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第13話 チーム結成

白峰さんが納得したことで、俺が委員長を務めることになった。


「委員長は決まったからいいとして、副委員長は誰にお願いするんだ?」


担任の上坂先生は俺を試すようにニヤリと笑う。なんというか、この人には全て見透かされているような気がしてならない。まるで最初からこうなることを分かっていたかのような気さえする。


内申書が学校にもいっていることから、ある程度……というかこの人なら全ての生徒を把握しているような気がするのは気のせいだろうか?


俺は、それに淡々と返す。あくまで他意はないというように。


「それは、夢咲さんにお願いしたいと思ってます。俺も白峰さん達の意見には賛成ですので」


彼女と会話をするきっかけを作りたいという想いがあった。だからこそ白峰さんの意見を借りることにする。さすがに学食で結構いたい出費があるので、これくらいは許してほしい。


それに、この提案には白峰さんの顔を立てて、敵意がないことを示すという意図もある。否定はしていないしむしろ尊重すると。


「勉強時間が減ってしまうのは悪いけど、お願いできるかな夢咲さん?」


他のクラスメイトも納得させるように、あえて夢咲さんがデメリットを被るような提案であると強調する。クラスの皆も彼女が一生懸命努力する姿を見ているからこそ、少しは溜飲が下がるはずだ。ここは進学校であるからこそ、勉強を邪魔されるのは苦痛だと感じる人も多いしね。


俺の問いかけに、夢咲さんは諦めたようにため息を吐きつつ答える。


「わかった」


と。夢咲さんは小さくため息を吐きながらも、答えた。その返事を聞いた上坂先生は満足そうに頷くと、そのまま話をまとめていく。こうして委員長と副委員長が正式に決まり、ようやくホームルームが終了する。


ひとまず今日という一日は終わった。そんな空気が教室に広がる中、俺たちは席を立つ。重い鉄扉を開く。途端に吹き抜ける風が頬を撫でた。春の風は思ったよりも心地よく、熱を持っていた頭を少しだけ冷ましてくれる。


「二人ともとは初めましてですね。僕は有明悟って言います」


穏やかな声で、有明が軽く頭を下げる。


「俺も初めてだったな。西園寺大翔だ。よろしく」


それに続くように、大翔も短く名乗った。


簡単ではあるけれど、それぞれの自己紹介を終えたところで、ようやく少し空気が落ち着く。


「二人とも、フォローしてくれてありがとな」


俺がそう言うと、有明は小さく笑った。


「ええ。連君なら、あのタイミングで絶対に声を上げると思ってましたので」

「だな。あれが一番、連にヘイトが向くタイミングだったし」

「よく分かってるじゃん」


思わず苦笑すると、二人はどこか当然みたいな顔でこちらを見る。そのやり取りを、千夏がむっと頬を膨らませながら口を開く。


「そっか、てっきり見捨てたのかと思ってけど、連にも考えがあったんだね……まぁ、助ける素振りくらい見せてほしかったけど……」


千夏は俺を問い詰めるように目を細めながら見つめる。どういうことなのか説明してほしいという意味も含んでいる気がする。


「現状夢咲さんに対して、注目が集まっている状態を俺へと移したかった。だから、白峰さんの意見が通る瞬間をあえて邪魔することで、敵意を集めることにした。だって、決まりかけたものを邪魔されるのは誰だっていやだからね」


その言葉に納得しつつも、でも気持ちの部分では納得できないようだった。


「でも、私も傷ついたな~、雫もそう思うでしょ?」

「……えっと、私は何となく連の雰囲気が余裕そうだったのでわかったというか……」


そう告げる雫の方を呆気に取られてみていた千夏は少し頬を染める。自分が周囲を見るほどの余裕が無くなっていたことが恥ずかしかったのか。それとも、俺を信じていないように映って恥ずかしくなったのかは分からない。


だからこそ、雫の背後に寄って何かを呟いた。それに戸惑いつつも頷く。


「でも、確かに少し不安にはなりました。夢咲さんがどうでもいいのかなって?」


戸惑いながらも正直に伝えてくる姿に、思わず苦笑する。千夏に唆されているな……なんて思いながら続きを待つ。何かしら、したい事があると思ったから。千夏は雫の言葉に嬉しそうに頷く。


