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第17話 化物よびって酷くない?

「やっと外出られた~!」


外に出ると、大翔が両手めいいっぱい広げながら、大きな声で宣言する。顔の方も生き生きとし出していた。


あ~、これ完全にスイッチは言ってるなと少しだけ自分でも顔が引きつってしまう。こういう時のアイツは調子が良いってのが分かっているから。より一層気を引き締める必要がある。


そう気合を入れようするする中で視界に入るのは、男子のきょろきょろと辺りを見渡す様子だった。相変わらず生徒会の面々を探しているのだろう。だというのに、かわいい子が横を通るたびに視線がいっている辺り誰でもいいのかな?と疑問をもってしまう。


それと……女子の方が引いた目線で見ているから少しは気付いた方が良いぞと思っているものの、女子もまた大翔や有明に視線がいっているので例外はないようだった。


次の競技に向かうため、目の前のグランドで50m走が図られているのを横目に坂を下りる。そこには白線で描かれた円形のサークル上から、扇形を作るように白線が引いてある。丁度先輩がハンドボールを投げており、47mほど飛んでいた。


それに拍手が起きている辺り、あのクラスでは凄い方なのだろう。けど、


(……これじゃあ、多分距離足りなくないかな?)


なんて60mくらいまで引かれたメジャーを見て思う。今の大翔であれば確実に超えるだろう距離に、俺は少しクラスを離れて測定係に進言しに行った。


「あのメジャーの距離なんですが、うちのクラスメイトの飛距離が測れないと思うので伸ばしてもらえますか?」


小麦色のショートヘアが似合う、彼女は俺の方を見て、呆れたように告げる。一年生と分かる体操服を見て、出しゃばってきたと思ったのだろう。


「大丈夫よ、60mは伸ばしているから」


と口調は優しい物の、鬱陶し気に告げられる。滞るから声を掛けるなという雰囲気を感じ


「はい、すみません」


と俺は謝りつつ退散する。それにどこかクラスの男子はくすっと笑っていた。調子に乗るからだと思っているのだろう。さっきの千夏の行動を含めて、どこか天罰があたったというような雰囲気を感じる。


それに乾いた笑みを浮かべつつ、俺たちの番がやってくる。そこには運悪くも大翔がボールを持って、肩を回していた。目に見えた結果にどこか期待した視線を向けてしまう。やってやれと、自身でも少し張り合う気持ちがあったことに苦笑する。


大翔は息を吐いて、助走付ける。肩を大きく開き胸を張る。野球の投球フォームにも似たその理想的な、投球は、「やっぱり別格だな」と思わず声が漏れるほどに完璧だった。


当然のように60m付近にいた測定係の人が慌てたようにボールを追う。不幸中の幸いと言ったところだろう。大翔が投げたボールは中央に跳んでいたこともあり、彼らが視認できる場所に落ちた。


俺を鬱陶しそうにしていた測定係の人は驚いたように大翔を見つめて、瞬きを繰り返す。その素の反応に笑みを零していた。


(すごいでしょ、大翔は)


って、誇らしげに俺は胸を張ってしまう。急いでメジャーを引き延ばしていた彼から声が聞こえる。


「74mでーす」


と。それに間髪入れずにツッコんでしまう。


「いや、化け物か」

「ひどっ、調整して投げたのにその言いぐさはないだろ」

「……」


うん、ごめん。ノリでいったけど、調整してそれは正真正銘化け物です。と心の中で呟いた。続いて投げた第二投は、


「は、はちじゅういちメーターでーす!」


という大きな声と共に返ってくる。


「すごいわね、あなた。学年一位よ」


なんて先程の測定係の人も驚いたように見つめている。そうして次に俺がそこに入ると、先ほど彼女が警戒したように告げる。


「もしかして、あなたも……」

「いえ、彼が特別なだけです」


と告げる。勘弁してほしい、球技において大翔と比べるのは。なんて思いながら俺も投げる。


「64メートルでーす」

「十分化け物じゃない!!」

「ひどいっ……」


何故か俺も化け物判定を喰らうことになった。それに対して大翔は腹を抱えて笑う。どこか嬉しそうにしながら。はいはい、俺も化け物ですよなんていいながら投げた二頭目は68mを記録して終わる。


うん、やっぱりムリ。大翔に球技では敵わないなんて、悔しくも誇らしい気持ちを持ちながら、計測係に戻ると。


「……嘘つき」


と少しムッとしたように俺を見つめていた。確かに現状の俺は大翔と白峰さんに次いで目立っているのだろう。けど、それはある意味基準値の話だった。夢咲さんも勉強では、一位だけど満足せずに努力していてその意識は高い。


ならそれと同じだと、彼女に対して弁解しようとしたところで、邪魔するように男子から呼ばれる。


流石に仲良くしているのは気にくいませんかと思いつつ、それに応える感じでそちらに駆け寄るのだった。


次の50m走へと向かう間で、先ほどのことを弁解しようとした所、なぜかクラスの女子たちから声をかけられる。夢咲さんを孤立させるためか、あるいは大翔に気があるからかもしれない。弾むような声で俺と大翔のことを褒めてくれる。


