第39話 結果発表
5月中旬という少し空気が熱くなってくる中で、今日は少し肌寒い。梅雨の前触れとでも言うように、しとしと雨が降り注ぐ中、担任はどこか明るい声で宣言する。
「それじゃあ今日から、 試験の返答をしていくから」
翌週の月曜日。試験から3日経った際に告げられた担任の言葉に俺たちは驚いたように見つめた。
「もうできたんですか?」
クラスメイトの声を代弁するように告げると担任がにっと笑う。
「お前らが何やら面白いことをやってたからな。他の先生に頼み込んで、優先して採点してもらった。全教科で採点は終了しているから水曜日には全部返却されるな」
その言葉に、さすが担任と尊敬を集める。そうして開始された一限目の担当は担任だった。
「じゃあ今回のテスト、高得点者の名前を呼んでいくぞ」
そう言って、担任は名前を読み上げていく。 有明に俺、夢咲さんと白峰さん。そんなふうに名前が挙がっていった。
2限目も同様に、 俺たち三人の名前は固定で、あとは綾瀬さんや雫の名前などが上がっていく。他の生徒の名前も所々聞こえてきて、それぞれが得意分野の名前がわかってきた。けれど、点数までは発表されないからこそ、クラスの緊張が高まっていくのがわかった。
「マジであの三人、ずっと名前呼ばれてんな」
「えぐすぎじゃね?全部90点以上ってことだもんな」
そんな声が、ところどころから聞こえる。同時に、夢咲さんに対する思いもまた少し変化がある。敵という部分は変わりない。けれど同時にやはり尊敬があった。こんな状態でも、ずっと点数を取り続ける彼女に対して、みんなも感心していた。
***
翌日以降も答案用紙は返却されていく。その間も俺たち三名の名前だけは固定で呼ばれており、次に多いのが白峰さんだった。これまで8教科返されて、5教科で名前が呼ばれているのでかなり点数が高いことが察せられる。
彼女もまた尊敬の視線を一心に受ける中でも、やはり話題は俺たちの勝負が中心だった。
「にしてもどうなるんだこれ。全部90以上ってことは、一桁の点数次第だよな」
「ガチな接戦だよな。っていうか連があそこまで接戦を繰り広げるのは意外だったな」
なんて周囲の方も完全に想定外だったのだろう。それは当然で、入試の成績から考えるなら圧倒的に周りの方が上だった。だからこそ、俺もまた一応はクラスに認められる存在になっている。
みんなとは気軽に接したいので、あまり持ち上げられるのは好きじゃないんだけどね。なんて想いはあるんだけどね。
そうして恒例のように、俺たちの名前が上がっていく日も、いよいよ最終日を迎える。最後の科目が返却される中、また高得点者の名前が挙がっていく。先生の発表を待つ皆の喉がごくりとなるのが分かった。
「それでは、高得点者は……有明君、鏡君、白峰さん、夢咲さん」
淀みなく告げられた言葉に皆が呟く。
「マジでやりやがったぜ、アイツら」
「全教科90点以上は化物だな……」
なんて尊敬とも畏怖とも取れるような視線を向けられる。それにどこか嬉しさと恥ずかしさがありつつ、俺は自分の合計を確認する。
(……1270点か)
約2.3点ずつ落とした結果になる。現状出来る手は全て尽くしたとはいえる。それでも彼女の結果が上回っている可能性はあった。
様子を窺う様に見つめた先の彼女は、小さく頷きどこか自信の結果に納得しているようだった。テストが終われば当然のように授業は進んでいく。そわそわする皆の様子とは違い、彼女は周囲を気にせず、授業に集中していた。一貫している彼女の態度に流石だなと感心する。
そうして迎えた休み時間。気になっているだろう男子が詰め寄ってくる。
「で、誰が勝ったんだよ!」
授業が終わると皆の質問攻めにあいつつ、俺は微笑みながら答える。
「さぁ、分からないよ。だって夢咲さんは教えてくれないだろうしね……でも、担任が俺達の騒ぎに乗じて、結果をまとめてくれたみたいだから放課後には分かるよ」
「マジかよ!でもまてねーよ!!」
「あと数分後だろ、我慢しろよ」
なんて告げる物の、肩を落とす彼らの姿からは、本気で期待しているのがわかるからこそ、俺は思わず笑ってしまう。そこには夢咲さん自身への鋭い視線なんてもうなくなっていたから。
どこか嬉しくて笑ってしまう。そんな、教室中が昂揚した雰囲気に包まれるなか、ガラリと扉が開かれる。
「待たせたか?」
「待ちましよ!」
