武器作り2
「武、朝だぞ。」
俺は昨日の様にならないようにと思い、武を起こそうと声をかける。
しかし、武の寝起きの悪さは酷いものだった。
どんな起こし方を試したか列挙してみると、
1、声をかける(途中で隣の部屋(北条と天野)から声がでかいと苦情が来た。)
2、携帯の電源を入れ、アラームを最大音量で鳴らす。(またうるさいと言われた。)
3、北条と天野に協力してもらい、銅鑼を運び込んで鳴らす。
(10回鳴らしても起きなかった。)
4、ベッドから落とす。(もちろん起きない。)
5、村の子供の小人が乗って飛び跳ねる。(なぜか起きない。)
ここまでやった所で、俺は最終手段を用いることにした。
「天野、頼む!」
そう、天野に起こしてもらおうとしたのだ。
もちろん、天野の反応は、
「いやだ!ぜっっっったい い・や・だ!!」
と叫んでいた。
なので俺と北条で拝み倒すと渋々、声を一回だけかけるということで妥協された。
「じゃあ、天野頼む。」
「う~。しょうがないな~。」
天野が武に近づく。(といっても1mは離れている。)
「佐藤く~ん。朝だよ~。」
天野が蚊の鳴くような小さな声で呼んだ。
いやいや、それはダメだろう。と俺と北条が思った瞬間、
ガバッ!と武が起き上がり、天野の方へ突進していく!
「いやっ!」
天野が反射的に持っていた金槌を振り落す。(もちろん護身用だ。)
しかし!武は紙一重でその攻撃を避ける!
「なっ!」
天野が小さく悲鳴を上げる。
「あまのさ~ん。」
武が天野に抱き着こうとするその刹那、
「せいっ!」
俺の回し蹴りが武を襲い、きれいに吹き飛んでベッドに落ちた。
「さて、出発しようか。」
2時間後俺たちは村の門へと向かった。
「今日はどこに行くんだっけ?」
武が俺に聞いてくる。
ちなみに武は俺の回し蹴りを受けたのに無傷である。
曰く、「鍛えているから。」だそうだ。
まあ、空手でいい成績を修めているから当たり前だろう。
「ああ、森の方へ木材を取りに行くんだ。ご神木を。」
「よし、あと1時間ほどで森の中心部だな。」
俺がそう言うと、
「す、少し。少しだけ休憩をくれ~。」
武の情けない言葉が聞こえてくる。
北条と天野は疲れを全く感じさせないほどしっかりと歩いているのに対して、
武はさっきから何度も倒れそうになっている。
しかし、何度も倒れられても面倒なので、倒れそうになるたびに、
「天野ってタフな男が好みなんだって。」
とさりげなく耳に入れさせたり、
「服部君って体力あるね!」
と天野に言わせたり、
「輪ちゃんに勝つための必勝法は?」
と北条に天野に質問するようにして話しかけさせて、
「もちろん、体力をつけることだよ!」
と天野に答えさせて、武の体力の限界を超えさせていたのだが、
「もう、流石に、無理、だって。ハァハァ。」
と言うので仕方なく、
「5分だけ休憩するか。」
と時間を作った。
「お、あれが神木じゃないか?」
北条の声に俺たちはそちらを向く。
たしかに先の方に木が見える。
「おっ、でかいな。」
みんなも俺と同じ感想の様で口々に感嘆の声を漏らしていた。
「これが神木か。」
到着したときの俺の呟きは三人に届いていない。
ただ、その大きさの前に全員は言葉を失い、じっと神木を見ていた。
「「ワオオオオオオ!!!」」
突如、獣の叫びが聞こえる。
「なんだ!」
全員が辺りを見渡す。
「そこ!」
天野の指差す方を見る。
そこには真っ白なオオカミと真っ黒なオオカミがこちらを見据えていた。
「やばくないか?」
武の疑問はもっともだ。
狂気に満ちた目は俺たちをしっかりと捉えている。
「これはやばいな。」
一応昨日のこともあったので、武器としてナイフは持ってきているが心許ない。
「逃げるか?」
俺は一応聞いてみる。
しかし、天野と武は強そうな敵の前に爛々と光っている。
北条も薄らと笑みを作っている。
「やれやれ。」
俺は嘆息する。
しかし、俺も自分が小さく笑みを作っているだろう事が分かっていた。
武が飛び出す。
「せいっ!」
拳を振るが、黒いオオカミは綺麗に避ける。
「えいやっ!」
そこに天野の強烈な蹴りが入る。
「ガウッ!」
黒いオオカミがそれすらも余裕を持って回避するも、
ジャンプした瞬間に武が拳を腹に打ち込んだ。
「グガァ!」
オオカミが悶絶するも、二人は更に追い打ちをかける。
白いオオカミは黒いオオカミを助けようと飛び出そうとするが、
前に駈け出そうとするタイミングに信也の天野と比べても遜色のない強烈な蹴りが襲う。
「グルゥゥゥゥ。」
白いオオカミが威嚇をするが、信也相手には意味をなさない。
「ガオゥ!」
一気に信也に飛び掛かる。
信也が後ろに跳びながら避ける。
ところが3回ほど跳んだところで、木に背中が当たってしまった。
「やばっ!」
信也が小さく呟くと白いオオカミが好機と見たのか思いっきり前へ飛び出す。
だが、
「なんてな。」
信也がおどけたようにそう言うと同時、それまで息を潜め、
チャンスを待っていた北条が短刀を手に白いオオカミの前に躍り出る。
「ふっ!」
息を吐きながら北条が短刀を振るう。
白いオオカミも途中で北条の存在に気付いたが、
勢いを殺し切れず、短刀は前足に切れ込みを入れた。
