第9話 太陽のように明るい彼女
全員の自己紹介が終わり、授業の概要について先生が話をしていく。どんなことをやっていくのか、それに合わせて資料を配布し、軽く授業を行い。その日は終了となる。
ある程度自己紹介が済んだことで、周囲の人とも話すことが増えるようになる中、夢咲さんだけは一人ポツンと過ごしていた。その様子に目を向けていると、俺に向かって近づいてくる存在がいる。たしか、松崎千夏さんだよな。元バスケ部で、ゲームが好きな子。
「さっきの自己紹介面白かったね~、鏡君」
「楽しんでくれたなら何よりだよ、松崎さん」
「へぇ~、私の名前覚えててくれたんだ」
「そりゃ、あんなに元気な子がいたら覚えるでしょ!おかげでクラスも明るくなったし」
そう告げる俺を松崎さんはじろじろと観察する。足元から胸元、そして、顔にまで視線がいき、何かを確認し終えたのだろう。うんうんと頷く。
「鏡君ってやっぱり話しやすいね。なんというか自然体でとっつきやすい」
「そりゃ、よかった」
俺の言葉を受けながら、笑う彼女は隣で少し身を縮こまらせる彼女に気付いたのだろう。声を掛ける。
「それと隣は中野さんだよね?」
「……えっ、はい。そうですけど……」
「鏡君と話しているのを見かけたけど、おな中って感じ?」
「……いえ、入学式が初めてですよ」
「そうなんだ。結構楽し気に話してたから仲いいもんだと思ってた」
感心したように頷く彼女とは対照的に、中野さんは緊張しているのが分かる。
「もちろん、仲はいいよ。本が好きって共通点があるから仲良くなれたし。感性も似てるから話しやすいんだ」
「へぇ~、どんな本を読むの?」
「『桜の時』とか『星を羨む』って本だよ」
「へぇ~、そうなんだ~」
「絶対興味ないよね!!」
「あはは、実は本を読むと眠くなっちゃうんだよね~」
なんて彼女は肩を揺らしながら明るく笑う。その純粋さに肩の力が抜ける。話しやすいなと感じた。
「それで鏡君はどう、気になった人とかいた?」
「そうだな……」
なんて呟きながら周囲を見渡す。ボードゲームが好きな人、アイドルが好きな人、綺麗な服が好きなど沢山の人がいたことを思い出す。その中でもやはり気になったは、
「夢咲さんかな?」
俺は松崎さんの表情を窺う様に、彼女を見つめる。俺の予想が正しいのなら、彼女が俺に声を掛けてきた理由がそれだから。
「夢咲さん可愛いもんね。やっぱり、男子なら気になっちゃうの?」
「そりゃ、かわいい子がいたら目を惹かれるよ。でも、それ以上に友人を必要としない理由が気になるって感じかな。松崎さんもそう感じたんじゃない?」
目を細めながら問いかけると、松崎さんが驚いたように目を丸くして俺を見つめる。動揺したのだろう、少し身体を後ろに引いていた。
「確証はなかったけど、やっぱりそうだったんだ」
「……どうして、わかったの?」
単純な疑問を問うように、松崎さんは俺と距離を詰める。興味があるからなんだろうけど、少し近い気がするんだよな~。なんて思いつつ、笑う。
「松崎さんって周囲に気を配って話すように、周りを見てたからかな。だから、一度大翔の方を見て、周りを囲まれていると察して俺の方に来た。大翔をいずれ頼るなら、その友人である俺と知り合った方が得だから」
その言葉に引きつったような笑みを浮かべながら。
「……あはは。別に損得では考えてないよ。でも、ごめん。不快にさせたよね」
そういって彼女は頭を下げる。それに俺は首を振って否定する。
「ううん。俺も勘違いさせてごめん。不快に思ってないし、むしろ嬉しいかな。松崎さんみたいにクラスの様子を気にかけてくれる人がいるってのはね。夢咲さんに近付くなら、異性の俺よりも、明るくて話しやすい同性の松崎さんの方がいいしね」
その言葉に目を瞬かせながら俺を見つめる。そして、本心だと察したのか彼女も表情を緩める。
「ふぅん。なとなく西園寺君が君を頼りにしてる理由が分かったかな。何と言うか安心感がある。ね、中野さん」
「ふぇっ、わ……私ですか?」
唐突に投げかけられた言葉に驚きつつ俺の方を見つめる。そして、ふっと表情を和らげた。
「そうですね……鏡君は落ち着いているから安心感がありますね」
ふわっとした口調で俺の方に微笑む彼女の姿に、胸が温かくなるのを感じる。俺も同じように、素直な気持ちを吐露してくれる彼女に安心感を抱いていた。飾らない自分でいられるから。
「ありがとう、俺も中野さんといると落ち着くかな」
「へぇ~、二人ともそこまで仲が進展してんだ~」
なんて楽し気に笑う彼女に、中野さんが慌てて否定する。
「違いますからっ!」
「分かってる分かってる」
なんてにやけた表情に中野さんが「絶対わかってないです!」と少しむくれたように告げる。それに苦笑しつつ告げる。
「松崎さん、そろそろ可哀想だから、揶揄うのもほどほどに」
「は~い」
あっさりと引いた松崎さんに自分がただ揶揄われていただけだと分かったのだろう。恥ずかしそうに、少し頬を赤らめながら、拗ねたように少しほっぺを膨らませる。それに気づき、
「ごめんごめん。つい、反応がいいから」
と告げながら、両手を合わせて謝罪していた。
「次はないですからね」
なんて言いつつも、既に二人の中にあったような緊張感が無くなっていて、これも松崎さんの成せる業なんだろうと感心する。
謝罪を終えた松崎さんは改めて、俺たち二人を見つめて告げる。
「二人共さ、夢咲さんのことを少しは気になってるんだよね?」
「……そう、ですね。なんというか、少し寂し気に見える時もあるので、気にはなります」
彼女の着眼点に少しだけ俺は目を見開いた。そう考えている人が自分以外にもいたことに。
「そうだな、俺も一人でいるのが気になってはいる。理由を知りたいと思うよ」
「だよね! なら結成しよう」
「結成ですか……?」
「うん!夢咲さんをクラスの輪に入れる会!!って感じで、どう?」
「それ、いいね!」
「はい、私も良いと思います」
それを聞いて千夏の顔がぱっと明るくなる。まるで自分事のように、嬉しそうに微笑む彼女に釣られるように、俺と中野さんもまた、微笑む。
二人の笑顔には緊張感は既になく、自然体で、純粋な笑みを浮かべていた。この二人の想いが夢咲んさんにも伝わってくれると言いな。なんて一人、心の中で思った。




