第8話 恋愛事情−①
「また付いてきてる、、、」
ミアはため息をつく。もううんざりだ。
背後に気配を感じて振り返って見れば、案の定あいつが付いてきている。
学年もクラスも知らない人なのに、なぜ追いかけられなければならないのだろう。
(毎日毎日いい加減にしてよ。マジキモいんだけど)
そもそも自分をストーキングする理由が分からない。たった一度シャーペンを拾ってあげただけなのに、なぜそれだけで付き纏われるなんて事態になるのか。一目惚れでもされたのだとしたら寒気がする。
今思えば、髪はボサボサで中途半端に長く、顔は不細工でニキビだらけ。全体的にダサくて不潔な印象の男だった。どう考えても自分と話せる立場にもないド底辺だ。あんな男の持ち物だと知っていたら親切に拾ってやったりしなかったのに。
もういっそ立ち向かって真正面から拒絶してやろうか。自分が思い切り悪意を込めて怒鳴りでもすれば、もう二度と付き纏いはしないだろう。
そう考えたミアは立ち止まり、ストーカーのいる方へ歩き出した。
ミアがこちらへ向かってきていると分かった途端、ストーカーは焦りだし、どうするべきかその場で右往左往している。そのジタバタした動きがゴキブリより気持ち悪い。
ストーカーの前に仁王立ちし、軽蔑を隠さず言い放つ。
「お前、あたしに付き纏うの止めてくんない。クッソウザいんだけど」
「あ、え、えっと、、、」
「うわ、キッモ。謝罪の一言も無い訳?死ねよマジで」
男は目も合わせず黙りこくっている。自分が怒りをあらわにしているのに、顔を赤くしモジモジしていて不愉快だ。
大きく舌打ちをして、ストーカーを見下ろす。
「もう二度とあたしに近づくなよ。次したら即警察呼ぶから」
釘を差し、さっさとその場を離れる。男は最後まで何も言わなかった。
あの様子だとミアに恋焦がれているのは間違いない。自分に釣り合うはずもないのに、思い上がりやがって。本当に気色が悪い。
イライラは収まらなかったが、ここまで言えばあいつも諦めるだろう。
歩道を歩きながらそれとなく後ろを確認すると、どうやらもう付いてきていないようだった。
(やっと諦めたか。早く帰って友達に愚痴ろう)
赤信号になったので横断歩道の手前で止まる。このあたりは交通量が多く、信号が青になるまでがとても長い。
時間潰しにカバンからスマホを取り出していじり始める。そのうち他の通行人も集まり、信号待ちの集団が出来ていた。
程なく信号も変わろうかという時、いきなりミアの背中に衝撃が走った。
「はっ?」
その勢いのままミアは道路に投げ出され、手足をすりむいた。
そこへ自動車が直進してくる。
(ヤバい、轢かれる!)
急いで歩道に戻ろうにも体が動かず立ち上がれない。通行人の誰かが悲鳴を上げる。車が目前に迫り、思わずぎゅっと目をつむった。
すると急に体が浮かび、誰かに抱きすくめられるような感覚がした。
目を開けると車が目の前を通り過ぎていくのが見え、自分は歩道にぺたんと座り込んでいた。
通行人達の安堵の声が聞こえてくる。
「な、何が起きたの、、、」
信号が青に変わり、留まっていた人々が双方から行き交う。
反対側の歩道にいた人達も口々に心配する声をかけてくる。それらに曖昧な返事をしながら、なんとか頭を整理する。
「お嬢ちゃん大丈夫?」
「あの、あたしどうやって、、、」
「転んだあなたを、そこの人が助けてくれたのよ」
一部始終を見ていたおばあさんがミアの後ろを指差す。
指差す方向を見ると、そこには細身の男性が立っていた。
背がすらっと高く、顔は小さく透き通った真っ白な肌に、髪は目立つ銀色だ。
そして、今まで会ったどんな男よりも整った顔をしている。
(か、かっこいい、、、)
こんなに素敵な人が現実にいるのだろうか。珍しい髪色も相まって、まるでおとぎ話の王子様のような美青年だ。
「すごかったのよぉ。反対側から走ってきて颯爽とあなたを抱えていくんだもの」
おばあさんが惚れ惚れしたように教えてくれる。
一瞬すぎて分からなかったが、そんな事が起こっていたのか。