「ギャオオオオ!!」
激しい叫びが辺りに響く。
白いオオカミの叫びに黒いオオカミが反応しこちらを向く。
と、天野が黒いオオカミの集中が切れたのを好機とみて、
思いっきり蹴りを叩き込んだ。
「キャウンッ!」
黒いオオカミが鳴く。
そして吹き飛ばされて、白いオオカミの近くに着地した。
信也たち4人も一ヶ所に集まる。
「楽勝だな。」
武が笑みを浮かべながら言う。
・・・1時間後
「げほっ。げほっ。」
武が疲労のために地面に伏していた。
「おい、楽勝じゃなかったのか?」
俺が声をかけても顔すらあげない。
「天野。頼む。」
俺がそう言うと、天野が嫌そうな顔をしながら、
「佐藤君。もう少しだけ、がんばって?」
と言うと、
「はい!!」と武が勢いよく立ち上がり、オオカミに向かって突進していった。
「これで二十匹目だな。」北条の呟きを聞き、俺と天野が同時にため息を吐く。
そう、これで(武が)倒したオオカミは二十匹にもなったのだ。
「もう少しで神木に辿り着きそうなんだが・・・」
俺がそう言っても、誰も反応しない。
当たり前だ。さっきから全く神木と俺たちとの距離が変わっていないからだ。
もちろん俺たちは移動をしている。かれこれ5㎞は歩いた(走った)のではなかろうか。
「お、終わったみたいだな。」
視線の先にはちょうどオオカミの首に蹴りを入れて、意識を刈り取る武が見えた。
「この道を抜けたら、神木の所に出ますように。」
俺たちは何回目になるかわからない祈りをしながら道を進む。
しかし、
「なあ、服部。この道には終わりがあるのか?」
北条の言いたいことも分かる。
俺の体感では最後にオオカミと戦ったところから1㎞は歩いたのではないかと思う。
「うう、疲れたよ~。」
天野の声に反応して、さっきまで死にかけていた武が、
「天野さん!俺がおんぶしますよ!」
と叫ぶと、天野が見事な回し蹴りを叩き込んだ。
「天野、あまり武を蹴ってはいけない。」
俺がそう言うと、武がこっちを見て嬉しそうにしていた。
「でも、服部君――――」
天野が何かを言おうとしたときに俺は言葉をかぶせた。
「武が使い物にならなかったら、だれがオオカミを倒すんだ?」
俺がそう言って時の武の顔は一生忘れられないだろう。
「これは・・・」
俺はそう言って二の句が継げなくなっていた。
道を抜けた先は小人の村の広場と同じくらいの大きさの開けた草原があった。
そしてその中央に『それ』はあった。
全員が『それ』をじっと見つめる。
「信也、これが『神木』なのか?」
俺は返事ができなかった。
俺たちの目の前には『腐った巨大な木』があったのだ。
「これはどういうことだ・・・」
俺は返事を期待したわけではなかったが、
≪あなた方はこの世界の住民ではないのですね≫
後ろから突如、声をかけられた。
俺たちに声をかけえ来たのは、神木の『守り神』であるという精霊だった。
≪この神木は1か月ほど前、ある種族によってこのような姿にされてしまったのです≫
そう精霊が話しかけてきた。
そして2つのことを教えてくれた。
1、この木を腐らせたのと小人を攫ったという種族は同一であること。
2、俺たちが元の世界に戻るには『じんじゃ』と呼ばれる場所に行く必要があること。
である。
特に2つ目の情報は俺たちにとってとてもありがたかった。
しかし
≪申し訳ありませんがその『じんじゃ』がどこにあるのかは分からりません≫
と言っていたのであまり役には立たなかった。
俺たちはそれを聞き、逆になぜここに来たのかを聞かれ、
正直に話すべきか迷った末、神木の枝を一本だけ取りに来たのだと打ち明けた所、
≪これは私が神木から定期的に切り落としていた枝の一本です≫
と言って、枝を一本差し出してくれたので、目的自体は達成することができた。
≪代わりにこの神木をこの様な姿にした種族を成敗してほしい≫
と約束させられた。
信也以外の三人は神木を貰えた喜びのせいで舞い上がっていたので聞いていなかったが・・・
「「「「ありがとうございました。」」」」
俺たち四人はそう精霊にお礼を言って、森を小人の村に歩いていった。
余談だが、武は再び回復したオオカミ×20を倒しながら帰って行った。
「よし、これで鉈と弓の完成だ!」
鍛冶屋のおやじの威勢の良い言葉を聞いた俺たちは満足そうに微笑みを浮かべていた。
「信也、明日からはどうするんだ?」
武器を受け取った俺たち4人は宿に戻り、俺と武の部屋で話していた。
「ああ、明日は防具を作ろうと思う。」
「防具?つまり服部、鎧や甲冑のようなものを作るのか?」
「いや、防具と言っても動きやすさ重視の軽装だ。」
「それは作る意味があるのか?」
北条が不思議そうな顔をしていたが、
「ま、明日説明するから。」
俺はそう言って2人を部屋に帰した。
「じゃあ信也。電気消すぞ?」
武の問いに俺は頷き、布団をかぶった。
『影』は今日もそこにいた。
小人の村の片隅に鍛冶屋の中をじっと見ていた。
「これでいいのか?」
鍛冶屋のおやじの問いかけに無言で頷く。
そして『影』は『それ』を受け取る。
月明かりを受けて輝く『それ』を自分を見ている。
別の『影』が自分を見ていることのに気付かずに。




