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HANDED  作者: アサド
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第6話 勝手な男

脱出を試みてから三時間後、病院で集中治療を受け、全身を包帯で包まれて自室に戻ってきた時にはもう夜中だった。ところどころに穴があいた制服は廃棄され、新調されたものが届いたのは一週間後。折れた骨や全身の傷がきれいに治るまでは三ヶ月かかった。しかし左目だけは、もう二度と回復しなかった。


アランはこの事態に激怒し、重症のカガネを詰問した。

使用人達はお嬢様は窓から誤って転落したのだと説明したが、彼女は正直に家出しようとしたと白状した。勘の鋭い父親に言い訳は通用しないと思ったからだ。案の定アランは怒り心頭で、彼女を厳しく叱責して頬を叩いた。

しかし今となっては取り返しがつかないと分かったアランは、より一層カガネの自由を奪うことに注力した。使用人の何人かを見張りとして玄関先、裏庭、部屋の前に配置し、脱走を完全に不可能にした。学校の課外授業には参加させず、自社の見学で賄わせた。


カガネはそんな父親の束縛を黙って受け入れる事が出来なかった。自分の行動のせいだと分かってはいても、こんな事をされる謂れはないはずだ。そして彼女の好奇心は、たった一度の失敗程度で潰える事はなかった。彼女は馬鹿みたいに諦めが悪かった。


春になり、しばらく学校を休んでいたカガネが復学したと思ったら左目に眼帯をつけていたので、元々クラスで浮いていた彼女は文字通り腫れ物扱いを受けるようになった。わざわざ何があったのか聞いてくる同級生もおらず、担任に事故だと説明しただけでこの件については終了した。むしろそれがありがたくもあったが。


授業が終わり、放課後いつもなら校門前で待機している自家用車に乗り込むところだが、今日はそちらには向かわなかった。サッカーや鬼ごっこをする生徒で溢れかえる校庭を目立たず通り抜け、フェンスの隙間から外に出た。誰にも見られていない事を確認すると、校門とは反対方向に歩き出した。


もう二度と見つかりたくなかった。家にも戻りたくなかった。逃げたかった。

ただ自由を望む事が、どうしてそんなにも罪深い事なのだろうか。そんなはずはないだろう。


そこから数日は、公園やどこかの倉庫の中を寝床にしながら街を散策する生活をした。

お金がないので食事はできなかったが、倉庫の中にあった備蓄の食料を少しずつ携帯して食べていた。あまりおいしいとは言えなかった。とっくに消費期限が切れていたから、もう誰も管理していない倉庫だったのだろう。


地図もないままあてもなく彷徨ったが、それだけでも十分満ち足りた気分だった。父親も勉強も学校も忘れて、好きなように、望むままに生きることの楽しさを知った。


そんな中父親の事を思い出したのは、彼が目の前に現れたからだ。


彼は父親に依頼された何でも屋だと言った。

父からの依頼内容は「娘を見つけて、保護すること」だったらしい。父親が自分を探しているとは思わなかった。懲りずに脱走する自分に愛想でも尽かして、警察にも知らせずにいると思ったのに。


突如現れた彼の事を信用した訳ではなかった。そういう類の誘拐犯とか不審者かもしれなかったが、彼が何者であれ、全く知らない人と話すのは怖くなかった。ただ、外の人間に興味があった。


結局彼は、車で連れ去るとか怪しい場所に連れていくなんて事はなく、ただ連れ添い、自分が望めば行った事のない場所へ連れて行ってくれた。食べた事のないもの、見た事のないものを与えてくれた。


どうしてそんな事をしてくれるのかと尋ねれば、仕事だからとにべもない返事。それの何がこんなに嬉しかったのかは分からない。

出会って一日も経っていないのに、もっと彼のことが知りたくてたまらなかった。



___________



だいぶ日も落ちて、映画館を出た頃にはあたりはもうすっかり暗くなっていた。

初映画は恋愛ものだった。主人公とヒロインが数々の障害を乗り越え、ラストで結婚しハッピーエンド。結婚式の様子は散々見てきたが、映画ならではの演出もあって面白く、とてもドキドキした。多分これが俗に言うキュンキュンなのだろう。