「あ、ありがとうございます、助けてくれて」
「別に」
そっけない態度だが、そこがますますクールで格好いい。
「それより、アンタ誰かに突き飛ばされただろ」
「えっ」
いきなり言われて面食らうが、そう言われれば背中を押されたような気がする。いや、そうに違いない。でなければ自分の意志に関係なく道路に飛び出すはずがない。
そして自分にそんな事をする人間には心当たりがある。
(あいつだ!あのストーカーがあたしの背中を、、、)
自分の行為を咎められた腹いせに突き飛ばしたに違いない。すぐさま周りを見渡すが、あの男の姿は無い。どさくさに紛れてとっくに逃げていたのだろう。
どこまでも陰湿なやり口にどんどん腹が立ってきた。
「っ、、、学校で探し出してやるっ!」
自分の剣幕にまあ、と驚くおばあさん。はっとして男性の方を見ると、彼は若干面倒そうな顔をしていた。
「あ、その、マジでありがとうございました。もう大丈夫なんで。ほら、二人とも用事とかあるでしょ?」
取り繕うように笑顔を作る。おばあさんは本当に用事を思い出したようで、そのまま帰っていった。
正直おばあさんの方は別にいいが彼の方は帰って欲しくなかった。でもミアの言葉を聞くやいなやさっさと行ってしまった。
このままお別れなのが名残惜しく、せめて名前だけでも知りたくてこっそり彼を追いかけた。
あわよくば仲良くなれないだろうか。あんなイケメンとお近づきになれる機会なんて滅多にない。みんなが推しているようなアイドルや二枚目俳優なんか目じゃないくらいに夢中になっている。
一言で言えば、一目惚れをした。
男性はどんどん進んでいき、どこに行くのかと思えば街角のブティックの前で止まった。
そこは女性ものを取り扱っている店で、ミアも一度だけ入った事があるが男性客はまるでいなかった。
一体何の用だろうと様子を伺っていると、店のドアが開き大量の紙袋を抱えた女の子が出てきた。
自分と同い年くらいで、奇抜なパンクファッションを着こなしている。すらっと足が長く、スタイルは抜群。あれならどんな服でも似合うはずだ。それに何より、遠目からでも分かる程に顔が可愛い。誰もが羨むであろう完璧な美少女だ。
思わず目を奪われたのもつかの間、目を疑うような事が起きた。
その女の子が彼に近寄ったと思ったら、荷物を半分持たせ、楽しげに会話をしながら一緒に帰っていったのだ。
(え、、、どういう事、、、?)
あまりの事に呆然として立ち尽くしているうちに、二人の姿を見失った。
そしてそのまま何かを考えてしまう前に、ミアは来た道を引き返して早足で家に帰った。
___________
「はー、疲れたぁ」
やっと家に帰ってきたアグリーは、持っていた荷物をソファにバサバサと置いていく。ブティック以外にもたくさんの店をハシゴして買った服、靴、バッグなどなど。
「こっちのセリフだ」
同じように荷物を放り投げたジードが首を鳴らす。アグリーの二倍は荷物を持っていたせいで首と肩が痛い。
「つい買いすぎちゃって。一人じゃ持ち運べなかったから」
「だからってわざわざ呼びつけるな。タクシーでも呼べよ」
「お金使い切っちゃった」
ペロッと舌を出してごめんねと謝るアグリー。ジードがはぁ、とため息をつく。
「うーわ。また大量に買ったねぇ。ドン引きー」
帰ってきた音を聞きつけてスカムがリビングに入ってきた。ソファを占領する荷物の量を見て引いたふりをする。
金に一番がめついのはスカムだが、実は彼女が一番金遣いが荒い。使う分は自分で稼いでいるからいいものの、とにかく際限がない。毎回のように荷物持ちにさせられる身にもなってほしい。
「てかいっつも呼ぶのジード君だよね、なんで?俺も今日暇だったよ」
「じゃあ呼んだら来てくれるの?」
「え、やだけど」
速攻で否定し一人でヘラヘラと笑うスカム。これだからこの男を頼るのは嫌なのだろう。
それに別にこっちは暇してたわけではない。夕飯を作ろうとした矢先に呼び出されたのだ。代わりにスカムを行かせようとしたが、面倒だと断られた。ならばと夕飯の支度を任せてから出かけたが、どうなっているのかは分からない。
