第11話 決意
クラスの方はあれから白峰さんを中心として、グループが出来上がっていた。白峰さんを囲うように椎名さんを含めて5名の女子グループが出来上がり、そこが最大の人数といったところだった。
まぁ、大翔と有明の方も、運動部を中心としたグループを作っているので流石といったところだろう。俺も後で挨拶をしておくかとチラリと見つめる。
俺と松崎さん、それと中野さんも机をくっつけ、俺を三角形の頂点として、夢咲さんの方を見つめる。
松崎さんは苦笑しながら、口を開く。
「あはは、これは少し不味い状況なっちゃったね」
松崎さんの言う通り周囲の夢咲さんに対する反応はうって変わって冷たいものへと変わっていた。興味を持ってチラチラみていた視線はなく、いまやどこか腫物を扱うような扱いへと変わっていた。
誰も彼女の方へと視線をやらないようにしていて、完全に孤立しているのが分かる。それはきっと変に彼女に声をかけて、クラスの仲間外れになることを恐れているからだった。
みんな賢いからこそ、声をかけた結果を想像してしまう。彼女に下心から声を掛けでもして、白峰さんの反感をかったらクラスで同じように冷たい目を見られる可能性があると。
男子の方がより顕著だった。実るかもわからない恋か、それともこの三年間を安心して過ごし、かつ白峰さんと付き合うチャンスを残すのか天秤にかけ、今の対応を見るに、後者を選択しているのが分かる。
今まで周囲の視線を引いていた夢咲さんに変わり、いまや白峰さんがクラスで最も注目を浴びる存在になっていた。
「確かに、今声を掛けたら、自分も同じように白い目で見られる可能性は高いと思うよね。それじゃあ、松崎さんは夢咲さんに声を掛けるのを辞める?」
俺は彼女の瞳を捉えて、じーっと真っ直ぐに見つめる。彼女の気持ちを確かめるように俺自身少し背筋を伸ばして聞いた。本音を聞き出すために。
いつも浮かべている笑みとは違う真剣な俺の表情に松崎さんは戸惑った様に、瞳を揺らす。一度視線を逸らし息を軽く吐いて気持ちを整理すると。彼女もまた俺の瞳を真っ直ぐに捉えた。
「皆に白い目を向けられる可能性がある。それでも私は、彼女と話してみたいと思う。後悔をしたくないから」
覚悟を決めたんだろう。目に力を込めて、大きく見開いた琥珀色の瞳が俺を真っ直ぐ貫く。それに対して、俺はふっと笑みを浮かべた。彼女の気持ちが変わってどこか安心していたのを感じる。
俺は隣に視線を向けて、中野さんにも問いかける。
「中野さんはどうかな、今の気持ちを聞きたい」
彼女も少し考える様に視線を下にずらし、小さく頷いた。そしてゆっくりと顔をあげて、真顔で俺を捉える。
「私はお話を聞いてみたいです。知らないままで関わるのを止めたくないから」
「……そっか。二人の回答を聞いて安心した」
俺自身、ホッとしたように小さく息を吐き、ようやく肩の力を抜いた。そんな俺の反応を確かめるように、松崎さんがこちらを見る。
「……そういう鏡君は、どうなの?」
その声音は静かだった。いつもの明るく軽やかな雰囲気はなく、俺の全身をしっかりとその瞳に映す。真剣な表情で、些細な変化すら見逃さないようにと心がけていのがわかる。
「俺も同じだよ」
松崎さんの瞳を真っ直ぐに捉え返し告げる。
「ちゃんと知りもしないで、否定するのは違うと思う」
言葉にしながら、ふと昔のことを思い出す。かつての俺は、義妹のことを理解しようと歩み寄ることも、寄り添うこともせずに、ただ自分のことに精一杯になっていた。そんな気持ちは義妹にも伝わっていて、関係は離れるだけだった。
そんな間違いはもう起こさないと誓った。
「だから、まずは、知るところから始めたいんだ」
そう言うと。松崎さんは、少しだけ目を細めた。それから、安心したみたいに、ふっと笑みをこぼす。
「……そっか、みんなの気持ちが変わっていないで安心した」
なんて、ひまわりのような明るい笑顔を見える。その温かな存在にふと大翔の姿を重ねた。周囲を惹きつける、安心させる彼女の態度にどこか自然と笑みが零れる。
ぱぁーっと割いていた彼女の笑顔が閉じ、俺たちの方をジーっと観察する。そして、何かを思いついたようにぱっと笑う。
「……にしても、こんなに本音で話しているのに、まだ苗字呼びは少し距離遠いよね」
「確かにそうだな、じゃあ、千夏でいいか?」
「うん。じゃあ、私も連って呼ぶね……それで、中野さんも雫呼びで良い?」
「はい! もちろんです。千夏さん」
そう告げると、千夏はジーっと目を細めながら、雫の方を見つめる。
「さん、はいらない。ち・な・つ」
「……わかりました。ちなつ」
下の名前で普段から呼ぶことになれていないのだろう。少し恥ずかしそうに頬を染めながら小さく千夏の名前を呼ぶ。それに満足そうに千夏は頷いていた。
俺もそんな二人の微笑ましいやり取りを見つめながら、少し夢咲さんの方を確認するように視線を向ける。そこには一人、弁当を閉じてまた参考書に向き合う彼女の姿がある。周囲を気にすることなく、問題を解き続ける彼女はどこか鬼気迫るような、自分を追い詰めているようにも見えた。
彼女はどうしてこの居心地の悪い教室に居続けるのか、どうしてそこまで勉強をし続けるのか、その理由が気になった。