「やっぱり連君と大翔君ってすごいよね」

「うん、ほんとうそう、二人だけ飛び抜けているというか、運営委員の人も驚いてたもんね」

「さっきハンドボール投げなんて、唖然としながら見てたもん!!」


なんて楽しそうに話してくれる。そうやって褒めてくれるのは嬉しいのだが、やはり過大に評価されているような感がいなめなくて、苦笑してしまう。


「そうかな?他にも大槻君とか、かなり運動ができる印象だったよ」


つい、印象に残っていた大槻君の名前を挙げると、彼の耳がピクリと動いた。こちらの反応を窺う様に、友人の話に頷きつつ、何も話さなくなる。そんな俺の言葉に


「あ~、まぁ、そうだね」


なんて興味なさそうに答えていた。それに大槻君が肩を落として、項垂れているのでもう少し気を使って欲しいと思う。というか、ごめん。と心の中で謝罪する中、女子たちは大槻君の様子を気にかけることなく続ける。


「でもやっぱり、二人は別格って感じするなぁ。他のクラスも見たけど、先輩込みでも万遍なくこなしていたのは二人だけだったよ」


なんて、可愛らしく、弾んだ声で話しかけてくる。彼女にとってはなんてことない一言だったのだが、俺はその言葉に内心で警戒していた。


思った以上に周囲をよく見ているんだなって。誰が目立っていて、誰が中心なのか、ちゃんと観察しているタイプだ。だとしたら、今目立っている俺たちを夢咲さんから離すのが目的なのかな?


なんて考えつつも、できるだけ笑みを崩さずに、相手を見る。名前は綾瀬恵さんで、白峰さんのグループに属している女の子。今もそうだが、常に活発な笑みを浮かべていて、男子ともよく話すのを見かけている。少し距離は近いけど、やはり敵意とかは感じない。


「それで、これまでの計測どんな感じなの?見せてよ」


なんて、ぐいっと距離を詰めて、手を握ってくる。不意打ち気味の距離感に、思わず苦笑しつつ、諦めたように俺は用紙を渡す。


……まあ、隠すようなものでもないしな。


綾瀬さんは用紙を受け取ると、思わず、大きな声を上げた。そのおかげで周囲のみんなが反応する。


「すっご。二人とも全部満点じゃん!!」


と、驚いたように表紙を見つめる。


「えっ、ほんとに」

「どれどれ」


なんて周囲の女子たちもそれに群がるように見つめていた。対する男子の反応が嫉妬に近い感じで俺に突き刺さるのでやめてほしい。というかここまで盛り上がると流石に分かる。君たち大翔目当てですよね。と話しかけられた理由が判明し、ようやく肩の力が抜ける。


(そういえば、大翔に彼女がいるってまだ知られてなかったな)


なんて他人事に思っていた。ここ一週間で大翔自身かなり注目を集めていて、なぜか一年生のマネージャーの体験入部が多いそうだ。かわいい子も多いらしく、先輩たちが歓喜しているってのを言伝にきいた。


大翔自身、中学の全国大会後は硬式球に触れていたこともあり、他の生徒よりも一歩抜きんでているらしい。まぁ、シニアとかポニー上がりの人達もいるので、他にも上手い選手はいるらしいのだが、推薦組に一般枠の大翔が勝っているというのが更に注目を集めているようだ。


(ほんと、いつもモテるよな大翔は……)


なんて思いつつも、もし俺が女子だったら間違いなく大翔に惚れている自信はあるので何も言えない。というか大翔を射止めた彼女がすごいんだけどね。ほんとに……。


「大翔君は部活やってるからわかるんだけど、連も運動部に入ってたの?」

「いや、俺は普通に身体が動かすのが好きだから、よくランニングとかはしているからかな?」

「へぇ~、それでこの数字はすごいね」


と感心してくれる。純粋に褒めてくれるのはやっぱり嬉しいなと思いつつ、話を広げた方がいいよなって尋ねる。


「それで、綾瀬さんの数字はどんな感じなの?」

「え~、私?わたしは、そんなに良くないよ」


といいつつも用紙を差し出してくれる。俺の記録を見た手前、自分も見せるべきって思っているのだろう。少し顔が引きつりつつも見せてくれる。用紙を受け取り、そこに視線を落とすと


「えっ……綾瀬さんも、普通にすごいじゃん。ほとんどの数値が7とか8超えてるし、なかには9もある!!」


俺は感心しつつ彼女の方に視線を向けると、彼女は頬を掻きつつ、少し恥ずかしそうに答える。


「いや、私もそう思ってたよ。二人の数字を見るまではね」


なんて、少し苦笑しつつ答える彼女に、俺は素直に感心していると伝える。


「俺は普通にすごいって感じたよ。このクラスに入るってことは、勉強も学年で30位以内だし。それに加えて、運動もできるんだから。いろいろ努力してきたんだなって伝わってくる」


その言葉に彼女は驚いたように目を見開きつつ、嬉しそうに深い笑みを浮かべる。そして嬉しそうに俺の背中をバシバシと叩いてくる。


「へぇ~、嬉しいこと言ってくれるじゃん。連ってやっぱりいい人だね」


なんて肩を組んできそうな程、近い距離感で笑っていた、こんな風に嬉しそうにしてくれるなら、素直に伝えて良かったと感じる。なにより、やっぱり笑顔を見るとどこか安心する。


そんな風にいつもは話さないクラスメイトと会話しつつ、50m走の所まで到達するのだった。

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