第2話 便利屋−②
便利屋に護衛を依頼した翌日、自分は今アグリーと共に街中を歩いていた。
今日の彼女はパンクファッションではなく、インナーカラーの入った髪を一つにまとめ、黒いパーカーに白のロングスカート、深めのキャップという目立たなくもセンスのいい服装だった。自分の方は白のカーディガンに黒いスキニーで、地味にファッションが被っている。
まずは尾行者の正体を掴む。昨夜、アグリーは早速連絡してきた。行動が早くて助かる。
ちなみに女子と連絡先を交換したのは初めてだった。
いつもなら昼頃に家を出て中心街を抜け駅に向かい、そこから二駅超えたバイト先の飲食店に電車で向かう。偶然にも今日はシフトが入っていない日で駅に向かう必要はないが、カモフラージュのために家を出た。
いつもと同じ時間帯に外出し変わらない行動をするように言われたが、隣に女子がいるという事がまずいつも通りではない。端から見ればおそろいコーデのカップルかもしれない。街行く人たちがすれ違いざまにこちらをチラチラと振り返ってきて落ち着かない。
「バイスさん、キョドりすぎ。もっと堂々として。もし連中がいたら間違いなく怪しまれますよ」
アグリーが背後から注意してきたが、振り向けない。
「いや、そもそも君がいること自体が怪しまれるでしょ。僕普段から一人で過ごしてるし、、、」
こそこそと返事をする。どうも気恥ずかしい。
アグリーが美少女だからだろうか、ただ二人で歩くより周りの人間に見られている気がする。
「だからこそよ。いつもと違うことが起きれば連中も不審に思うでしょ」
まさか、自分たちを見ている周りの人間の反応から、尾行者を判別する気だろうか。
ずっと追跡してくる人間を数日かけて見つければそれで済む話じゃないのか。それに彼女を見れば、怪しんで更に調べようと慎重になるかもしれない。そんなに上手くいくだろうか。
「そんな遠回りなことしなくても、、、、」
「連中に心当たりでも?」
「い、いや、、、」
いきなり核心をつかれた。彼女の目は何もかもを見透かしているのだろうか。
「実は、よく僕の家の前をうろついてる人たちで、不良っぽい感じの。こっそり見てたから服装とか顔の特徴は覚えてるんだ」
「へえ」
彼女は相槌を打ちながら、驚くべきことを口にした。
「金髪に赤いバンダナ男、癖毛ロングで背の高い男、顔面ピアスに坊主頭の男」
「えぇ!?」
思わず振り返った。それは間違いなく連中の特徴だ。なぜ分かったのだろう。
「ど、どうして」
彼女はスマホをいじりながら小声で言ってきた。
「もう尾けられてますよ」
「そ、そんな、、、」
やはりあいつらが自分を狙っているのだ。どうすればいい。
「早く撒かなきゃ」
「そうですね、とりあえずそこのカフェに入りましょう」
アグリーはキャップから目をのぞかせながら、コーヒーチェーンの店を指さした。
あまりにも落ち着いた様子で入店していく彼女は、頼もしくも思え、怖くも思えた。
一体これからどうする気なのだろうか。
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店から少し離れた場所では、三人の男が二人の様子を伺っていた。
「おい、あいつら店に入ったぞ」
「どうする、俺たちも入るか?」
「馬鹿かオメー、あいつらの後から入ったら気づかれんだろ」
「じゃあ出てくんのを待つのかよ。そもそもあの女誰だよ」
「妹じゃあねーだろ、彼女じゃねーの」
「マジかよあいつ、舐めてんのかふざけやがって」
金髪の男がタバコを歯噛みする。坊主頭の男が二人が座っているであろう席を見据え、唾を吐いた。
「何にせよ、そろそろケジメつけてもらわねえとな。出てきたところをやるぞ」
「どうせなら彼女にも付いてきてもらうか?連帯責任ってヤツだ」
「そりゃいいな。楽しみになってきた」
下卑た笑みを浮かべる三人。
そんな彼らを陰から見ている男がいた。
_______
カフェから出ると、今度はアグリーを先にして歩き出した。
この順番は嫌だった。後ろから付いてきているであろう連中が気になって仕方がない。だが彼女は配慮する事もなく先陣を切る。
今更ながら、こんなか弱い少女一人では奴らから自分を守るなんてとても無理だ。
細身の体は武術の達人には見えないし、向こうが三人がかりで襲ってきたらひとたまりもないだろう。あいつらは女子供にも容赦がない。やはり出歩くのはやめた方が良かっただろうか。
悶々としていると、いきなり携帯が鳴った。ビクッとしたが、ただの電話のようだ。アグリーの携帯にかかってきた。
「ああ、ちょっとごめんなさい」
彼女は少し先の木陰に移動して電話に出た。
自分と距離が空き、一気に不安になる。
その場に立ち往生するのが落ち着かず、おそるおそる後ろを振り返ってみる。
(、、、っ!そんな、、、)
いる。間違いなくあいつらだ。ガラの悪い三人組がたむろしている。
コンビニの前で客を装いながらも、その目はしっかりとこちらを見据えている。カフェからもずっとついてきていたのだ。急いで視線を戻した。
そしてミスったと思った。今の動きで絶対に奴らは尾行がバレたと思うだろう。であれば、いつ強硬手段に出られるか分からない。
