第22話 連は夢咲さんのことが好きなの?
教室に戻ると俺を発見した大翔が近寄ってくる。
「心配したぞ、連。怪我は大丈夫か?」
心配げに俺の脚に目をやる大翔に大したことないと伝える。
「こんなのいつものことだろ?」
なんてガーゼの張られた足をタンタンッと踏みつけると。ふっと安心したように大翔が笑みを崩す。
「……まあ、それもそうか」
なんて、屈託なない笑顔は大翔見せる。きっと、夢咲さんに対して余計な罪悪感を感じないためにという意図を汲み取ってくれたのだろうな……。大翔とそんな話をしていると、ふと割って入ってくることが聞こえて来た。
「にしても、よくあそこから助けられたよね~」
なんて感心したように、綾瀬さんは頷きずきつつ興味深げに俺の表情を見つめていた。
「そうだね、ふらついているのが見えたから、いつでも助けられるように構えてはいたよ。ほかにも、菅谷さんとかもきつそうだったから。一応周囲を気にかけてはいた。委員長としてね」
「ふぅ~ん。そっか、てっきり私は連が夢咲さんのこと気になっているから、見てたんだと思ったけど違ったのか~。で、そこのところはどうなの?」
軽い調子で聞いてきた綾瀬さんの目には、どこか問い詰めるような、光が宿している。またその手の質問なのかと思いつつ。俺は、笑みを浮かべながら答える。
「恋愛的にってことならないよ。そもそも俺が、夢咲さんと釣り合うとはうぬぼれてはないしね」
「そうかな?連って顔もいいし、勉強も運動もできるから、十分釣り合いは取れてるって思うけど」
その言葉に思わず、驚いてしまう。
「そう?」
なんて思わず素の反応で返してしまっていた。それに綾瀬さんの方も戸惑っていて、こくりと頷く。その反応で分かってしまう。
(あ~、もう。これ完全にお世辞でいったやつじゃん!!そこに突っ込まれると思っていなくて戸惑ませった感じか。うわ、恥っっず)
思わず頬を赤らめてしまうと、綾瀬さんが少しだけ楽し気に笑みを浮かべる。
「こういうこと言われ慣れていないんだ~」
なんて少し揶揄うような口調になる。そのまま、にやにやと笑いながら俺との距離をぐいっと詰めてきた。動揺させて本心を聞き出そうとしているのは分かっている。けれど、ふわりと鼻先を掠める甘い香りに、どうしても意識が引き寄せられてしまう。
「それで、もし釣り合いが取れてるとしたら、付き合いたいって思うの?」
鋭い視線で問いかけてくる彼女に、俺は真面目な表情を作って返す。内心はまだ、距離の近さに動揺はしていたけれど、声色は思ったよりも安定していた。
「いや……それはないよ。そもそもそんな余裕ないしね」
「どういうこと?」
さらに目を細めて、俺の真意を把握するように問いかける彼女に対して口を開く。
「目標としている人がいるんだ。有明の親戚の人で神童って呼ばれる人。そんな彼に、俺は並び立ちたいって思うんだ」
思わず語尾が強くなる。先程までの動揺なんて一切消えていた。言葉は重く、目に自然と力が入るのが分かった。こんなに真面目な表情をすることは俺自体想定外だった。だからこそ、それが本心だと伝わる。
「的なことを連は言ってるけどさ、有明君。それって本当なの?」
少し疑うような視線に、有明は苦笑しつつ答える。
「えぇ、確かに連や大翔といった人ですら、霞むほどの“圧倒的な才能”。努力を欠かさない彼が、同世代の人に敗ける未来は想像がつかないですね。だって彼、全国1位のスプリンターと競っても余裕で勝利し、他の球技でトップレベルの人と同格。勉学は常に全国一位……そもそも、対抗しようとする連がおかしい」
なんて普段離さない有明が饒舌に語り出したことで、それが事実だと伝わったようだ。
「そういうこと。だから男子は安心していいよ。別に恋愛的に、夢咲さんとどうこうなろうって思ってないし」
鋭い視線を向かる者の大半はやっぱり男子が多くて、それに回答しつつ考えることを増やして、みなの意識をそらす。それを感じた綾瀬さんは
「なら、最後に一つだけ聞いて良い」
って尋ねてくる。それに俺は頷きながら「もちろん」と返した。彼女は真剣な顔つきで再度尋ねる。
「それじゃあさ、なんで構うのかは知りたいな。椎名さんにあんなことをした夢咲さんを」
「たしかに、あの対応は俺も問題ありだなって思ったよ。でも、その理由があるのかもしれない。過去のトラウマがあったのかもしれない。知らずに否定するのは俺のスタンスとは違うから。まずは知りたいって思ったんだ」
「ふ~ん。まぁ、何となくわかったよ。でも、本当に夢咲さんが迷惑をかける時はきちんと対応してくれるんだよね」
「もちろん」
そう返すと彼女は満足そうな笑みを浮かべて、その場から去るのだった。教室の空気は朝の浮ついたものとは異なり、少しだけ張り詰めたものに変わっていた。同時に千夏達と話す姿をみて、どこかしら迷っているようにも感じる。
それでも以前のようにクラスの腫物扱いではなく、戸惑っている存在へと変わっているのだった。




