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平和な一日

「はあ、はあ。」

信也は地面に仰向けに倒れている。

隣の北条も荒い息をつき、へたりこんでいた。


しかし、二人とも先程の現象が信じきれないがために、一言も交わすことなく 、様々な思想を巡らせていた。


生身の人間が一瞬で移動したのである。


やがて、信也は一つのことに気づいた。


「確か俺はあの瞬間、石に躓いたきがする・・・。」

それを聞いた北条の動きは素早かった。


その一瞬前まで信也のいた場所に駆け寄り、辺りを見渡す。

果たしてそこには、信也の言った通り、『石』があった。


『緑色の輝く石』が。



これは一体なんなのだろうか・・・。

信也は無理な動きをしたがために身体中がボロボロの状態でありながら、帰り道にそんなことを考える。


北条はそんな信也を一生懸命支えている。


結局、信也たちが陣地に着くまでの間、明確な答えは出そうになかった。




「ふむ、それは『龍石』じゃな。」

賢人は帰ってきた信也が真っ先に見せた『緑色の輝く石』を見て即答した。


信也はその答えを聞いて顔を強張らせる。

「龍!?」

元いた世界では想像上の生き物とされていた龍。


そんな生き物がいると知って、不安になったのだ。


しかし賢人はそんな信也の様子を見て楽しそうに笑う。


「はっはっは。そんなに怖がることはない。龍は危害を与えない限り、洞窟の中で静かに暮らしているのじゃからな。」


それを聞き、信也は無意識に安堵のため息をついた。


北条がそれを見て、信也があんなに心配そうな顔をしたところは見たことがなかったな。と心の中で呟いた。



「そういえば、天野と武はどこだ?」

賢人と話をしている途中に気づいた。

「む、そういえば。」

北条も思い出したようにつぶやくので彼女も忘れていたのだろう。


「ああ、彼らならあっちにいるよ。」

賢人が指をさしたのは救護用テントであった。


「武、入るぞ。」

「おう。」

答えがすぐ返ってきたところを見ると、俺たちが戻ってきたことには気づいていたようだ。


中に入ると、床には天野が寝かされており、武がその傍に腰を下ろしていた。

「輪ちゃんが無茶をしたそうだな。迷惑をかけた、すまない。」

北条が開口一番、武に謝罪する。


もちろん、武は北条がいきなり頭を下げるとは予想していなかったらしく、

「ほ、北条さん!頭を上げてください。俺にも非があったわけですし。」

といつもとは大違いな真面目な態度で返事をする。


「ほ、ほら、助けたことで俺の好感度も上がるかな~、なんて考えて行動しましたし。」

前言撤回をしよう。

今の一言で色々なものが台無しになった気がした。



「う・・・。」

微かにうめき声のようなものが近くから発せられる。


みんなで一斉に振り向くと、天野が目をこすりながら、上体を起き上がらせるところであった。


「輪ちゃん、大丈夫か?」

北条が不安そうに問いかける。

しかし天野はそんな心配など不要のようで、

「お腹減った。」

と起き上がってからの第一声がそれであったので、北条も呆れた様子でため息を吐いた。



その後、賢人は天野の要望に充分なかたちで答えようとしたようで、山のように料理を作り始め、結局、天野はその5割ほどを、俺たちは3人で3割ほどを食べた。


小人族は体が小さいので2割ではあるが、天野の食べる量とスピードに気圧されたようで、途中で食欲が失せたものも多くいたようだ。

天野は食事を終えた後、満足したようで、自分の部屋に戻りすぐに寝てしまったので、俺たち3人は今後のことを相談するために賢人の家で会議を行うことにした。


「さて、今回の成果から発表使用かのう。」

賢人お顔には笑みはないが、安心したような雰囲気が滲み出ている。



結果、どうやら俺たちが派手に戦っている間に人質は救出したとのことだった。


「そうか、それは良かった・・・。」

「そうじゃな、本人もピンピンしとったわい。」

賢人も落ち着いた声色で呟く。


「そうか、ならよかった。」

俺は心にも思っていないことを呟いた。


結局その後、小一時間ほど話をして俺たちは宿へと向かった。

天野も途中から元気そうで昼食の席では俺や武が唖然とするほどの量の食料をその小さな体に詰め込んでいた。



「ちょっとお風呂入ってくるね。」

天野と北条がそう言ってお風呂に行ってしまったので、俺は手持ち無沙汰になり、部屋で銃の整備をしていた。


「そうだ、弾もまた作らなくちゃな。」

すっかり打ち解けてしまった鍛冶屋のおやじに頼みに行こうと思い、外に出る。


「武、調子はどうだ?」

外で筋トレを行う武はとても真剣な様子だった。

天野に怪我を負わせてしまったことに責任を感じ、「俺は天のさんを守れる漢になるんだ!」

と意気込んでいるのだ。


「ああ、結構調子はいいぜ。」

汗だくの中満面の笑みを浮かべているので俺は少し安心した。

あまり責任を感じすぎるのも考えものだと思っていたのだ。


「これからどこか行くのか?」

どうやら鍛錬を終えたようで汗を布で拭きながら尋ねてくる。

