第24話 千夏の意志
迎えた翌日からは千夏たちが夢咲さんに対して話しかけていた。昨日の体力測定をきっかけにしてだろう。少しまだ角はある。けれど、
「今この問題を解いている最中だから、後にしてもらっていい?」
なんて少しだけ彼女は妥協するようになった。その変化にクラスの人も少しだけ驚いたように、彼女の方お見ていた。そんな姿に笑みを浮かべつつ、それでもまだ、彼女に対していい印象をいだいている人は少ない。
最初の印象が悪いだけにまだ、仲良くはなれないか。それでもこの後は球技祭も控えている。そういった一つ一つのイベントをこなしながら仲良くなってほしいななんて思う。
丁度7限目。いつもなら授業を行うこの時間帯に、担任が告げる。
「そういえば、そろそろ球技祭が開催される。ルールはプリントに記載されている通り、上位3チームのポイントの合計となる。あ~、だけど最下位のチームがある場合はマイナスになるからそこは気を付けてチームを組めよ」
なんて、担任は楽しそうにしながら告げる。この球技祭の面白いところは担任のいったように、平均順位ではなく上位3チームの合計だ。だからこそ、強いチームを作ったり、負けないようにバランスを取ったりもする。
ただ、唯一の懸念なのは……
「他のクラスと違って、うちのクラスは人数が少ないんですけど、控えってどうするんですか?」
「あ~、怪我した時の想定な。それは適当なヤツの名前を書いておけ。お前みたいに無茶しなければ、怪我はないから」
なんて担任はくすっと笑う。それに男子の数名も笑っていた。その後は少し浮ついた空気のまま、俺たちは種目を決めていく。部活に所属している人は、同じ競技には出れないので、別々のものを選択してた。
「それじゃあ、フォットサルやりたい人ー」
なんて俺の言葉に男子たちの手が勢いよく上がる。やっぱり花形となるフットサルと、ソフトボール。それとバレーは人気か。俺自身もまたこの3つの競技どれかに出ようと思っているので、そこは譲れなかった。
「言っとくけど、注目が集まる分。失敗した時の恥ずかしさは倍になるから、自分が得意な奴にしろよ」
なんて、少し浮ついた気持ちに釘をさすと、数名が手を下げた。
「いや下げるんかい」
なんてツッコミつつ大翔と有明が出て上げてないので尋ねる。
「二人ともいいのか、フットサルに参加しなくて」
「えぇ、僕は気軽にできる卓球にしますよ。一人で気楽なので」
「そう。それで大翔は?」
「連がどうせ出るんだろ?なら俺はバレーにするわ」
「そっか」
なんて応えると、
「え~、大翔君バレーにするの」
「その身長だったら確かに有利だよね~」
なんて女子の黄色い歓声が起こる。それを確認し、先程までフットサルに偏っていた人達も耳をぴくぴく動かしながら、何やら頷いていた。
(こいつらさては、女子が見に来る競技にあたりを付けているな)
なんて白けた視線を向けつつそれでも納得する。一年生の大半はすぐに負けることがほとんだ。なら、当然のように応援に回る生徒もいるわけで。その中で勝率が高い競技に参加するのは納得できる。
つまり、
『大翔と同じチームなら、女子が応援してくれる!!』
という認識を得ているようだった。そんな風に盛り上がりを見せる男子と違い、女子の方は……
教室の後方で静まり返っていた。まるで空気が張り詰めているように手が上がることがない。というのも、どのチームに夢咲さんをいれるのかということで、話しているようだ。
なら卓球にすればいいのに。と思っていたのだが、既にそこは決定しているらしい。黒板には既に名前が数名記載してあった。
(さすがに第三者が入った方が良いよな)
なんて、少し溜め息を吐きながら、歩き出そうとした所で、千夏が明るい声で告げる。
「ならさ、私と一緒にバレーにしようよ、夢咲さん」
「松崎さんはそれでよくても、他の人はどう思ってるの?」
「う~ん、正直夢咲さんって、運動苦手だし」
「それに、連携が必要だから難しいと思うよ」
「なら、卓球の人と変わって」
「それは、得意な人がやるっていったよね。それとも、順位で貢献できるの?」
その言葉に夢咲さんは何も言えない。
「でもさ、球技祭って楽しむものじゃん。ならさ、夢咲さんと少しでも楽しめる人でチームを組むってのはどう?私と雫はもちろんOK。あと3名決めてくれるかな」
「いいわ。もしも足を引っ張たら責任取ってね」
「うん!」
その言葉に少しだけムッとしてしまう。けれど、千夏はなぜかこちらを向いて、笑顔で大丈夫と伝えてくる。それに、ここは任せるとするかと一度退くことにした。いや、してしまったんだ。
もしも、この時に止めていたらきっと、千夏が申し訳ない気持ちになることもなかったのだろうな……