(まずい、このままじゃ絶対に捕まる)
どんどん体が強張ってくる。アグリーを見ると、彼女はまだ通話していた。
焦りが限界に達し、いっそアグリーを置いてこのまま一人で逃げようかとも思った。
不安で視界が歪み始めた時、後ろが何やら騒がしい事に気づいた。
首を少しだけ回してちらりと確認すると、なんとあの三人組が誰かと揉めていた。
激しい怒鳴り声が聞こえてくる。坊主頭の彼の声だ。
何が起きているのか分からず、もう少し振り返って確認した。
どうやら三人の内の一人が通行人に因縁をつけているらしい。
「オイ、お前、、、どこに目つけて、、、」
よく聞き取れなかったが、どうやら通行人が肩をぶつけてしまったようだ。フードを被った通行人は何も言わず黙って俯いている。
その態度が癪に障ったのか、坊主頭が通行人の胸ぐらを乱暴に掴んだ。そしてそのままコンビニ裏に連れて行こうとする。通行人の男は抵抗する様子もなく引きずられていく。
仲間二人は尾行中なのも忘れて騒ぎを起こす坊主頭をなんとか諌めようとしているが、あの中で一番声が大きいのは彼だ。こちらを悔しげに睨みつけながらも、最終的にはしぶしぶ付いて行った。
(チャンスだ)
不良たちの姿が見えなくなると、通話を終えていたアグリーのもとへ走った。
「アグリーさん、連中がいなくなりました。今のうちに行きましょう」
早くしないと、と急かす自分をよそに、アグリーはコンビニをちらりと見る。
そして自分に射抜くような目を向けてきた。
「あの人知り合い?」
「へ?」
質問の意味が分からず、間抜けな返答をしてしまった。
「だから、今連れて行かれた人。知らない人なの?」
勿論全く知らない他人だ。それが一体どうしたというのだ。
「連中があの人に気を取られてる隙に逃げたほうが良いですよ。だって、、、そうでしょ?このままじゃ捕まるし、、、」
段々言葉がたどたどしくなってきた。指が自分の意志と関係なく忙しなく動く。
なんだろう、さっきの通行人の顔が浮かんできた。ちゃんと聞かれた事に答えられているだろうか。
「あっそ」
急に愛想を尽かしたように冷淡な返事をした彼女は、いきなり反対方向に歩き出した。
不良たちのいるコンビニに向かっている。
「ちょ、ちょっと、何してるんですか。そっちにはあいつらが」
わけが分からず引き留めようとしたが、完全に無視されどんどん先に進まれる。
そして彼女はそのままコンビニ裏へ入っていった。
(何考えてるんだよあの子、、、!)
理解が追いつかない。コンビニの前で途方に暮れる。
彼女に続く勇気は無かった。こんな事で奴らに捕まるわけにはいかない。
しかしこのままだと奴らに脅された彼女が自分の事を洗いざらい話してしまうかもしれない。それだけはなんとしても避けたい。
結局考えついたのは、裏には入らず息を殺して陰からそっと様子を伺う事だった。
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数分前
「おい、早く謝れよてめえ」
坊主頭のリーダー、ドギーが通行人の肩を突き飛ばし、コンクリートの壁に追い詰める。
凄みのある声だが、フードで顔の見えない青年はずっと黙ったままだ。うめき声ひとつあげない。
(さっさと謝るなり財布出すなりしろよな)
金髪に赤いバンダナを巻いた男はイライラして吸っていたタバコを乱暴に踏み消した。
事の発端は数分前。
ドギーがコンビニに入ろうとした男に肩をぶつけられたが、男は黙って通り過ぎようとした。それがドギーの癇に障り、すぐさま通行人に詰め寄ったのだ。しかしそれすら無視しようとする男に、ドギーの堪忍袋の緒が切れた。
今まで何度もこういった事はあったが、大体は気が短いドギーの言いがかりだ。
しかし彼の巨体や恫喝する声に恐れをなし、大抵の人間はすぐに許しを請う。そして気が済むまでボコ殴りにし、財布を奪っておしまいだ。
だがどういう訳か、この男は土下座どころか身動き一つしない。それがますます気に入らないらしく、ドギーがヒートアップしていく。
こんなところで時間を食うわけにはいかないのに、ドギーは目先の怒りに囚われて完全に目的を忘れている。そうこうしている間にもターゲットは逃げてしまうだろう。
「ドギー、もういいだろ。早くしねえとあいつを見失っちまう」
癖毛ロングのゼブが無謀にもドギーを止めようとしたが、彼は聞く耳を持たない。
「黙りこくってんじゃねえぞコラ、なんとか言えや」
更に機嫌が悪くなっている。とうとう青年の頭を鷲掴みにし、その太い足で腹に蹴りを入れた。
まともにはきまっていないようだが、青年が薄い腹を抱え少し身をよじった。その一瞬、フードの隙間から銀色の前髪と眼鏡が見えた。
(もうだめだな、こうなったら止まらねえ。俺とゼブだけでも先に行くか)
おそらく戻ってきた時には青年はゴミみたいにボロボロになっている事だろう。でも自業自得だ。
うんざりした表情のゼブに目線を送り、二人で表に出ようとしたその時だった。
うぎゃっといううめき声がしたと思った次の瞬間、ドギーの体が吹き飛んできた。




