第14話 一緒の作業
委員長に就任した翌日の放課後さっそく担任から声をかけられた。俺と夢咲さんは二人、専用の教室へと案内された。誰もいない教室には机が四つほど合わせて付けられている。まるで、千夏たちが来ることを想定してるように四人が向かい合って座れる形だった。
それに流石だな。なんて感心しつつも目の前に飛び込んでくる大量のプリントには流石に苦笑しかでない。
(もしかしてこれ、二人でやれって言わないよな?)
なんて思っていたのだが。
「それじゃあ二人とも悪いが、下校時間までにこの資料の仕分けとホチキス止めをしておいてくれ」
そう告げると、後は任せたというように教室を出て行く。俺たちに詳細を説明することなく出て行った。大量に置かれたプリントの横に完成例であろう1部の冊子をおいて。
呆気に取られたのだろう。夢咲さんは呆然としたままそこに立ち尽くしてる。大量に詰まれたプリントに目を固定したまま。その様子がおかしくて、つい笑ってしまう。
すると笑い声に気付いたのか、恥ずかしそうに頬を染めながら、俺をキッと睨み付ける。それが慣れていないのが分かるから更に笑ってしまうのだった。
そんな俺に彼女は呆れたのかサッと席に座った。
……にしても男子と二人きりという状況に警戒するタイプだと思っていたのに、特に気にしていないようだった。俺を気にかける様子もなく、無言で資料を整え始める。
ただ、それでも一応は確認しておこうと思った。
「夢咲さんってさ。男とこうやって二人きりでも、あんまり警戒しないんだね」
なんて声を掛けると、驚いたように、ガタッと席を引き、後ろに席を倒しそうになる。少し狼狽えながら、俺の方を警戒したように見つ始めた。
そうそう。普通はこういう反応をしたりするもんだと思っていた。モテる彼女だからこそ、警戒心が強いと思っていたのだが、そうでもないらしい。
てっきり男性から執拗に迫られたりして人間不信なんかになったと思ったが違うようだ。だとしたら何が彼女を変えたのかなんて考えていると。
「手を出したら、声を上げるから」
少し怯えたように震えた声で俺に呟いてくる。叫び声を上げるには頼りないほどに小さな声で。
「出さないよ。ただ気になったから聞いただけ、それに……」
「パンパカパーン! 千夏、参上ー!」
元気いっぱいの声と共に、千夏が飛び込んできた。二人してそちらの方を振り返りながら、みつめると、その後ろでは、雫が少し恥ずかしそうに、千夏の影へ隠れるように立っている。
「他の女性も呼んでるから、安心して」
「……これ、どういうこと?」
夢咲さんが俺を見る。
「単純に、二人っきりだったら警戒するかなって思って呼んでいた」
表上の理由は夢咲さんが俺を警戒しているから。本当の理由は、夢咲さんと仲良くなるためには、俺だけだと力不足だからだった。
なにより、夢咲さんが警戒をしているのが、男性なのか、女性なのか。それとも単純に人と関わることを怖れているのか。それを知るために、二人に来てもらった。
どんな距離感なのか知りたいから。すると夢咲さんは、警戒心を解き呆れたようにため息をつく。
「こなされた仕事くらい、一人でもできないの?」
その棘のある言い方に、俺はわざと口元を緩めて揶揄う。
「う~ん。可能なんだけど‥…もしかして夢咲さん、俺と二人きりでやりたかった?」
「は?そんなわけないじゃん」
即座に返ってきた声は、心底嫌そうだった。向けられる視線も、完全に軽蔑のそれである。それに同意するように千夏もまた、咎めるように目を細めながら口を挟む。
「連、さすがに今のはないよ?」
「ごめんごめん。今のはさすがにからかいすぎた」
そう言って俺は頭を下げて、素直に謝る。
「それじゃ、作業を開始しますか」
なんて言いながら、夢咲さんと対角線上の席に座る。そして、千夏が夢咲さんの目の前の席に座り。自動的に、雫が隣に座った。
「ほら、早くやらないと終わらないよ」
なんて言いながら、ホチキスへ手を伸ばした。すると千夏も雫もそれに習い、自然と作業を始めていく。それに習うように夢咲さんも座り直し作業を開始するのだった。
最初はぎこちなかった空気が、少しずつだけど、確かに動き始めている気がした。これまで話すことも近づくこともかなわなかった彼女とこうして、一緒に作業できていた。
そんな作業風景は数分の間ずっと、無言だった。けど、当然のように千夏が耐えられるはずもなく、真っ先に声を上げる。
「連って意外に器用なんだね」
なんて感心したように俺の手元を見つめる。そこには綺麗に揃った冊子が出来上がっていた。
「まぁ、慣れだよ。中学時代も生徒会に入ってたからね。こういった作業を手伝っていたことがある」
その声に呆れたように顔を上げた夢咲さんは戸惑った様に俺の目の前に出来上がった冊子を見つめ、自分の机に視線を落とす。
俺の目の前には5冊の完成品が出来ており、自分の机には3冊だったからだ。俺の隣に座る千夏もまた、4冊は作り上げていた。自分の作業が遅れているのかもしれないと不安になった夢咲さんはスッと自分の隣に座る雫の方を見つめる。
そこには、2冊目をようやく作り終えそうな雫の姿があった。丁度ホチキスを止め終わり、冊子を1冊目の所に上げようとしたところで夢咲さんの視線に気づく。
そうして自分だけ遅れていることに気付いたのだろう。咎められていると思ったのだろう。雫が少し目線を下げながらそのまま頭も下げる。
「ごめんなさい。遅れてしまって」
「……いえ、手伝ってもらっているのだから。ありがたいわ」
焦ったからだろう。彼女の素の優しさが現れた。さっきまでは手伝いなんて必要としない発言をしていたのにね。それを千夏が逃すはずもない。
「やっぱり夢咲さんって優しいだね。ちゃんと感謝を伝えられている」
「そんな……」
大きな声を上げながら立ち上がると、雫が驚いたようにビクリと肩を上げる。その反応に視線を動かし、申し訳なさそうにする彼女が目に入ったのだろう。何も言わずに座る。
「無駄口叩いてないで作業して」
「はいはい」
なんて、微笑まし気に見つめながら、三人で作業を続ける。途中千夏が話しかけて、怒られながら進めていくのだった。