「俺ちゃんとやったよ?味見はまだだけど」
この家にジード以外に料理ができる人間はいない。そしてその割には味にうるさい奴が多い。ジードの作ったものは文句も言わず食べるが、他の人が作ったものには慣れていない。
「大丈夫だって、カレーくらい。作れない奴とかいないでしょ」
アグリーを見ながら自信満々に豪語する。アグリーはゆで卵すら作れないのを知っている。
結局スカムお手製のカレーは不自然に苦く、全員が首を捻りながら食べる羽目になった。
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「へえ、それは大変だったね」
翌日手足を絆創膏だらけにしながら登校したミアは、早速クラスメイトにストーカーの話をした。多少脚色はしたが、大筋は合っている。予想した通りクラスメイトは一斉にミアに同情した。
「マジありえないわ。逆恨みで人殺しかけるとか頭おかしいんじゃない」
「ミア悪くないのにね。怪我大丈夫なの」
ミアはクラスでは目立つ、いわゆる一軍女子だ。派手な化粧や制服の着崩しは勿論のこと、その威圧的な態度からクラスメイトのほとんどは彼女の言いなりだ。
出来る事ならストーカーの学年や名前を特定して学校中の噂になればいいと思っていた。自分をこんな目に合わせたクソ野郎が泣いて土下座するまで気がすまなかった。
「でもそのミアを助けてくれた人、マジですごくね?ヒーローじゃん」
「それな。映画でしか見たことないっつーの。しかも超イケメンでしょ?」
「えっ何?助けてもらってそっから恋が始まる、みたいな?」
「やっば、そんなん憧れじゃん」
女子がきゃあきゃあと妄想し騒ぎ始める。
例の男性について、助けてもらった事は話したが当然後をつけた事は黙っていた。
ミアは昨日の男性の事を思い浮かべ、そしておそらく彼女であろう女の子の事も思い出していた。
仲も良さそうで、美男美女。どう考えても釣り合ったお似合いな二人。まさに理想のカップルだろう。
でも、どうしても彼の事を忘れられない。もう一度でいいから彼に会いたい。でもどうすればいいのだろう。名前も住んでいる場所も知らないのに。
丁度チャイムがなり、担任が入ってきたので自分の席に戻った。しかし全く集中できず、ホームルームの間もずっと彼で頭がいっぱいだった。
いつのまにかホームルームは終わり、授業が始まる前にトイレに行った。帰ってきたら、自分の机の上に折りたたまれたメモ用紙が置かれている事に気がついた。
(何これ、誰がこんなものを)
開いてみると、簡潔な一文と差出人の名前が書いてあるだけだった。
しかしその内容は、ミアを舞い上がらせるには十分すぎるものだった。
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「、、、」
「お久しぶりです!」
「、、、こんにちは」
週末、ミアは便利屋の事務所に来ていた。そして情報通り、そこには銀髪の彼がいた。
久しぶり、と言われてもピンときていないようだった。少しショックだったが、どうせこれから思い出してもらうのだからと気持ちを切り替える。
しかしあの時の女の子もいた。それも把握済みではあったが、やはりげんなりする。
ふたりで肩を並べてソファに座っている。相変わらず彼は綺麗な佇まいで、女の子もおしゃれで可愛い。十字架の髪飾りに先日とはまた違ったパンクファッション。自分なりのスタイルがあるのだろう。
しかし今日は可愛さでは負けない自信がある。新しく買った服を着て、髪型もメイクもいつもの倍は時間をかけた。
咳払いをして、少しトーンを高くして自己紹介をする。
「ミア・ラムドール、十八歳です。今は高三でーす」
「よろしく。あたしはアグリー、こっちはジード」
アグリーが簡潔に紹介する。ひとまず名前を知ることが出来た。早速名前を呼ぶ。
「ジードさんっ、この前はありがとうございました。もう怪我も治ったんです」
「、、、ああ、それは良かったな」
