」
そう私に向かって、彼は少し悲し気にしながら口を開いた。