「だよね!」


と自作自演っぽいが大げさな声で告げる。


「なので、私達にもデザートを奢って欲しいです。何故か白峰さん達に学食を奢る感じになっているのはずるい」


結局はそこなのかよ、と笑ってしまう。でも確かに協力してもらっている千夏たちよりも、白峰さんたちを優先するのは少し違う気がして。了承するように頷く。


「わかったよ、今日の放課後でよければ、寄り道ついでに奢るよ。大翔たちはどうする?」

「俺は部活だからパス」

「僕も塾があるので大丈夫です」

「そっ」


俺の負担にならないようにというより、俺と千夏たちが仲良くなれるようにって言う配慮だろう。これから先、夢咲さんと仲良くなっていくのは彼女たちだから。


千夏は俺たちのことを交互に見ながら頬を緩まさせる。


「でもそっか。本当に二人とも、連のこと信頼してるんだね」

「ええ。一番信頼してるのが連君ですからね」


迷いなく返ってきたその言葉に、少しだけ目を見開く。すると今度は大翔が肩をすくめながら続けた。


「俺もそうだな。頼りになるって部分じゃ、連以上の人間に会ったことねえよ」

「そこまで言われると普通に照れるって……」


思わず視線を逸らしながら頭をかく。認めてほしいと思う相手からの言葉は素直に嬉しかった。


「そんなこと言っても、俺はまだまだダメなところあるからな。大翔たちみたいに、周囲の視線を引きつけるほどの魅力はないし」

「それは助け合いだろ?」


相変わらず太陽みたいな笑顔で俺を照らす。その温かさと眩しさに思わず俺は肩の力を抜く。うん、やっぱり俺は二人がいるから無茶を出来るんだなって再認識する。同時に一人では何もできない弱さも理解した。


その気持ちは抑えつつ、胸を張って堂々と答える。


「そうだな、俺に出来ることがあれば、何でも言ってくれ」

「あぁ、頼りにしている」


そんな中、ふと雫の方が戸惑いながらも呟く。まるで、俺の悲し気な奥底の気持ちを察したように。


「連君にも頼もしさや存在感があると思いますよ。それに一緒にいる時の安心感は一番だと思いますよ」


その声音は、慰めというより、本気でそう思っている響きだった。それに思わず目を見開いて見つめる。


「連って、自分の評価、意外に低いよね。もっと自身持っても良いと思うよ」

「それには同意ですね」


真っ直ぐに向けられる言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなる。……ああ、本当に。二人と知り合えてよかった。大翔と有明が傍にいてくれて良かったな。そんなことを、自然と思ってしまった。


「ありがとう、千夏、雫。それに大翔と有明もいつもありがとう」

「おう!」「えぇ」


大翔たちは勢いよく返事をしてくれる。けれど、雫と千夏は俺の方を見て、なぜか固まっていた。思わず千夏の顔を覗き込むと、勢いよく距離を取る。


「連、少し距離近い……」


なんて頬を赤く染めながら告げる。


「ごめんごめん」


思わず距離を詰めすぎたなと反省する。にしても千夏って意外にも、距離詰められるの苦手なんだななんて、微笑ましかった。


それでも俺は気持ちを少し引き締める。まだ油断はできないから。今日作れたのは、あくまで“きっかけ”だ。夢咲さんがクラスに馴染めたわけじゃない。


そして多分、ここから本当に必要になるのは――千夏や雫みたいな、“同性の友達”なんだと思う。だからこそ、俺は二人をみて問いかける。


「二人とも力、貸してもらってもいい?」

「はい、もちろんです」


雫は迷いなく頷いた。


「私も力貸すよ。できることなら何でもするし」


千夏も明るく笑う。


「頼りにしてる」


そう言ってから、俺は千夏へ視線を向けた。


「千夏のその明るさが、きっと夢咲さんの心を溶かすから」


周囲をぱっと照らしてしまうような笑顔。誰でも自然と人の輪の中心にいた彼女には、きっとそういう力がある。千夏は少しだけ照れたように笑って、


「任せて」


と、小さく拳を差し出してきた。それを見て、有明も、大翔も笑う。


「夢咲さんを、クラスの輪に入れるぞ」

「うん」


重なる拳。夕暮れの屋上で交わしたその約束は、思っていたよりずっと温かかった。

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