一日をこんなに満喫したのは初めてだ。今日は色んな初めてに出会った。それはとても幸せな事だ。


これからどうするのだろう。お腹が減っている気もするが、彼がいないと食事は出来ない。それとなく聞いてみようか。


「お兄さん」

「、、、」


よく見ると、彼は眉根を寄せて目をしばたたかせている。


「どうしたんですか」

「いや、なんでもない」

「あ、もしかして映画がつまらなかったとか?ごめんなさい私が見たいって言ったから」

「別に違うしそれはいい。少し眩しかっただけだ」


映画館は暗かったが、劇中ではフラッシュが焚かれるシーンもあって刺激注意の注意書きがあった。それで目をやられたのだろう。


「ごめんなさい、映画、どうしても観てみたくて」

「、、、観た事なかったのか」

「家にいたときは、俗世的な内容だからって禁止されてて。そう言ったのはお父様ですけれど、嘘でしたね。あんなに面白かったのに」

「、、、そうか」

「、、、お父様は、どうして何もかも禁止するんでしょう。ひどいです」


不服が口をついて出てしまった。すぐに止めるが、一度自覚してしまったそれは留まるところを知らない。

父は自分を何だと思っているのだろう、とか、自業自得とはいえ大怪我した娘を心配してもくれないのか、とか、次から次へと不信感が募ってくる。


そんな時、彼が聞いてきた。


「お前、父親のことは好きか?」


思わず足が止まった。見上げると、彼は真剣な顔で答えを待っている。


何と言えばいいのか分からなかった。好きかどうかなんて、そんなこと考えた事もなかった。

自分に圧政を敷く父が好きかどうかなんて、普通なら答えは決まっている。


でも、父がそんな事をする理由はまだ知らない。

何か意図があるのかもしれないし、実は束縛するのは自分が子供の内だけなのかもしれない。自分から理由を尋ねた事すらなかった。

そう考えると、今父の意に反して家出という行動をとっている自分が、とんでもなく性悪な娘に思えてきた。その理由を知ろうともせず、ただただ反抗する自分が人として恥ずかしく思えてきた。