「ああ、弾を補充しに鍛冶屋へな。」

「ああ、なるほど。ところで天野さんは今どこにいるんだ?」


あの二人の部屋に人気がないことは外からでもわかるのだろう。

「ああ、北条と一緒にお風呂に出かけていったよ。」


・・・行ってから気づいた。武にこんなことを言ってはダメだと。

案の定、

「お風呂・・・だと・・・?」

らんらんと目を光らせる武を見て俺は速やかに離脱を試みる。


「じゃあなたk・・・」

頭を掴まれた。おかしい全く抜け出せない。


「信也。」

「ああ、なんだ?」

「天野さんの調子、気になるな。」

「ああ、そうだな。でも本人が大丈夫と言ってるから問題ないだろう。」

「いやいや、もしかしたら無理をしてるかもしれないだろう。」

「昼食の時も飯を大量に食べてたじゃないか。」

俺のツッコミはもちろん無視される。


「お風呂という場所は入った人をリラックスさせる効果がある。

 つまり、天野さんが無理しているのならお風呂に入っている時の様子で調子がわかる!」

クワっと目を開いて良い口実ができたと思ったのだろう。

武は俺に向かって

「信哉、俺たちも風呂に入ろう。」

阿呆なことを言い出した。


「これがこの世界の銭湯か。」

結局、俺はあの握力に抗うことができず、銭湯まで連行されてきた。

「やめたほうがいいぞ、武バレたら殺される。」

俺は今もなお、説得を試みるが武には届かない。


「大丈夫だ。天野さんならきっと許してくれる。」

一体どこにそんな根拠があるというのか・・・。



「さあ、いざゆかん。女神の住まう聖地へ!」


「・・・いや、住んではいないがな。」




お風呂にゆっくりと浸かる。

「久しぶりだな、こんな温かい風呂に入るのは。」

この世界に来てからというもの、いろいろなことがありすぎてゆっくり風呂に入る機会もなかったのだ。


さて、ここに来るきっかけを作ってくれた武には普通なら感謝の念を持つところであるが、当たり前だがそんなものは持つことができない。

どちらかというと侮蔑の念が九割九分を占めている。

残りの一分は自分が巻き添えになるかもという恐怖だ。


「さて、特殊任務を遂行する・・・。」

武は馬鹿なことを呟いて女湯との仕切りの方へ歩いていく。

一応小人たちの風呂とはいえ、外来客もいるので仕切りはそこそこ高い。

しかし、そこそこだ。

武は持参した木の台を置いて奥を覗き込もうとする。

今ちょうど小人たちは仕事に出かけているのだろう。男湯は誰もいなかったので咎められることすらない。


「さてさて。」

気持ち悪い笑みを浮かべた武が奥をゆっくりと覗き込み、

飛んできた風呂桶がカポーンといういい音を鳴らし、武は地に伏せた・・・。


武の死の間際の一言は、

「なぜ、小人しかいないんだ・・・。」

であった。


もちろん、小人の女性は仕事があるのは食事を作る夜だけだ。

昼にお風呂に入っていても何ら問題はない。

では、北条と天野はどこにいるのだろうか。



~夕日side~


輪ちゃんの傷が完全に癒えていないことは一目でわかった。

だからこそ彼女をこの秘湯に連れてきたのだ。

村から少し歩いたところにある、湯治場だ。



「輪ちゃん、調子はどう?」


気持ち良さそうにしている私の親友に話しかける。

佐藤のことは恨んでいない。

ただ、輪ちゃんか怪我をしたことについて私も少しは責任を感じているのだ。

彼女は信也と、服部 信也とともに戦場に向かわせるべきだったと。


~輪side~


「輪ちゃん、調子はどう?」


夕日が話しかけてくれる。

それだけで私は幸せだと感じている。

最高の親友。それは一生涯の宝だ。


しかし、親友でありながらも夕日はライバルだ。

佐藤 武は私を助けてくれた。

嫌ではあるが、命の恩人だといえる。

しかし、それ以上のものは芽生えなかった。


私は強い人間が好きだ。

そして、昔からその人は決まっている。

あの時私は服部、服部 信也に負けて確信した。

彼こそが私が追い求め、探し続けていた、10年前の彼なのだと。





「寒いな。」

武が隣でつぶやく。


まあ、当たり前だろう。

このバカは結局あのあと服も着させられずに番頭に説教されていたのだ。



「やあ、服部、佐藤。」

北条と天野に宿の前で出会う。


「あの、北条さんと天野さんはどちらに行ってらしたんですか?」

武が間髪入れずに気持ち悪い口調で質問をする。


二人はキョトンとした顔で俺の方に顔を向ける。

風呂に行くと俺に伝えたからそこから聞いているはずだと思ったのだろう。

「ああ、俺は風呂に行ったと言っておいたよ。」

そう言うと二人はますます困惑したような顔をして武の方を向く。



「だって、二人共お風呂にいなかったじゃないですか!」

その一言で天野と北条に殺気がこもる。

「へえ、お風呂にいなかった、ねえ。」


武は失言に気づいていないようで、目線が俺と天野と北条の顔を行き来している。


「武、墓穴を掘ったな。」



結局、武はその夜、部屋に帰ってこず、翌朝川に浮かんでいるところを救助された。


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