どうやら思い出してくれたらしい。あれだけの事をして忘れるなんて、余程人助けが日常なのだろう。
「それで、ご用件は?」
アグリーがにこやかに訪ねてくる。会話の邪魔をしないでほしかったが、今は用件を言うのが先だろう。
「あたしぃ、今度友達と三人で遊園地に行くんですけどー、その日友達の一人が誕生日なんです。だからサプライズしよーって話になったんですけど、ほら、失敗したくないっていうか。だからその下見と予行演習に協力して欲しくてー」
あらかじめ友達と考えておいた依頼内容だ。勿論嘘でそんな予定はない。
「ジードさんとアグリーちゃんに友達役をやって欲しいんです」
実のところアグリーはどうでもよく、ただジードとデートをする口実が欲しかっただけだ。しかし二人で行くことを提案すると下心がバレるかもしれないから、仕方なくだ。
ちなみに遊園地デートというアイデアを出したのは友達だ。
「お願いできます?」
上目遣いでジードを見る。
「ちなみにいつご希望ですか?」
またアグリーが介入してきた。歯をむき出しにしたくなる衝動をこらえ、精一杯の笑顔を作る。
「えっと、今日で」
「今日、これから?」
予想外とでも言うようにアグリーが声を上げる。ジードも一瞬眉を上げていたのを見逃さなかった。
「え、だって善は急げでしょ?チケットももうあるし」
これ見よがしに三枚の入場チケットを取り出す。
二人は顔を見合わせてどうしたものかと困惑している。しかし気付かないふりをして強引に押し切った。
「じゃあOKってことで!よろでーす」
そうして晴れてジードと遊園地に行くことができた。
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そのまま駅に向かい、遊園地直通のバスに乗った。到着した時刻は開園時間の午前十時ぴったりだった。
バールゲルトには遊園地が一つしか無い。しかし国のほぼ中心に位置し、最新鋭のアトラクションやグルメ、世界トップクラスの集客率を誇る超大型遊園地だ。平日休日を問わず人でごった返し、週末は入場するまでに三時間かかる時もある。
来る客は当日券を買う人がほとんどで、前もってチケットを購入しておけば入場までの時間が大幅に短縮できる。窓口でチケットを渡せば狙い通りすんなり入場できた。
「さっそく遊ぼ〜!」
久々の遊園地というだけでもテンションは上がっているが、何よりジードが付いてきている。最高の気分だ。
ジードはあまり来た事がないのか、物珍しそうに周りを見ている。アグリーは何となく場慣れしていそうだが、それは仕事中だから落ち着いているだけかもしれない。
「その誕生日当日のプランはもう決めてあるんですか?」
一瞬何を聞かれているのか分からなかったが、すぐに依頼のためにでっち上げた話の事だと気づいた。
「んあー、まだだけど、、、ぶっちゃけこの遊園地あんま来た事なくて。すっごい小さい頃に来たくらい。だからまず色々アトラクション乗ってから考えよっかな」
とりあえず適当に誤魔化す。言い訳まで友達に考えてもらえばよかった。
「なるほど。じゃああたし達はそれについて行けばいいんですね」
「どうせなら一緒に楽しめばいいじゃん、ねっジードさん」
相槌を求める。彼は曖昧に首を捻っただけだった。
ひとまずマップを見ながら園内を練り歩く。
「ラムドールさん、何か乗りたいものとかないんですか?」
「うわ名字で呼ばれるの新鮮だわ。なんか慣れないしミアでいいよ。ふたりともそう呼んで」
ジードに呼び捨てで呼んでもらえると思うと一気に距離が縮まったみたいだ。
「てかタメ口でいいし。アグリーちゃん同い年くらいっしょ?」
「いえちょっと年下」
「マジ、高一?まさか中学生とか?」
まあそのくらい、と有耶無耶にされた。高三の自分と比べて身長は若干低いが、顔や体型は大人っぽい。
年下という事実はショックだった。自分は恋愛経験なんて無いのにそんな年齢で彼氏持ちだなんて。しかもジードのようなイケメンと。