優しい父ではない。ひどい父だと思う。でも、母親のいない自分にとっては唯一の肉親でもある。


「、、、、、、うん」


決して嫌いではない。こんな不出来な自分を見捨てず色々な手段で探してくれる。


「、、、わかった」


カガネの返事を聞いた彼は息を一つ吐くと、ポケットからスマホを取り出し、どこかに電話をかけた。

電話の相手はなんとなく分かった。


もう楽しい時間は終わりだ。


二言三言で電話を終えた彼に歩み寄り、そっと手を繋いだ。大きくて冷たい手だ。

彼は何も言わず自分の手を引いて歩き出した。行き先は分かっている。

ただ今だけは、この時間を噛み締めていたい。


一言も喋らずに歩いてたどり着いた先は、やはりカガネの自宅だった。


門の前では使用人が待っていた。こちらに気づくと感激したように駆け寄って来る。いつも自分を送り迎えしていた初老の運転手だった。


「ああお嬢様、よくぞご無事で、、、!」

「あ、、、うん。ごめんなさい心配かけて」

「お怪我はありませんか」


カガネの全身をくまなく確認する。服が変わった事を除けば、不安要素はないだろう。

お風呂には入れていないが、どこも怪我はしていない。


「ああ、本当に良かった、、、お父上も大変心配されていましたよ」


「、、、え?」


いや、いやいやいや。

そんなの嘘だ。それくらい分かる。


だって、自分が大怪我した時だって怒っただけで狼狽えてすらいなかった。

心配なんかしない。そう、そういう人なのだ。


急に体が強張ってきた。どうしてか、不安が全身を撫で回す。


彼の方を見ると、彼はメイドから何やら封筒を受け取っていた。

制服の入った紙袋と服屋で貰った領収書を渡す。

メイドが屋敷の中に小走りで入っていく。

冷や汗が背中を伝う。


「ねえ、お兄さん、、、」


声が上ずっている。


「なんだ?」


封筒の中を確認しながら、こちらを見もせずに答える彼。


「あの、、、」


言いたいことがあるはずなのに、頭が真っ白になってきて何も言えない。


「旦那様、お嬢様がお帰りになられて、、、」


メイドが息を切らせながら戻って来る。呼びに行ったのだ、あの人を。

足音が近づいてくる。


「カガネ」


背後から自分の名前を呼ぶ声に、体が硬直する。


振り返る事が出来ない。聞き慣れた声なのに、どうしてこんなに怯えているのか。


「お、おとうさ、、、」


かろうじて出た声はみっともない程震えていた。


「なんだ、その格好は」

「あ、えっと、、、」


買ってもらったんです。一度着てみたくて。そう言えばいいだけなのに、声が出ない。

夜の冷え切った空気が服の隙間を通り抜ける。


「、、、学生服だと街中で目立つので着替えていただきました。最近児童を狙った不審者も目撃されてるそうですし、余計なトラブルを招くかと」


彼が代わりに答える。

不審者だなんてそんな事一言も言ってなかった。最初からそのつもりで買ってくれたなんて思いたくない。


「、、、まあ良い。追加経費として依頼料に組み込もう」


メイドが追加のお金を差し出す。服屋で彼が払った金額とぴったり同額だ。彼はそれをさっきの封筒にしまった。


「、、、これにて依頼完了とさせていただきます。ご依頼ありがとうございました」


淡々とした口調で彼が父に頭を下げる。


「では、これで失礼します」


彼が踵を返す。最後までこちらを見なかった。目を、逸らされた。


待って、待って。まだ行かないで。


「カガネ、さっさと家に入れ」


違う、決めつけちゃ駄目だ。まだその理由も知らないんだ。

なのに、どうして。


メイドが促そうと肩に手をかける。丁度肌が露出していて、メイドの手の温度が伝わってくる。

ひどく冷たかった。


「あ、ああ、、、、、、!」


頭が完全に真っ白になった。


カガネは突然叫びだし、彼の背中を追いかけた。


「待って、やっぱり嫌だ!!」


「助けて、助けてお兄さん!」


狂ったように暴れ出すカガネを、使用人が驚いて数人がかりで止めに入る。


気付いてしまった。使用人の誰一人として笑っていない事に、気がついてしまった。

カガネの体を心配し帰りを喜んだのは、父の機嫌がこれ以上悪くなるのを恐れていたからだ。

本当は誰も自分を愛してなどいないのだ。


聞こえているはずなのに、彼はどんどん先に進んでいく。


「ねえ、待ってよ!依頼するから、お願いだから」


どれだけ泣き叫んでも止まってくれない。使用人の心配を装う声がはるか遠くに聞こえる。



どうして、なんで、あの人しかいないのに。


(どうして私を助けてくれたの。どうして、私を助けてくれないの)


なぜ彼は、こんな勝手な真似をするのだろう。

なぜ彼は、ただの善人じゃないのだろう。


後ろから父親の足音がする。

もう逃げられない。もう二度と叶わない。


もう、何がなんだか分からない。


「お兄さぁん!!」


力の限り叫んだが、もう彼の姿は見えなくなっていた。



________




「じゃあ依頼ってのは娘さんを?」


スカムが確認するように聞き直す。今回の依頼はスカムとジードの二人で受けた。


テーブルには小学生の女の子の写真が置かれている。アルバム用に学校で撮影されたものらしく、教室で勉強しているところのようだ。薄い茶髪で、目鼻立ちがくっきりしている。


立派な髭を携えた貫禄のある男は神妙に頷く。


「娘は聞き分けが悪く、言いつけを全く守らない。外出を許していないのに脱走を試み、愚かにも窓から転落して目を負傷する始末だ。全く持って手に負えない。気に食わん箇所ばかり母親に似おって」


