惨状
【22】
『‥‥‥頼む‥‥‥誰か‥‥‥誰か助けに来てくれ‥‥‥誰か‥‥‥‥‥‥助けて‥‥‥』
かすかに残る意識の中で誰かの声が聞こえた気がした──
「‥‥‥さん! 爽真さん!」
──‥‥‥呼ばれている‥‥‥
「⁈」
「爽真さん! 大丈夫ですか⁈」
目を開けるとセフィアが切羽詰まる勢いで俺のことを心配していた。
「ああ、大丈夫だ。どうやら生きているみたいだな。俺はどのくらい意識を失っていた?」
「ほんの数十秒ほどです。一気に魔素を使いすぎた反動だと思います」
「そうか‥‥‥」
ゆっくりと体を起こして辺りを見回してみる。するとそこはひどい有様だった。
青い半透明なドーム状の壁はまだ残っている。そのドームは俺たちが乗っていた客車一両をほぼ全てすっぽりと覆いその中は被害がない。
しかし壁の外側はこの世とは思えない地獄のようになっていた。
真っ黒な煙が広範囲を覆い、所々では紫色をした炎が燃え盛っている。俺のいる十メートル先では爆風で吹き飛ばされた客車がひっくり返っており、その車体は熱によるせいかどろりと変形してしまっている。
煙によってそれ以上先の視界はほとんどないが、周囲200メートルにわたってこのような惨状が広がっているのだとセフィアは言う。今確認できている生存者は俺とセフィア、そして同じ車両に乗っていた兵士らしき二人組のみだ。その二人組は未だに何が起きたのかが把握できていないらしく呆然としたまま座り込んでいる。
防御魔法の発動に成功できなかったり、発動があと少し遅れていたらどうなっていたか。目の前で熱で粘土のように崩れ落ちていく鉄の塊を見ると背筋が凍る。
それと同時に気になっていたことを恐る恐るセフィアに問いかける。
「‥‥‥他の客車にいた乗客は‥‥‥」
セフィアが暗い面持ちを浮かべながら首を横に振った。その行為は今一番考えたくない状況を意味していた。
「おそらく生きているのは私達だけでしょう。通常の人間があの魔法を受ければ跡形もなく消し飛んでしまいます」
戦争地域に足を踏み入れる以上、いつかはこういうことが起きると覚悟していた。それにこういったことでいちいち悩んでいたらこの先、精神が持たなくなることも想像がつく。だからこそ何かあっても彩奈を助けるまでは非情になろうと決めていた。
だが関わりのない人とはいえ、その死をまざまざと見せつけられるとどこか非情になりきれない自分がいることを感じる。
「爽真さんは優しいですね‥‥‥」
セフィアが俺の気持ちを察したのか、小さな声で言った。
「もしかしたら守れた命があったんじゃなかと思って‥‥‥な‥‥‥」
「爽真さんが責任を感じることはありません。ですがここで亡くなった方々のためにも私達は次に進まないといけないと思います」
──セフィアはさすがだな。もう前を向いている。
二つ年下の少女だが俺なんかよりもよっぽどしっかりとしている。
──俺も大きな目標があるんだ。立ち止まってはいられない。
「そうだな。俺たちは幸いにも生きているんだ。この先もしっかり生きないとな」
「はい。まずはこれからどうするかを決めましょう」
──俺一人なら間違いなくこんなに早く立ち直ることはできていなかっただろう。本当にセフィアには助けられてばかりだな。
そんなことを思いながら俺たちはこのあとどう動くかの相談を始めた。
この時、俺たちは列車を狙ったこの強力な魔法に敵国のどんな意図があるのかを知らなかった。
そして次の日、敵国内ではとある噂が流れるのであった。
『リデアル国にはネグロヴィオーラの魔法を受けて生きていられる者がいる』と──
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