なんて松坂先生と生徒が軽い調子で話す。ホントにフランクだなと思いつつ、担任はどこか嬉しそうに持っていた髪を黒板に張り付けていく。そこには順位だけが掛かれており、隣にはシールで名前が隠されていた。
どこまでも期待感を煽る人だなんて思いつつ、俺たちはどこか緊張した様子で担任の発表を待つ。
「どうする?一位から発表していくか、それとも10位くらいから」
「10位は長いです。5位からでお願いします!!」
なんて生徒の要望に担任が頷きつつ、口元に笑みを浮かべながら発表していく。
「それでは発表しようか……総合順位、第五位 綾瀬 1197点。第四位 白峰 1211点」
どこまで拍手をしながら聞いている者の、みんなどこか緊張した面持ちで次の発表者の名前を聞く。
「それでは第三位……」
担任はどこか楽し気ににやりと笑いながらあえて、俺たちを焦らす。周囲の視線を一心に受ける中……
「夢咲! 1242点」
と発表した。それに驚いたのは他でもない、呼ばれた本人だった。思わず席を立ちあがり、俺たちの方を見つめる。有明と俺を見比べて、呆然と立ち尽くしてしまう。それを咎める人がいないのはきっと、現状を受け入れられずピントの合っていない視線を見てだろう。
自分達もまた同じように高校受験を通す中で一度は経験しているからこそ、誰も声を掛けない。それを察して担任は口を開く。
「続いて第二位は……有明!1264点!! そしておめでとう鏡、お前が総合一位で1270点だ」
その言葉を聞いた夢咲さんは崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。呆然とした焦点の合わない瞳でただ、前を見つめる。身体にあまり力が入っていないのだろう。椅子に持たれかかっていた。
彼女からすれば、28点差。つまり一教科あたり一問追加で正解する必要があり、その難易度が高いことを察せれる。90点以降の一問の重さは時間にすれば、3~5時間が必要だろう。それが全教科なら39~45時間。到底一日、二日での差ではない。
だからこそ、差が圧倒的に感じる。そんな彼女を気にかける人もいる。それでも……
「マジかよ!ガチで連が一位!!というか待って、1270点って平均何点だ?」
なんて順位と点数だけに視線が向くものも当然いた。俺は戸惑いつつも答える
「えっと……97.69だな」
「化け物じゃん」
「というか、有明と連だけ突出しすぎだろ」
「そうですね。本気でぶつかったらこうなりますよ。けど、今回は完敗です。次は勝ちます」
連君フォローは後にしましょう。なんて視線に頷く。
「あぁ、次もやりあおう。まぁ、負けないけどね」
なんて言いながら差し出された手を握り返した。それでも余計に質問をしてくる。
「というか、そんなすごいお前ら二人だったら、主席も狙えたんじゃねえの?」
「俺は分からないけど、有明なら可能性があったとは思うよ」
「連君、謙遜が過ぎると嫌味ですよ……。確かに可能性はあると思います。けど、僕も連も別のことで忙しかったですからね。仕方ないです」
「本当化物かよ。お前ら」
なんて盛り上がってくれているのはありがたい。これまで遠巻きに見つめていた彼らが興奮しているからこそ、話しかけてくれることも嬉しい。ただそれ以上は続けるのは、さすがに彼女を傷つけると思っていると。
「盛り上がっているところ悪いけど、ホームルームを再開するぞ」
なんて担任が助け舟を出してくれる。中心に俺たちがいるからこそ、その役目は自分が相応しいと思ったのだろう。担任に助けられつつ、ホームルームを終えいよいよ、放課後になる。
みなが話かけたそうにする中で、俺は彼女が帰る前にと夢咲さんの元へと向かった。どこか失意の中にいる彼女に声を掛けずらいと思いつつ口を開く。
「……夢咲さん、約束通り…………」
どこか遠慮したような声になってしまう。それでも彼女は下を向いたまま告げる。
「分かってる。明日からは貴方の言ったとおりにする。だから、いまは……」
「わかった……」
そんな雰囲気に誰も声を掛けれない。結局彼女に声を掛けられないまま見送ることになるものの、クラスメイトからはどこか楽し気に声を掛けられた。
「お前マジで何でもそつなくこなしすぎだろ!!何で部活はいらねーんだよ」
「やりたいこともあるし、何より生徒会を狙っている」
「なるほどね、お前ならいけそーな気するわ!」
「ありがと」
なんて楽しそうに会話をしているからこそ俺はすぐに気付けなかったんだ。千夏たちがどこか焦ったように俺に声を掛けたことに……。