アランは心底侮蔑するように人前で娘の悪態をつく。


「なーんか嫌ってない?実の娘を」


スカムは不遜にもタメ口で言いにくいことを言ってのける。そんな彼が癪に障るようだが、アランは顔を歪めながらも話を続ける。


「懲りずにまたしても家出を企て、今週の月曜に失踪した。使用人が待てども帰宅しなかった故、こちらに連絡が入った。今も使用人が捜索中だ。警察には問い合わせない」

「なんで?誘拐かもよ」

「だとしてもだ。あんな愚娘のためにブライズメイドの醜聞を世に公表するわけにはいかない。使用人にもこれ以上期待できん。故にここに参じたのだ」


魂胆を隠しもしないあけすけな物言いにスカムは好感を持った。彼はこういった正直な人間が好きだ。悪い意味で。


「じゃあ周辺を捜索して見つかり次第、お宅に連れ戻すって感じ?」

「そうだ、早急にな。カガネには我が社の業務を継ぐ義務がある。くだらない反抗期にかまけている暇はない」


その後もくどくどと不満語りは続いたが、ジードは終始黙ってそれを聞いていた。


アランが帰った後、依頼遂行の計画を立てた。

カガネ・ブライズメイドを見つけるのはそこまで苦のある作業ではなかった。

制服を着用したままの小学生なんて日中では目立つに決まっている。小学校から子供の足で数日で移動できる範囲を絞り、周辺に聞き込みをしたらすぐに見つけられた。そこまでの作業はスカムが担当した。

カガネの居場所を特定してからは、ジードが連れ戻す役に回った。スカムは調べたい事があるからとさっさと事務所に戻ってしまった。


話しかけ身分を明かしたら素直にこちらの言い分を聞き入れ、警戒する様子もみせなかった。父親が探していると分かれば、もっと取り乱すなり、嫌そうな顔をすると思った。


本当は、すぐに家に帰すつもりだった。依頼の達成までにかかる日数の指定は無かったが、あの依頼人が早期解決を望む事は容易に想像がつく。それに一文無しの少女が着の身着のまま家出なんて続けられるはずがない。


しかし、カガネが家出をした理由が分からない訳ではなかった。

あんな父親のもとで育ち、何の自由もない生活をして、挙げ句に失明までしたのに心配もされない。そんな家に帰りたいはずがないだろう。


だからせめて、外にいる間だけでもやりたい事をやって欲しかった。ごく普通に食事をし、好きな服を着て、今まで出来なかった事をして欲しかった。それを咎めるはずがなかった。

ひとつ、またひとつとやりたかった事を消化していくカガネは、目に見えて楽しそうで、父親のことなんてすっかり忘れているようだった。


依頼を請け負っている以上、いつかは家に連れて帰らねばならない。それは今なのだろうか。それとも、このまま家には帰らず、誰かが保護した方がいいのだろうか。果たしてそれは自分達がしなければならない事なのだろうか。それは彼女が望む事なのだろうか。ジードなりに色々思うところはあった。

