第8話 誰もが注目する自己紹介
「それでどう、少しは予行練習になったかな?」
「はい! おかげで、自己紹介できそうです!」
嬉しそうに口元に笑みを浮かべる彼女はの雰囲気がいつもより柔らかいからか、その微笑みが可愛らしいかな、周囲の男子が反応して彼女に視線が集まる。そのまま、じーっと見つめていて、数秒間、見惚れているのが分かった。なんというか、現金というか。すぐかわいい女子には反応するのだからと思う。
まぁ、気持ちは分からなくもないけど……。
その後は担任が入ってくるまで、普通に三人で話す。有明も小説を読む事から、おすすめの本を紹介し合っていた。
そうして始まった自己紹介は数名も当てられたら、中野さんの番になる。
「じゃあ、次は中野」
「……はい」
名前を呼ばれるとやはり緊張が走るのだろう。すこしピクリと肩が揺れながら彼女が立ち上がる。そうして、ふぅ~と軽く息を吐きながら、立ち上がると俺の方をチラッと確認する。
がんばれ!
勇気づけるように小さくガッツポーズを作って腕を軽く揺らす。それに頷いて彼女が自己紹介をする。
「……中野雫です。中学は王来中学校でした。……趣味は本を読むことで、図書館によく通ってました」
小さく頭を下げて、さっと着席する。派手さはないけれど、その慎ましさに、何人かの女子が優しく微笑んだのが分かる。その表情に安心したように肩の力を俺も抜いた。
「じゃあ、次は松崎」
「はーい!」
名前を告げられた、松崎千夏さんが右手を高らかに上げながら、元気よく立ち上がった。琥珀色の瞳に亜麻色の髪。それを上部で束ねてポニーテールを作っている。彼女が動くたびに髪が左右に揺れて、自然と太陽のように輝く微笑んだ顔に目が言った。
なんというか、こっちまで笑ってしまうような子だな。俺もつられて微笑んでしまった。彼女は、声のトーンを一段と明るくして、全体に視線を配るように目を動かしながら、口を開く。
「中学は第五。中学ではバレー部だったけど、ここでは部活はちょっと考え中。趣味は食べ歩きとゲームかな?」
女子の一人が「え、ゲームするんだ」と小さく反応し、それを聞きつけた彼女がすかさず笑って返す。
「するする、今度勝負しよー」
そんな風に、ごく自然に会話の糸を広げていくその様子に、教室の空気がふわりと和んだ。目線を動かして常に周囲の反応をよく見ていることがわかる。張り詰めた場面でも、それに気づけば笑いを差し込める。そんなタイプの人だ。
意外にも常に周囲を観察するタイプなんだな。なんというか、少し自分と似たような所に親近感を持つ。
その後も順調に自己紹介は進んでいき。みんなが心待ちにしていた夢咲さんが指名される。クラス中が先程までとは違い、緊張しているのか、先程まであったざわめきがなく、みんなが彼女の言葉に耳を傾けていた。
彼女が椅子から立ち上がる。すると、椅子に持たれかかっていた背中まで伸びていた髪がさらりと垂れ、整った顔も良く見えるようにまっすぐに前を見つめる。その姿にみんなが見惚れる中、彼女が口を開いた。
「夢咲 桜です。趣味はとくにありません」
その声は淡々としていて、無表情に近い。誰もが息を飲むように見つめているなか、彼女は名前だけ告げると、すぐに着席した。
『……』
その様子に俺を含めて皆が呆気に取られる。担任ですら、続きを待っていたのだろう。目を閉じながら聞いていたのに、驚いたように目を開けて、夢咲さんのほうを見つめる。
「えっと、それだけか?」
なんて、戸惑いつつ、担任が声をかけるが。
「はい。以上です」
とはっきり告げる。その様子に担任の松坂先生は苦笑を浮かべていた。それはクラスの皆も同じで、さっきとは別の意味で注目を浴びていた。
その様子がおかしくて俺は思わず、一人くすくすと笑ってしまう。なんというか、ほんと昔の涼花を見ているみたいだなって。つい、懐かしい思い出が蘇ってきた。周囲の反応なんかどうでもよくて、自分の在り方を重要視する彼女に笑みが零れていた。
そんなお高く留まったように見える夢咲さんに対して、女子の何名かは敵意を持つような視線を向ける。それを察したのだろう、担任が空気を変えるように次の生徒を指名していく。
そしていよいよ俺の番が回ってくる。周りを見渡してから自己紹介をする。
「俺の名前は鏡 連。連でも鏡でも好きなように呼んでくれ。好きなことは、新しいこと全般。 特技は……素敵な友人を作ることかな」
「特技が“素敵な友達を作る”って、何それ~」
松崎さんがノリよく聞いてくれる。俺はそれに大して笑みを浮かべて答える。
「そのまんまの意味だよ。たとえば、さっき自己紹介してた有明とか、これらか自己紹介する大翔とか。つい自慢したくなる友人が多い」
俺は自信満々の笑みを浮かべて応える。そしてあえて、一泊開けて楽し気に伝える。
「だから、大翔がこの後、誰の記憶にも残るような自己紹介をしてくれるって信じてる」
それに大翔が苦笑しつつ告げる。
「……相変わらず、むちゃ振りするな」
なんて頭を掻きながら告げていた。担任もそんな流れに沿うように、大翔を指名した。
「俺の名前は西園寺大翔。さっき自己紹介していた、連の親友かな。連はまぁ、頼りになるやつだけど、さっきみたく、無茶ぶりをしてくるのでみんなも気を付けるように」
そのフランクかつ冗談だと分かる仕草に一部の生徒がクスリと笑った。
「それと、好きなことは野球だな。目標は……」
等と言いながら、大翔は黒板の前まで歩いて行き、そうして黒板にでっかく文字を書いた、大翔らしく、はらいに勢いのある豪快な字で
『甲子園優勝』
とでっかく描く。
「甲子園優勝、これを成し遂げる!この学校で!!」
隣のクラスにまでハッキリ聞こえるほどの声量で堂々と宣言する。その声にみんなが一斉に視線を向ける。さほど興味がなかった生徒も、彼の姿を確認して、視線が外せない。あまりにも、真っ直ぐに見つめる彼の視線に、逸らすことなく皆が見つめる。その視線に本気なんだと伝わってくる。
(そうだ、彼の堂々している姿に誰もが目を惹かれ、そして勇気づけられる)
「どうだ、連。これで印象には残ったんじゃないか?」
これで、夢咲さんに向いていた視線の大半は俺に向いただろ?なんて、意図を察したように問いかけてくる。
「あぁ、流石だよ、大翔」
それに対して俺は素直に微笑むのだった。




