翼族との決戦
「うりゃぁ!」
俺は目の前にいる翼族にメリケンサックをつけた拳を撃ち込む。
「があぁぁ!」
攻撃をくらった翼族の男は地面を転がり、動かなくなる。
しかし、死んではいない。
何故かは分からないが、この世界では死んだ者は灰になるようだ。
俺は地面に転がる『それ』に持っていたナイフを突き刺し、灰に変えた。
死体が残らないので、戦場は灰が積もっているだけで、あまり汚れていない。
「撃つぞー!」
小人族から声があがる。
俺は素早く岩陰に隠れた。一瞬遅れて、辺りに石の散弾がばら撒かれた。
いくつかの石が翼族に命中し、怪我を負わせる。
しかし、致命傷には程遠い。
だが、この散弾の目的は敵を殺すため、ではないので問題はない。
「天野さんは大丈夫かな・・・」
彼女の心配をしている暇はないのだが、やはり気になる。
「ここら辺の敵は片付いたから、いいだろう。」
俺は自分に言い聞かせるようにして、天野さんのいる小人族の陣営に走り出した。
「えい!」
私は鉈を振るって、何人もの翼族を葬り去る。
「ええい!小癪な!」
敵が3人まとめてかかってきても素早い動きで攻撃を避けながら敵を一人ずつ確実に倒す。
しかし、さすがに疲れが出たのか、よろめいてしまう。
そしてその私がいままで作らなかった隙をみて、翼族の一人が私に拳を叩き込む。
「く!」
鉈の刃の側面でガードしたが、私は吹き飛ばされ、木に体を叩き付けられる。
私が動けないその隙に、翼族が5人ほど小人族に陣営に入って行こうとする。
「待て!」
私が叫んでも誰も反応しない。
私はふらつきながらも、地面に立ち、一番後ろの一人を切り裂く。
しかし、仲間の叫び声を聞いた他の4人はすぐさまこちらを向いて襲ってくる。
「やば!」
私は迎え撃とうとするが、先ほどの衝撃で体が自由に動かず、鉈を叩き落される。
「女の癖に何人も仲間を消しやがって。」
翼族の一人がそう言うと、私の腹部に蹴りを叩き込む。
咳き込む私を見て、他の翼族が嘲笑する。
「はは!さっきまでの威勢の良さはどこにいった!」
そう叫びながらまた一発蹴りを入れられる。
「おい、この女は俺たちの村に連れて行こうぜ。」
ニタニタと気持ち悪い笑顔をした翼族がそんなことを提案する。
その提案に他の三人も嬉しそうに賛成し、
「じゃあ、まずはこいつを引き摺って小人族のところに行こうぜ。」
と言って私の脚を掴む。
「や、やめ、ろ。」
私がそう言うも、はっきり言って限界が来ており、とても弱々しかった。
「はは。諦めるんだな。女。」
そういって私を引き摺って翼族達が歩き始めようとしたその時、
「天野さんに何をしてんだ!!」
大きな声が聞こえてきて、次の瞬間翼族の一人が大きく吹き飛ばされる。
そこには、全身傷だらけの『佐藤 武』がいた。
翼族の三人は仲間が吹き飛ばされたことに驚いていたが、
「何しやがるんだ、このくそがきぃ!」
と叫びながら武に躍り掛かる。
が、最初の一人目は武の蹴りによって、首を折られ、
二人目は武の取り出したナイフで胸を突かれ、
三人目は渾身のストレートで吹き飛ばされ、
倒れた所を武が拾い上げたナイフで一突きにされた。
「天野さん!大丈夫ですか?!」
武の声が聞こえたが、天野は返事もできずに意識を失った。
~翼族陣営~
「ふぅ。やっと着いたか。」
俺は小さく呟く。
目の前には帳があり、翼族の陣地を囲っている。
奥には翼族の族長がいるのだろう。
「行こう。北条。」
俺は隣で緊張のためか一言も発しない北条を促して中に入って行った。
「ふむ。思ったより早かったな。」
翼族の族長は静かに声を発する。
「わが名はクウ。我々同胞の長をしておる。」
「俺は服部信也だ。」
「・・・北条夕日。」
俺たちも名乗りを上げる。
「おい、クウ。」
俺は翼族の族長に呼びかける。
相手はどうやら俺の話に耳を傾ける気になったようだったので話を続ける。
「なぜ、小人族の鍛冶師を攫ったんだ。
武器を独占するのなら、小人族全体を味方につければいいじゃないか。」
俺はそう問いかけた。
しかしクウはイカツイ顔に似合わず「キョトン」としたような顔をして、
「さて、何の話をしているのか分からんな。」
と言った。