しかし、どうするかを考える前にひとつだけ、聞きたい事があった。


「お前、父親のことは好きか?」


嫌っていると思った。

嫌う人間がいる家に帰りたくない気持ちをジードは知っている。


けれど違った。彼女はあんな父親でも父親と認めている。

父親への嫌悪感からの家出ではない。外の世界への好奇心からの家出だった。


ならば、自分には何も出来ない。何もしない。彼女は自分とは違う人間なのだから。

そう思う事にした。



___________




「お疲れぃ」


カガネの家からそう離れていない路地裏に入ると、いつからいたのかスカムが待っていた。室外機に座ってスマホをいじっている。


「ずっとそこにいたのか」

「まっさか。なんとなくタイミング見計らって迎えに来てやったんじゃん」


にしてもドンピシャなタイミングだ。もう慣れた事だがこの男は人の行動パターンを読むのが上手い。

そしておそらく、今さっきジードがした事も見ていたのだろう。


訝しむ顔のジードにへらっと笑い返し、薄っぺらい哀れみの目を向ける。


「結局俺らが何しようが、あの子は家に戻る羽目になってたと思うよ。あんま気にすんなって」


それはそうかもしれない。別に自分達でなくとも、カガネを探す手段はあったはずだ。


「それと、あの父親がなんで娘を嫌ってたのか分かったよ」


スマホの画面を見ながらスカムが話した内容はこうだ。


十年前、実業家アラン・ブライズメイドは他国での仕事中、理由は知らないがとある女性と愛人関係になった。

既に自国に妻を持っていた彼は規律を重んじる性格から、この一件をなんとかもみ消そうと、愛人に大金を渡して二度と会わない事を誓わせた。

しかし執念深い愛人はわざわざバールゲルトまでやって来て、妊娠したと彼に伝えた。そして自分を妻としなければ、アランの不貞行為を公表すると脅した。

アランはこうなる事を予想出来なかった訳ではないが、これ程自身の過ちを後悔した事はない。

そして本妻が既に病気で他界していた彼には、跡継ぎとなる子がいなかった。しかし彼女を後妻として迎えるのはリスクが高すぎる。


そして考えついたのは、子供だけを取り上げ、愛人をさっさと追い返すことだった。いや、追い返すだけでは足りない。あらゆる手段を使ってでも自分との関係を黙らせた。


そうして晴れて世継ぎを確保出来たのだが、生まれた娘は自分には全く似ておらず、愛人にそっくりな外国人風の容姿をしていた。

アランは苦虫を噛み潰したような気分になった。これでは他国の女性と不貞を働いた事が丸わかりだ。


外界の人間の目に極力娘を晒さないようにした。学校は仕方なく行かせたが、目立たないように過ごさせた。これでも跡継ぎとなる娘なのだから、人並み以上の勉学が必要だ。会社にも連れていき、必要な事は全て教えた。それなりに目をかけていたつもりだった。


しかし成長すればする程、愛人に顔が似てくる。あの女の執着が現れていると思った。とっくに本国で野垂れ死んでいるであろう女が、未だに纏わりついてくる。

カガネには母親は病死したと伝えているが、娘が思う母親とは本妻のことだ。家にある妻の写真を見てそう思い込んでいる。

まだ自覚はないようだが、いつかは違和感に気づくだろう。本妻が母親ではない事に感づくかもしれない。

そして自分を問い詰め、軽蔑するだろう。あの女と同じ顔で。そう思うと一層腹立たしくなった。


そして極めつけはその聞き分けの悪さだ。自分が外出を許さない理由を知らずに、度々脱走を企てる反抗的な態度。そして眼球を失うという頭の悪さ。

望んだ子ではない癖に、なんて煩わしい娘だろうか。


だから嫌う。だから好きな事をさせない。だから幸せにはさせない。


「まあ要は一方的な恨みってこと」


以上が調べた結果だ。

ちなみにこれらの事は解雇された使用人から聞いたことだ。その使用人は前妻がいた頃から働いていて、娘が生まれたタイミングで口封じの為に一斉解雇された者の一人だった。

それ以降の話はスカムの考察だが、ほぼ正解だろう。


「あの子にしちゃふざけんなって話だよね。そんなもん知るかーって暴れてもいいレベル」

「、、、そうだな」


娘は、父親は好きだと言っていた。でもそれはやっぱり違った。

父親は、娘を好いているだなんて思えなかった。やっぱりその通りだった。

そんなものどうしようもないだろう。


「今からでも引き返して保護しようとか思ってる?」

「、、、まさか」

「だよねー。ま、あの子には気の毒だけどさ」


あんな家で暮らすのは心底息苦しいだろう。いずれ本当に窓から飛び降りてもおかしくない。


でも、知った事ではないのだ。正義の味方でもなんでもない自分達に、何の権利があって彼女を保護できるというのだろう。

自分たちに出来る事は、ただ依頼を受け、それを遂行する事だけだ。そこに依頼人の幸せは含まれない。誰の幸せも含まれない。

ただ、最低な自分が残るだけ。


「んじゃ帰ろっか」


室外機から下り、路地の向こうへと進むスカム。ジードはその後をただ黙ってついて行く。

もう二度と、あの家を振り返ることはなかった。


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