少し悔しくなってきた。アグリーには多少容姿では劣るかもしれないが、ジードへの思いは負けていないはずだ。同業者というだけで付き合えているのではないか。そんなの不公平だ。
いくらか仲良くしてあげようとは思ったが、こうなれば何としてもジードを奪ってやる。
「じゃあ〜あたしアレ乗りたい!」
たった今思いついたという風にコーヒーカップのアトラクションを指差す。ピンクや青色のコーヒーカップが縦横無尽に動き回っている。サイズは二人から四人は乗れそうなものまで様々だ。遊園地の人気ランキングでも上位の乗り物だ。
開園とほぼ同時に入場したというのに、もう客がたくさん集まっている。順番待ちになるかと思ったが、ちょうどカップが二つ空いている。どちらも小さい二人乗りサイズだ。
「あちゃー、どうしよっか三人だしー」
困ったフリはするが、本当は奇跡のような状況に感謝していた。
「二人で乗ったらどうだ」
ジードがアグリーとミアの二人で乗ることを提案する。そして自分は外のベンチで待っていると言う。それでは意味がない。
「えー、ジードさんも乗ろうよー。せっかく空いてんのに」
さりげなくジードの腕に絡みつく。そのまま強引にカップに座らせ、自分もすぐさま後に続く。
「あっごめーんアグリーちゃん。これじゃ一人だねぇ」
当然計画通りだ。そこで指をくわえて見ていればいい。
「別に気にしないで。じゃああたしは外で、、、」
アグリーは後続の客に譲ろうとした。そこへスタッフが駆け寄る。
「お客様、開始まで時間がありませんのでお早めにお乗りください」
「え、あたしは別に」
しかし誘導されるまま、アグリーは他の客と二人乗りする事になった。
(うっわ、カワイソー)
知らない客と二人乗りなんて自分なら絶対に御免だ。しかも相手は中年男性だ。連れと来た女子には辛いだろう。
「なんだぁ乗れてよかったじゃん」
嘲笑したい気持ちを堪えながら笑いかける。アグリーは複雑そうな顔をしたまま客に軽く謝罪をしていた。中年は美少女と相席できて明らかに舞い上がっている。
コーヒーカップは思ったより楽しかった。
ジードはどういう乗り物なのか分かっていなかったようで、ミアがハンドルを回すのを黙って見ていた。途中でアグリーが乗るカップとすれ違ったが、アグリーもハンドルには触らず中年に任せっきりだった。
だんだんと回転が止まって終了時間となった。はしゃぎすぎて少し気持ち悪い。なんとかカップから降りると、同時にアグリーも隣のカップから降りてきた。ミアと同じように身をかがめ、さっきより顔色が悪い。どうやらひどく酔ったらしい。
(まーあのおっさん結構スピード出してたしね、何はしゃいでんだか)
しかもあろうことかその男は体調の悪そうなアグリーを休憩室に行こうと嬉々として誘っている。
最初からそれが目的だったのだろう。なんで家族も社員も連れていない中年が一人で来ているのだろうと思ったが、そういうことか。ありがちな手口だが本当に気持ち悪い。
だがいっそのことそのまま連れて行ってくれたら御の字だ。これならジードと二人きりになれる。休憩を口実に後押ししてやろうかと思ったくらいだ。
中年がアグリーの腰や肩に手を回そうとする。だがその手を掴んで止めたのはジードだ。
「すみません、こいつがお世話になったみたいで。あとは引き受けます」
にこりともせず冷淡に言い捨てる。そのままアグリーの体を自分に寄せ、中年の手をさっさと振り払う。
中年はいきなり現れた彼にたじろいだ。そして魂胆を見透かされたことに気づき、顔を真っ赤にして逃げていった。
「おい、大丈夫か」
「ほんとに気持ち悪い、、、二つの意味で」
「少し休め」
そう言ってベンチに誘導する。軽く背中をさすっているが、アグリーも拒む様子がない。
そんなやりとりを見ながら、ミアはどす黒い気持ちが沸き立ってくるのを感じた。
自分も酔っていたのに、一緒に乗っていたミアよりアグリーを優先するなんて。やっぱり彼女だからか。
(なんでよ、、、あたしのほうが好きなのに、、、)
ついに嫉妬心を押さえきれなくなったミアは、直接対決することにした。