俺が次の言葉を紡ごうとすると、いきなり北条が
「しらばっくれるな!!」
そう叫ぶと同時にいきなり矢を射た。
「おっと。」
クウはおどけたように矢を避ける。
「ふむ。あくまで戦いの意志を見せるのなら戦うまでだ!」
クウは叫び、北条に向かって駆け出した。
俺は反射的に『ライト』を抜き、クウに銃口を向け、引き金を絞る。
瞬間クウは弾かれたようにこちらをむき、
体の前に翼を掲げた。
俺は一瞬躊躇したが引き金を最後まで引く。
すると射出された弾丸はクウに向かっていき――――――――翼に弾かれた。
「「なにっ!」」
俺と北条は驚愕する。
その薄く見える翼はいとも簡単に弾丸を弾き飛ばしたのだ。
「ははは。何を驚いているのだ?」
クウは楽しそうに笑う。
俺と北条は未だに茫然としていた。
何をどうしたら肉体の一部で銃から射出された弾丸を弾くことができるのだろうか。
「ふむ。あまりにもわしの『硬化術』が素晴らしくて言葉も出ないか?はっはっは!」
俺は茫然としながらも頭だけは働いていたので、反射的に問い返す。
「『硬化術』?」
俺が困惑しているのが分かったのだろう。
「ふむ。情報に疎いのう。異邦人。」
クウがそう言う。
しかし、またもや信也はついつい質問をしてしまう。
「異邦人!?何でそのことを・・・」
クウは俺がさらに驚くのを見て可笑しそうに笑う。
「くくっ。簡単なことよ。
背丈を見れば、小人族ではないことが分かり、
翼を背に持たぬことから、翼族でないことが分かり、
口から大きな牙を生やしておらぬことから、牙族でないと分かり、
硬き鱗を持たぬことから、竜族でないと分かり、
見ただけで、樹族でないことが分かる。
つまり、お主らは伝承にある『異邦人』
言い換えれば、『我々を破滅に導く者』であることは容易に想像がつくだろう。」
俺はクウの話をじっと聞いていた。
破滅に導くとは穏やかでないが、それよりも信也は別の情報を欲していた。
「で、『硬化術』についての話はどうなった?」
俺はできるだけ落ち着いた声を出すように努めた。
「『硬化術』それは翼族でも数人しか使えない『業』じゃ。」
そういうとクウはまるでもう何も言うつもりはないと言うように、構える。
俺と北条も相手の動きに集中する。
「はっ!」
クウはその翼を使い、滑るようにして俺の方へ向かってくる。
近接戦闘に持ち込むつもりなのだろう。
俺はそう判断すると銃をホルスターにしまい、
カラーコンタクトを外した。
俺の眼が青いのを見て、クウは驚いたようだが、速度は落とさずに近づいてくる。
「どりゃぁ!」
相手の正拳突きが俺の鳩尾に向かって放たれる。
しかし俺は体を回転するようにしてその拳から逃れ、
その回転の勢いのまま蹴りをクウに叩き込む!
しかし、クウは歴戦の戦士でもある。
蹴りを受けながらもその翼で体を宙に浮かせ、衝撃を後ろに滑空しながら受け流す。
すると、ちょうどそのタイミングでクウの死角から北条が矢を射る。
しかし、あろうことかクウは北条の方を見ることもなしに、
翼を掲げてそれで矢を阻んだ。
「なにっ!」
北条が驚愕の声を漏らすが、信也とクウはその声が聞こえていないかのように、
一瞬の気も北条に向けない。
再びクウが信也との近接戦に持ち込む。
信也は一撃一撃は軽いが、その身軽さと眼の力で、
攻撃を当てては少し距離をとり、また攻撃を当てる。といった戦法を取る。
対してクウはその強靭な肉体を活かし、
一度当たれば全身が粉々になるのではと思うほどの力強いパンチと
信也の攻撃を何度も受けながらも全く傷もつかないその体をつかう、
一撃必殺型の戦法を取る。
次第に信也にも疲れが来たのか、動きが若干鈍り始める。
クウの攻撃はまともに当たることはないが、何度も信也の体を擦める。
対してクウは何度も信也の攻撃を受けているが、
かすり傷はおろか、疲れさえ見えない。
それから二分ほどその攻防が続いただろうか。
ついにクウの正拳突きが信也の腹部を捉えた。
「信也!」
北条が叫ぶ。
さっきからあの激しい攻防に入ることができなかった北条は、
もちろんその間に何もしなかったわけではない。
しかし、信也が攻撃を受けて、ピクリとも動かなくなったため、
北条は茫然と立ち尽くしてしまった。
