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第30話 いつか苗字で呼べたら

「そっか、やっぱり連って金持ちだったんだね」

「そんな感じした?」

「うん、なんとなくだけど育ちはいいなって思ってたよ。食べ方とか、姿勢とか」

「確かに綺麗でしたね。 大翔君や有明君ももしかして?」

「そうだな、有明は、あの有明財閥の親戚にあたるし、大翔の方も父が社長だよ。 だからいろいろと話し合ったり、時にはビジネス面で協力したりもしてる」

「なるほどね」


なんて千夏がどこか納得したように告げる。といっても有明と違って大翔の方は小学校で初めて出会て知りあった感じだ。


「それじゃあ、もしかして、大翔君が付き合ってる方も?」

「そうそう、親同士の付き合いで知り合った子。大翔を支えられるのは、彼女だけって思わせるほど素敵な子だよ。有明の方もあれで意外に彼女にデレたりするんだよ」

「あの有明くんが……」


その言葉に驚いたように雫が目を見開いて彼を見つめる。夢咲さんの方はこの話題にどう口を開けばいいのか迷っていて、なんとなく雫の真似をして有明を見つめる。千夏だけは、どこか揶揄うような笑みを浮かべていた。


すると返ってくるのは、少し鋭い視線で、千夏はすぐにすっと目を逸らした。


「深くは聞かない方がよさそうだね」

「そうだな。有明のデレた姿を知ってるのは、中学時代特に仲良かった俺や大翔とかくらいだしな」

「そっか……他にも知っている人がいたら聞きたかったのに……」


千夏は少し残念そうに肩を項垂れていた。ほんと好きだよねこういう話なんて思っていると。千夏が鋭い視線でどこか俺を試すように告げる。


「そういう連も、本気で告白されたんだよね?どうして付き合わなかったの?」


深くツッコまれないようにしていた話題を、千夏は敢えて聞いてくる。小声で囁くのは周囲に配慮してだろう、俺や夢咲さん、雫にだけ聞こえるように告げる。その目元はどこか真剣だった。


隣にいる夢咲さんも、少しだけ興味があるのだろうか、俺の方に視線を向ける。それにどこか肩の力を抜きつつ答える。


「前に言ったように、目標とする人物に近付きたいんだ。それと世界一かわいい義妹に頼られる人でもあり続けたい。そのためかな。うちの義妹は天才だから勉強で置いてかれないようにってね」

「連って妹いたんだ! というか天才っていった?」

「うん、天才だよ。間違いなく」

「それってどれくらいなの?連の天才の基準が恐ろしいけど」

「そうだね、去年の入試の点数、俺より高かったって言ったら信じる?」

「マジ?」

「うん、マジ!!」


千夏は驚いたように引きつった笑いを浮かべていて。夢咲さんの方は少しだけ視線が鋭くなる。きっと2年前の自分だったらどれくらいの点数を取れたのか考えているようだった。雫の方は、その事実に落ち込んでいるようだ。


「ま、そんな義妹に誇れるような兄でいられるようにしたい。だから万遍なく色々できるようにしていた」

「もしかして、連って妹さんの事かなり気にかけている?」

「そうだね。この学校を選んだのも家から近いからだし……ね。なにかあってもすぐに駆け付けられるようにって基準かな」

「なんとなく、連が告白されない理由がわかったかも」


うん。自分でも分かっているよ。義妹に構い過ぎてるってことは。けど、別にモテないのは初めからしってたし……。……うん。


「でもそっか、なら」


そういって千夏が俺の腕をとって。ぎゅっと体で抱きしめる。


「こういうのじゃ、照れないの?」


顔をグイッと近づけてくる。ふいに誰かにぶつかられでもしたら、キスをしてしまいそうな距離感に心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


「あのな~、千夏そういうのは冗談でもやめろ。周囲の視線がかなり鋭くなったし、夢咲さんもこまっている」


突然の距離感の近さに夢咲さんが顔を赤らめていた。俺たちがキスでもすると思ったのだろう。正直俺も焦ったけどね。ホント臆面にも出さない自分を褒めてあげたい。あんな距離感で、眩しい笑顔を向けられたらすごい緊張するに決まっている。


そんな俺の反応を少し楽し気に千夏は見つめていた。


「それにしても連って、桜とまだ少し距離が遠いよね。未だに苗字呼びだし」

「それは、そうだろ。流石に緊張するし」

「え~、それって恋愛的に桜を意識してるってこと?」

「いや、夢咲さんが呼んでいいって言うならそりゃ勿論呼びたいけど、どう?」


そうといかけると少しだけ恥ずかしそうに呟く。


「まだ緊張するかも、そもそも男子とは話さなかったから」

「そっか。なら仕方ないね」

「……でも、いつかは下の名前で呼べたらっておもってる」

「そっか、ありがと」


彼女の言葉に俺は思わず目を一瞬だけ大きく開いて、笑みを浮かべていた。夢咲さんが少しでも前に進みだそうとしてくれているのが分かったから。それが嬉しい。

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