第25話 諍い
雲一つない青空が広がっていた。夏の始まりを思わせるような、じりじりと照りつける陽射し。そんな中、校庭や体育館は応援の声と歓声で満ちていた。
体育祭ほど大規模じゃないけれど、球技大会には独特の熱気がある。各クラスが一致団結して勝利を目指す──そのはずだったのだが、少し空気が重い。
夢咲さんへの女子の視線が少し鋭い気がする。チーム決めの際に少しぎすぎすしていたが未だにその問題は解決していないようだった。それでも球技祭の開始アナウンスが放送されて試合は進んでいく。
男子の試合は順調に進んでいった。俺が出場したフットサルは仲間の活躍もあって初戦を快勝。大翔たちのバレーボールもサーブだけで試合を終わらせるほどの圧倒ぶりだった。いやー、ホント化け物ですわ。
なんて感心しながら見つめていた。
「にしても、連ってフットサルに関しては普通なんだな」
次の試合までの休憩時間にふとクラスメイトからこえを掛けられる。それに、頷きつつ返した。
「そうだな、どうしても足を使う競技は感覚が掴みにくい」
なんて回答をしていると、若干一名から鋭い視線を感じる。目を細めながら何か言いたげなのだが、俺は気にしないことにした。なにも無ければ俺はこのままいきたいからね。
そうして2戦目まで終えたところ。俺たちは当然のように勝利する。一区切りついたし、大翔の方をどうだろうか?そう気になって、確認するために、体育館の方へ向かう。丁度ショートカットとなる裏道、そこを走っていると、建物の丁度横らへんに千夏達のうしろ姿が見える。
「そっちは順調?」
なんて声を掛けようと決めたところで、思わず身を隠してしまう。そこには夢咲さんを囲むようにする女子数名の姿があった。中には白峰さんの姿もあり、少しだけ厄介そうなことになったと、表情を歪めてしまう。
「夢咲さんさ、チームの脚を引っ張ったよね、それに対して何か言うことないの?」
「トスとか来ても全然動けてなかったし。サーブも全然届いてなかった」
「結構動ける人いたのに、点の8割は夢咲さんが狙われてだよね?」
その言葉に夢咲さんは俯いていた。何も言わず、ただ黙って立ち尽くしている。その隣にいた千夏が口を挟む。
「そうはいっても、それをフォローできなかった私にも責任はあるよ」
「じゃあ、責任は松崎さんってことでいいの?」
「うん、いいよ」
その返答に、周りを囲んでいた女子たちの表情が、にやりと歪む。
「そう……で、どうやって責任を取るの?他の人達は一勝はしてる。けど、このチームだけが負けて、ペナルティがある。そんな中でどう責任を取るの?」
それに千夏は何も言えない。雫も何かを言おうとして、でも何も答えられなかった。そんな姿をみて、ぎゅっと拳が固く握られる。ぐっと足に力が入り気付けば、身体を前に動かしていた。
「ならさ、俺達が責任をとるってのはどう?」
俺が姿を現すと、千夏たちを囲んでいた女子からの驚きに満ちた視線が集まる。まるで図ったかのようなタイミングだったからだろう、女子数名はキッと夢咲さん達の方を睨み付ける。そのまま何も言えない中で、白峰さんがかって出た。
「そう、確かに委員長として責任をとるのはいいけど、どうやって取るの?優勝でもするのかしら?」
あえて俺を挑発するような物言いに頷く。
「うん。俺と大翔がバレーとフットサルで優勝する。だから、白峰さん達の方も3位を取ってよ。そしたら、ペナルティがあっても優勝できるでしょ?」
例年のことを調べていた。去年以前の順位などから考えても2位2位3位でも優勝しているのが最高でそれ以上はない。ペナルティで引かれてもこの順位には必ず並ぶからこその提案。
「えぇ、わかったわ。楽しみにしておく」
***
「本当連君はなんでこうも毎回面倒なことに陥らせるんですかね」
体育館に向かった先の大翔は試合をしていた。それをはたから見ている俺たちが気落ちしているように見えたようだ。事情を聞いた有明はどこか呆れたようにため息を吐く。