しかし、敵はそうもいかない。
北条が立ち尽くしている間にもゆっくりと歩きながら北条に向かってくる。
北条とクウの距離が先ほどの半分ほどに縮まったころであろうか。
北条がいきなり叫ぶ。
「よ、よくも信也を!」
彼女は泣くように叫ぶと同時に先ほど作っておいた仕掛けを使用する。
まずは手元にある水風船のような物体をクウに投げつける。
クウはそれを北条の悪あがきだと思ったのだろう。
片手でその水風船の様な物を払いのけようとする。
しかし、その水風船はクウの手に当たった瞬間に弾け、
中の液体をクウに浴びせる。
「む、何だ『これ』は!?」
クウが慌てたように叫ぶ。
「『油』」
北条は端的に答えを返すと、即座に火種を地面から拾い上げ、
一本の矢の先端に灯す。
「なっ!火矢だと!?」
クウが慌てたように叫ぶ。
そう。彼の体中にかかっているのは油だ。
もちろん翼にもその油は付着、否、染み込んでいる。
たとえ矢を翼で弾き返しても火が翼に点いては無事でいられないだろう。
北条の矢をいる時の正確さは先ほどから何度も矢を受けているので十分に分かっている。
つまり、避けるほどの隙も無い。
クウは一瞬でそこまで考えると、翼を交差するようにして体の前方で構える。
北条はなぜそのような格好をしたのかよく分からなかったが、
反射的に矢を射る。
今のあの格好から矢を避けるのは無理だと瞬時に判断したからだ。
クウは矢が放たれた瞬間に体中の力を振り絞り、翼を広げた。
交差されていた翼が一気に広げられたので、強風が前方に発生する。
その風は北条の放った火矢の火を一瞬で消し、次いで矢自体も失速させ、落とした。
北条はまた、茫然とする。
必ず当たると思っていたその攻撃は不発に終わった。
彼女には打つ手が無かったのだ。
クウは火矢を迎撃したことで、安心しそうになった。
しかし、彼の戦場で培われた感が後方から迫りくる敵を察知する。
言うまでもないだろう。
信也である。
信也はクウの攻撃で気絶したふりをして、機会を窺っていた。
そして、火矢を迎撃するためにクウが翼を交差させたその瞬間、
信也は飛び起きて、地を這うような低姿勢でクウに向かって走る。
クウが気付いた時には信也は距離を半分ほどに縮めていた。
クウは焦った。
今のこの体制ではあの異邦人の持つ武器から逃れるすべはない。と。
彼は一瞬の逡巡のあと、『とある行動』に出た。
信也は確信した。「勝った」と。
しかし、視線の先のクウが驚くべき行動に出る。
彼は左の翼を無理やり停止させ、右の翼が生み出す風で体を反転させようとしたのである。
信也は驚いた。クウの左の翼は今の動きでだいぶ負担がかかっただろう。
しかし、信也はそんなことに対して驚いているのではない。
自分が思いもつかない行動をクウがしたことに驚いたのだ。
信也は焦りと驚きのせいで注意力が鈍る。
その瞬間足の裏に硬い感触がする。
石だ。石を踏んでしまった。
信也は一瞬でそれを悟る。
しかし、それが分かった所で意味はないだろう。
この機会を逃せば、クウに勝つことはできないだろう。
信也は諦めたくなかった。
クウを倒すことにこれほど執着していることに彼自身驚いていた。
しかし、同時に納得する。
「あなたのお父さんも負けず嫌いだった」
母がよくそう言っていた。
信也はどうしても元の世界に戻りたいのだ。
こんなところで死ぬわけにはいかない!
彼は折れかけたその心を支えなおし、
クウの方をむく。
足の裏には依然石の感触がする。
しかし、信也は全神経を足の裏に集中させる。
「間に合わない」
それはもう分かっていた。
だが、信也は諦めない。
クウの方に向かって踏み出したその瞬間。
信也は状況の変化に驚いた。
彼は今さっきまで、石に躓き、転びそうになりながらも懸命に前に駆けた。
そして次の瞬間、彼はクウの懐に入り込んでいた。
混乱する頭を落ち着かせながら、信也は滑らかな動きで『レフト』を抜く。
そして銃口を驚いた顔をしているクウの胸に当て、引き金を引いた。
「パーン」
戦場にこだまする銃声と共にクウの体は灰になり、風で吹き飛ばされた。
後には何があったのか分からないという顔をした信也と北条が立ち尽くしていた。




