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第29話 付き合ったことあるの?

翌日以降も千夏たちは夢咲さんの方に話しかけに行く。これまではどこか避けるようにしていた彼女も、今日はどこか対応が柔らかい。それはきっと、千夏や雫が、みんなに囲まれた中でも庇ってくれたからだろう。


どこか信じられずにいた彼女が、二人のお陰でぎこちなくても会話できている。


「夢咲さんは何か好きな食べ物あるの?」

「えっ、う〜ん。苺かな?」


なんて、知り合ったばかりのようなどこか微笑ましい会話をしている。


「それでさ、そろそろ下の名前、桜って呼んでいい?」

「それなら私も呼びたいです」


夢咲さんは少しだけ戸惑った様に、少し俯きながら視線を下げる。まだ二人に対して緊張している部分があるのだろう。スカートの裾を少しきゅっとにぎって、視線を揺らす。それでも彼女は、上を向いて、少し恥ずかしそうに頬を染めながらこくりと小さく頷いた。


「いい……よ」


その言葉に千夏がふっと笑みを零して、満面の笑みを浮かべる。誰が見ても嬉しさが伝わってくる彼女はその勢いのまま桜に抱きついた。


「桜かわいすぎ!!」


なんて急に縮められた距離感に戸惑いつつも、夢咲さんはどこか驚いたように目を開きつつ、それでも満足そうに笑みを浮かべた。その様子を見つめていたクラスの人達は驚いたように目を見開く。初めて見る優し気な彼女の表情に。


それでも幾人かはまだ彼女に対して敵意を持っている。その出来事の渦中にいた白峰さんの方は少しだけ悔しそうで悲しそうだった。自分がその位置になれたんじゃないのか、そんな気持ちを少なからず感じる。


(……きっと、これから仲良くなっていけるよ)


なんて少しだけ温かい気持ちに包まれていると、千夏が急にこちらを振り返って、呆れたように目を細める。そうして俺の方へと声を掛けてくる


「なんで、遠くから眺めてる連は」

「いや、邪魔しちゃ悪いかなって、遠くから見てた」

「連が来ないと始まらないでしょ、ね、桜?」

「……えっ、う、うん」

「そうです、連君がいないと始まりません」


なんて、千夏に押されて、戸惑いながらも頷いていた。それが少しだけかわいらしく映る。雫もまた千夏と同じように呆れたような視線を俺に向けていた。そんな俺も席をたって移動する。それがゆっくりだったからかな、千夏が俺の方へと駆け寄って手を引いてくる。


「ほらっ、いくよ」


なんて口元に笑みを浮かべていた。周りの男子はその様子をスッと目を細めて不服そうにし、有明は楽し気にくすくすと笑っていた。


(悪いけど、頑張ったご褒美とでも思ってくれ)


そんなことを思いながら俺は千夏の笑っている姿を近くで見つめていた。


「そういえば、これだけ話しているのに、未だに連については詳しく知らないよねっ」

「そうですね、運動が出来て、授業で当てられた内容は完璧に答える。なのに、謙虚で時に大胆に優勝するとか宣言する。普段の穏やかさからは想像できないです……」

「だよねっ、私もキミのこと気になるな~」


後ろからかけられた声に、夢咲さんが驚いたように肩をびくりとする。やっぱりまだ、千夏と雫意外の人には緊張しているのだろう。少し浮かない顔になる。


振り返った先には、綾瀬さんの姿があった。


「別に、聞いても面白い話はないよ。それでもいいなら話すけど」

「じゃあ教えて。連って夢咲さんが好きじゃないってことは、既に付き合ってる人がいるの?」


その問いかけにクラスメイトの注目が集まった。女子の大半は恋バナという事でどこかドキドキしているようだった。意外にも男子からも視線が集まるのは、どこか安心したいのだろう。桜もそうだけど、気安く接してくれる千夏って意外に人気だしな……。


「いないよ……っていうか、付き合った経験ないし」

「えっ……いやいや、うそでしょ?…………マジ?」

「マジマジ。というか有明達と違って俺ってモテなかったし」

「え~、じゃあ告白とかされたりもなかった感じ?」

「まぁ、三回くらいはあったかな。うち二回は親が社長だからって理由だし。なにより、大翔たちの方がモテてたかな。彼女いるのに告白されているくらいだしね」

「……待って待って、情報が多いんだけど、有明と大翔君には彼女が既にいて、連は社長の息子ってこと?」

「うん……そうだね」

「えっ、有明君も大翔君も彼女いるの?」

「えぇ、僕も大翔もいますよ。素敵な相手が」

「そうだな、俺もいるぜ!昔からの幼馴染で今お付き合いさせてもらってる」


少し大人びた大翔の雰囲気に皆が驚く。普段の活発で明るい彼からは想像できない程の、落ち着いた物言いに誰もが驚くと同時に、女子の大半が肩を落としていた。


球技祭で活躍した二人、それも超イケメンの二人に彼氏がいるという事実にもはや話は置き換わっている。


(わるいな二人とも)

(……いえ、いずれ話さないといけませんでしたから)

(全然大丈夫だぜ!!)


そう目線で応えてくれる。


「ということで、傍にいる二人がモテてたって感じだ。大翔は野球部として全国4位まで上り詰めたし、有明は全国模試で毎回一桁だったから人気が高かった」

「そっか……なるほどね。にしても連が社長の息子ってことは、この学校の中でもかなりのお金持ち?」

「どうかな、父が一応鏡コーポレーションの社長だけど」

「マジもんの金持ちじゃん。お小遣いとかは?」

「月10くらいかな」

「少し抑えめって感じ?」

「そうそう、あまり使い過ぎないようにってね」

「それでもかなりもらっているよね」


なんて苦笑していた。


「なるほどね……連の余裕がある理由が分かった。なら追加でもっと高いの頼んでおけばよかった」

「たかるのは止めてね」

「冗談だよ」


なんてくすくす笑っていた彼女はどこか満足したのか、笑いながら去っていく。その一瞬の間に少しだけ夢咲さんを見て離れていった。だからかな、少し気になって聞いてしまう。


「夢咲さんと、綾瀬さんって同じ中学だったの?」

「……えっ?記憶にはないけど、そうかもしれない」


少しだけ謎が深まりつつ、それでも夢咲さんを気にかける人がいるという事実にどこか満足するのだった。


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