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第21話 貴方の真意を聞かせて

体育館を出ると、春の眩しい日差しが俺たちを照らしていた。少しは温かくなってきたな、なんて思わず笑みを零していると。右隣にいる彼女が声を掛けてくる。


「怪我の方は大丈夫?」


気遣うような言葉を掛けてくる彼女に少し驚いてしまう。表情には出さないものの、他の生徒もいるから心配させるとは思っていなかった。


「うん。既に血は固まっているしね。別に痛みがあるわけじゃない」


頷いて返しつつ、特段心配する者ではないと示すように軽く足をダンッっと踏み込む。それを見て彼女の方が驚いたように俺を見つめる。怪我しているのに、こんな行動をするのが予想外だったんだろうな……。


どこか呆れたように少し息を吐いた彼女が改めて俺の方を見つめてくる。少し歩いて校舎への通路に入る中。彼女がふと口を開いた。


「ねぇ、一つ聞いてもいい」

「うん、いいけど」

「どうして私を助けたの?」


その声色はいつものような拒絶するようなものはなく、むしろ興味を持って尋ねているようだった。


「そりゃあ、怪我をしそうな人がいたら助けるのは当然だろ?」


その言葉を受けた彼女は、首をふって更に質問を重ねてきた。


「それもそうだけど、私が委員長になる流れを止めた。クラスに溶け込めるために松崎さんたちをけしかけた。そうまでするあなたは、私に対して好意があるように見えない。私は——“貴方の真意を知りたい”」


最後の言葉に思わず、俺は目を見開いて驚いてしまった。てっきり自分に好意があると勘違いされていると思っていた。けれど違う。彼女は思ったよりも人を見ていることが分かった。


そんな俺の反応を気にすることなく、問い詰めるように真っ直ぐと目を捉えてくる。


「まず、訂正させてほしいんだけどさ。千夏が最初に夢咲さんに声を掛けようって提案したんだよ。それに俺たちが背中を押されたんだ、夢咲さんをもっと知りたいって」

「あなたは、知ってどうするの?」

「そうだな」


言葉を零しながら思い浮かべるのは義妹の姿だった。一人強くあろうと前を向く彼女の悲し気な表情を思い出す。


「俺は後悔しているんだよ。分かろうともしないで相手のことを決めつけて、傷つけた過去を。だから知ろうとするんだ」


言葉を返しながらつい、ぐっと奥歯を加味してめいていた。小学生代の俺は、天才というものを理解できないとかってに決めつけていた。凡人である俺たちの気持ちなんて気にもしていないと。


そうして勝手に距離を感じていたんだ。だから、まずは知ろうと、歩み寄れるように一歩近づくことにしたんだ。そんな過ちを俺はもう、犯したくはない。


「だから、委員長に立候補したんだ。仲良くなりたい気持ち半分と、単純に、押しつけるのは違うかなって思ったから代わりを務めた」

「こんなに冷たく接しているのに?」

「ふふっ……そうかもしれないね。けど、俺は夢咲さんの過去を知らない。なら、まずは知るところから始めないとね」


そう返答すると彼女は少し視線を逸らして何かを考え始める。結局保健室に着くまで、何も話すことなく辿り着いた。


***


保健室に辿り着くと、養護教員の肩がその場にいた。机に座る彼女はおそらく20代だろう。見た目的には俺たちと同じ高校生徒言われても違和感のない方がそこにいた。


けだるげに目を細めた切れ長の瞳。黒のショートカットは、毛先になるにつれて外側に丸みを作っている。オレンジ色の瞳を俺の方に向けて、イヤリングを揺らしながら彼女はこちらを捉える。


「二人とも怪我ってところ?それともどちらかは付き添いかしら」

「はい。自分の方が少し膝をすりむいてしまって」


そう告げると、彼女は俺の方に視線を落とす。


「なるほどねぇ。それであなたの名前は?」

「僕の名前は鏡蓮と言います」


名前を口にすると彼女はどこか驚いたように目を見開く。先程までのような気だるげな感じが一瞬だけ消え、まじまじと俺を観察する。……もしかして、あの担任経由で何かを聞いていたりするのだろうか?なんて思う。


生徒会の面々もそうだが、なんというか俺を見定めるような視線を感じることが最近は多い気が下。


「それで、隣のお嬢さんは?」

「私は夢咲桜です」

「そう……あなたが」


桜をじーっと見つめた後、俺たちの方を見比べ、ふっと口元を緩める。


「こんなところに二人で来るなんて、あなたたち付き合ってるの?」

『付き合ってません!』


俺たち二人の言葉が重なる。正直な気持ちを伝えたというのに、養護教員である先生の目はどこか疑い深かった。


「そう……それでどんな状況で擦りむいたか教えてくれる」


ようやく本題に入ってくれるのかと思いつつ、俺は答える。


「体育館で、擦りむいてしまったんです。なので、砂とかは入っていないです」

「あなたは運動神経良さそうに見えるけど、ただ転んだってわけじゃないでしょ。治療のために詳しい状況を教えてくれる。場合によっては報告するべき場所もあるから」


たしか安全配慮義務だったっけか。教育委員会や他の場所だろう。再発防止のために……。必要だと分かっているものの、女子を抱きかかえたという状況を人に説明するのは、何となく恥ずかしいと感じる。なんか下心ありきでやっているような気がするからだった。


「……えっと、シャトルランをやっていた彼女がふらついて倒れそうだったので、それをスライディングして受け止めた感じです」

「そう。あなたは怪我してないの?」

「はい。してないです」


教員の方は特段俺の様子を気にかけることなく淡々と質問する。自分だけ意識しているようで、逆に恥ずかしく感じてしまう。俺が恥ずかしさから少し視線を逸らす中で、状況を淡々と確認する。


「その割には少しふらついているように見えるけれど。どこか痛めたりは?」

「それもないです。ただ体力がなくて」

「それならいいのだけど」


それで聞きたいことは全部だったのだろう。メモを取っていた彼女が、顔を上げて立ち上がる。


「それじゃあ、早速治療するから鏡君はこちらへ来て」


と彼女に誘われて、俺も立ち上がった。医療用の薬品などが置かれた棚の近くにある二脚の椅子の片方に彼女が腰を下ろし、もう片方に俺も座り怪我の治療に入っていく。


「それにしても、一人の生徒のために、そんなに一生懸命になれるってことは、あなたはその子のこと好きなの?」


囁くように告げる彼女の表情はどこか俺を試すように強い光を放っていた。どうしてこうにも、そう誰かと付き合わせたがるのかなんて思いつつ返答する。


「好意とかは抱いてませんよ。逆に抱いてるって言ったらどうするんです?」


なんて彼女の真意を測るように呟くと。


「別にどうもしないわ。干渉する権利なんてないもの」


なんて至極真っ当な返答を返される。てっきり、何かしらの要因を心配してのことだと思ったのだが、特段興味がないようだった。治療を終えた彼女が、


「以上で終わりだけど、何か聞きたいこととかあるかしら」

「いえ、大丈夫です。治療の方、ありがとうございました」


俺に習って夢咲さんも頭を下げる。その律義さに感心していた。お礼を告げた俺達は保健室を出て、教室へと帰っていくのだった。

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