「仕方ないだろ、ああいわないと納得しそうになかったし」
そんな俺たちのやり取りを見ている三名が少し申し訳なさそうにするなか、千夏が口を開く。
「ごめんね、連。いつも迷惑かけて」
「ん?何が?」
「ほら、今回も私が責任をとるなんていっちゃったのが原因だし」
「あ~、そういえば、そんなこと言ってたね。でも、そのフォローは出来るように動いていたから問題はないよ」
「ほんとにそう?」
俺の気持ちを確かめるように、嘘をついていないのか見定めるように観察する彼女に頷く。
「うん。大翔と俺が別々のグループに分かれたのもそのため。万が一を考えてね。だから安心していい」
少しだけ安堵したように千夏はふっと笑う。その姿に少し罪悪感を感じる。安心させるように言ったものの、フォローできるからはこの後の俺達次第になるから。同時に大翔にも無茶させることになってしまう。
「ごめんね、夢咲さんも巻き込んで。それと力になれなくてごめん」
「そんなことない。私なんかを庇ってくれてありがとう。嬉しかった」
「私も力になれなくて……ごめんなさい」
「ううん。中野さんだってこっち側にいて、味方になってくれたよね。ありがとう」
なんて、しおらしく彼女が感謝を告げる。この状況をみて、心が動かされない人なんているわけないよね。思わずぐっと奥歯を噛み、目に力が入る。
「有明、大翔の方頼んでも良いか?」
「……えぇ、きちんと話は付けておきますよ」
「頼んだ」
有明がその場を去ったのを確認する。未だに少し落ち込んだ彼女たちに俺は声を掛ける。
「ねぇ、三人にさ、お願いしたいことがあるんだけどいい?」
突然の問いかけに三人ともこちらを見つめる。まだ自分達に出来ることがあるのだろうか、そんな戸惑いをどこか感じる。
「できれば応援してほしいんだ。それが力になるから」
「えっと……そんなことで良いんですか?」
雫がみんなの気持ちを代表するように口を開く。それに俺は深く頷いた。
「うん……男子なんて単純だからさ、かわいい三人に応援されたらきっといつも以上に力を発揮する」
「それは連もそうなの?」
「そうだね。俺だってかわいい子に応援されたら力になる。なにより、三人が努力していたの知っているからその応援は力になる。千夏と雫がバレーボール買って土日で練習したでしょ。それに夢咲さんだって、努力していただろ?図書館の前で見かけたし」
夢咲さんが目を見開いて、ほんの少しだけ表情を動かす。
「……見てた、の?」
「偶然だけどね」
ふと立ち寄った一回だけだけど真剣にバレーの本を見ていた。ということは当然のように、他の日でだって研究していた筈だ。
「隠れて努力してる人を責める権利、誰にもないよ」
「そうだね」
千夏がその横で小さくうなずいて、夢咲さんの手をそっと握った。
「ねぇ、また、何かやろうよ。次は楽しいやつ、私が選ぶから三人でもやろう」
そんな千夏の明るい声に。自分の味方でいてくれる人がいたことに、夢咲さんは、一瞬だけ泣きそうな顔をして、でもそれを隠すように下を向いた。
「……うん、ありがとう」
ふと、拭った手には水滴が付いていた。それでもどこか嬉しそうに口元に笑みを
浮かべる彼女の表情を見つめる。それに、どこか温かな目を二人が向けていた。
この表情を壊すわけにはいかない。そのために、俺も覚悟を決める必要があるんだろうな……。そんなことを考えつつ、時間が迫っているので声を掛ける。
「それじゃあ、俺は先に行くね。次の試合があるから」
「うん。頑張って連。応援しにいく」
「あぁ」
なんて返しながら俺は踵を返していた。この時の表情は見られなくて良かったなと思う。いつものような余裕なんてなくてただただ、今は目の前の対戦相手に圧勝したい気分だった。
悪いけど、圧勝させて貰うよ。
一歩一歩、地面を踏みしめながら俺はグラウンドへ向かう。対戦相手が待ち構える場所へ。




